優雅に大海原を泳ぐ姿が堂々としているウミガメ。寿命も長く、長老のように万物を悟っているような凄みさえ感じる生き物です。この記事では、そんな彼らの生態や種類ごとの特徴、産卵時に涙を流すワケや、生まれたばかりの赤ちゃんの特殊な能力などについてわかりやすく解説していきます。あわせてウミガメの暮らしがよくわかる関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
カメ目ウミガメ上科に分類される爬虫類です。日本人であればほとんどの人が知っているであろう有名な昔話、「浦島太郎」にも登場します。作中で主人公を竜宮城へ連れていってくれました。
南極海以外の世界各地の海洋に生息しています。実は「浦島太郎」をめぐっては、その物語の舞台がどこなのか、さまざまな議論がなされています。海外の物語を元にしたという説もありますが、ウミガメの分布領域は広いため、彼らの生息地から場所を特定するのは難しいといえるでしょう。
体の特徴は、なんといっても大きなヒレです。体長は種類によって異なりますが、大きいものだと200cmを超える種類もいるのだとか。また寿命は長く、100~200年生きることもるようです。
ウミガメの歴史は古く、紀元前の恐竜がいた時代から生存していたといいます。さらにさかのぼってみると、彼らの祖先は陸上で暮らしていたカメでした。徐々に海での暮らしに適合するよう進化していったと考えられているのです。
その進化の過程は、彼らの体の構造に大きな変化をもたらしました。ウミガメは産卵時以外のほとんどを海中で過ごしていますが、体内は魚類のような構造ではなく、肺で呼吸をする爬虫類です。そのため、時々は水面に上昇して息継ぎをしなければなりません。
ただ非常に長い時間呼吸を止めることができ、じっとしているだけでよければ最長で5時間ほど息継ぎをしなくてよい能力をもちあわせているのです。
世界中の海に生息しているウミガメの種類は全部で8種。そのうち日本の海域にも暮らしているのが6種です。代表的なものをご紹介しましょう。
アオウミガメ
沿岸部で暮らしていて、ダイビングなどをした際にもっとも出会う確率の高い種類です。「アオ」とありますが実際は赤と茶色、黒などさまざまな色が混ざった体色をしています。体長は90~110cmほど。
ちなみにアカウミガメもいますが、こちらは沖合にいることが多く、遭遇する確率の低いレアな種類だといえるでしょう。
タイマイ
綺麗な海を好み、サンゴ礁が発達した熱帯や亜熱帯に生息しています。日本は世界のなかで最北の生息域で、奄美諸島よりも南の領域で見ることができます。
サンゴの隙間にいる獲物を食べるため、口先が鳥のくちばしのように尖っているのが特徴です。
オサガメ
絶滅危惧種に指定されている種類です。世界最大のカメといわれていて、甲羅だけで150~200cmほどあります。
甲羅には縦線が入っていて、まるで競輪選手のヘルメットのようなスマートな形状をしています。見た目はかっこよくて強そうですが、実は甲羅が固くなく皮膚でおおわれているため、弱くて繊細。水族館などの施設で飼育をするのには向いていません。
どんな動物でも、新しい命の誕生は感動的なものです。ドキュメンタリー番組などで見るウミガメの産卵シーンが輪をかけてドラマティックに見えるのは、そこに「涙」があるからでしょう。苦労して卵を産む姿を思うと感慨深さがわいてきますが、実はコレ、人間が考えているような涙ではないんです。
ウミガメの目には「塩類腺」と呼ばれる、体内の塩分濃度を調整する役割をもった涙腺があります。日ごろ海中で過ごしている彼らの水分補給はもちろん海水。しかしそのまま体内で吸収すると、塩分を摂取しすぎていることになってしまいます。
そのため彼らは塩類腺を使って、体内の余分な塩分を体の外に排出しているのです。
つまり、産卵時に感動や痛みなどで涙を流しているわけではなく、普段から涙は出ているということ。海中にいるからわからないだけでした。産卵時は陸に上がるので、涙がキラリと光って人間の感動を誘うのです。
ウミガメの卵は産み落とされた後、母親によって砂をかけられ、誕生の瞬間を待ちます。孵化するまでに要するのは2ヶ月ほど。生まれてくる赤ちゃんの性別は、この時の温度で決まります。約29度を境にして高ければメス、低ければオスが生まれてくるそうです。
人間の赤ちゃんであれば、生まれた時から手厚い保護を受けますが、ウミガメの場合は殻を破った瞬間からサバイバルがはじまります。浜辺から沖合に出るまでが、一生のうちでもっとも死亡率が高いといわれているのです。
そのため彼らは、自分の体を「フレンジー」という興奮状態にします。フレンジーの効果が続いている1~2日の間は、眠ることも餌を食べることもせず、ひたすら沖合を目指すのです。浜辺ではヘビが、また沿岸にとどまっているとカモメや大型の魚などに襲われる恐れがあるからです。
ちなみにウミガメの赤ちゃんは、少しでも生き残る個体数を増やすために、巣穴からの脱出は夜に一斉におこないます。彼らは紫外線を見ることができるため、真っ暗な状態でも海の方向がわかるそうです。
- 著者
- かわさき しゅんいち
- 出版日
- 2017-04-28
人間よりも長い寿命をもつウミガメには、人知を超えたパワーを感じるような気がします。生まれた瞬間からフレンジー状態になり、必至で生き延びて世界中の海を旅するのは、ロマンのある生き方だといえるでしょう。
本書は、そんな彼らの暮らしを追いながら、生きるということはどういうことなのか、読者に投げかけてくれる作品になっています。
子ども向けの絵本ではありますが、脚色を施してファンタジックに描いているわけではありません。ゴミだらけの浜辺に生まれた赤ちゃんが弱肉強食の海洋の世界でたくましく育っていく様子が詳細に描かれています。
タイトルは「ウミガメ」と「海の生態系の循環」のダブルミーニング。彼らの暮らしから自然を守ることを考えさせてくれるでしょう。
巻末には図鑑も収録されているので、生態もあわせて知ることができる一冊です。
- 著者
- 鈴木 まもる
- 出版日
- 2016-05-15
小説や漫画などで冒険の様子が描かれることは多々ありますが、ウミガメの人生はまさに命をかけた大冒険。本作には、日本で生まれた赤ちゃんが1万km離れたカリフォルニアを目指して太平洋を旅する様子が描かれています。
生き延びるためにさまざまな困難を乗り越え、目的の場所へ……読めばきっと勇気をもらえることでしょう。
また、実際にそこに潜ったかのようなリアリティのあるイラストも見事です。だからこそ、人間によって環境が破壊されていく様子には胸が痛みます。ウミガメはもちろん、海や自然が好きな方にも読んでいただきたい一冊です。