『論語』と聞くと、難しそうだと敬遠してしまう方も多いかもしれませんが、実はその内容は孔子の名言集。人生において大切なことを教えてくれます。この記事では具体的な内容や名言、有名な「為政」などについてわかりやすく解説していきます。あわせてもっと理解を深められるおすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
紀元前5世紀頃、中国の思想家であり儒教の祖である孔子の言行を、彼の死後に弟子たちが編纂した書物が『論語』です。孔子自身が執筆したものではありません。
『孟子』『大学』『中庸』とともに儒教における「四書」のひとつに数えられていて、官僚の登用試験である科挙の出題科目になるなど、中国思想の根幹をなしています。
孔子が生まれたのは、紀元前552年のこと。家はけっして裕福ではなく、身分も高いわけではなかったので、彼自身が特別な教育を受けたわけではないようです。
当時の中国は春秋時代で、周王朝がしだいに衰退していくなかで250以上の諸侯が乱立し、争っていました。秩序が乱れたことで血縁による封建体制が崩壊し、富国強兵の実現をはかる諸侯はより有能な人材を求め、実力主義による人材登用が盛んになります。
このような時代背景のもと、「諸子百家」と呼ばれるさまざまな思想家や学派が誕生していったのです。孔子もそのうちのひとりで、「仁(人間愛)」と「礼(規範)」にもとづく理想社会の実現を提唱しました。
『論語』が日本に伝えられたのは、紀元390年の応神天皇の頃。後に聖徳太子や空海が学び、現代に至るまで大きな影響を与えています。
2500年以上前に編纂されたもので、歴史上の偉人が学んだ書物と聞くと、難しい印象を受けてしまいますが、その内容は端的にいえば「孔子の名言集」です。
一般的な本のように、流れや起承転結があるわけではありません。たとえば難しい場面に突き当たり、読み進めることができずに挫折してしまうなんてこともないのです。
『論語』は孔子と弟子たちの問答で構成されていて、「子曰~」ではじまる500以上の短文が全20篇にまとめられています。時系列に沿っているわけではないので、順番どおりに読む必要もありません。
難しいなと感じた箇所は読み飛ばしたり後回しにしたりしても問題なく、実はとても読みやすい本だといえるでしょう。
『論語』に収められている数々の孔子の名言のなかから、代表的なものをいくつかをご紹介します。
「子曰く、人の己を知らざるを患(うれ)えず、人を知らざるを患うるなり。」
他者が自分をわかってくれないことを残念がるのではなく、自分が他者の価値を認めようとしないことの方を心配するべきだとして、自分から他者のよいところを探す努力をするようにと説いています。
「子曰く、異端を攻(おさ)むるはこれ害あるのみ。」
自分と違う意見や考えを持つ者を攻撃しても害があるばかりだとして、違う意見にも耳を傾けることこそが自分を成長させることになると説いています。
「子曰く、君子は義に喩り、小人は利に喩る。」
優れた人物は何をすべきかを考え、つまらない人間は何をすれば得かを考える。日頃忙しいと目の前のことに囚われてしまいがちですが、目標を見失わないことが大切だと説いています。
2500年以上前の言葉とは思えないほど、現代にも通じるものが多々あることに驚かされるのではないでしょうか。人生の哲学が詰まった『論語』のなかの名言を、座右の銘にしている人も多いです。
『論語』自体を読んだことがなくても、学校の授業などを通じて「不惑」という言葉は聞いたことがある人が多いのではないでしょうか。ここでは、もっとも有名だといっていい「為政」を原文・書き下し文・意味ごとに紹介していきます。
・原文
子曰、吾十有五̪而志乎学、三十而立、四十而不惑、五十而知天命、六十而耳順、七十而従心所欲不踰矩。
・書き下し文
子曰く、吾十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順う。七十にして心の欲する所に従えども矩を踰えず。
・意味
15歳の時に学問で身を立てることを決意し、30歳の時に学問を修めて自立。40歳の時には物事を決めるにあたり迷うことがなくなり、50歳で天から与えられた使命を悟った。60歳になると、自分と異なる意見を持つ者の言葉にも素直に耳を傾けることできるようになり、70歳でようやく自分の思いどおりに行動しても道を踏み外すことがなくなった、と孔子は自らの生涯を振り返って述べました。
この話から、「志学」「而立」「不惑」「知命」「耳順」など、年齢を表す言葉が生まれました。
一見、ただ人生を振り返っているだけのように感じるかもしれませんが、孔子ほど多くの人から尊敬を集める偉人でも、はじめから立派な人間だったわけではなく、学問で身を立てるために多くの時間と努力を払って自身を律してきたので、弟子たちも精進を劣らなければ同じ境地に達することができるということを説いています。
- 著者
- 出版日
- 1999-11-16
原文、書き下し文、現代語訳が併記されているので、漢文が苦手な方でも問題ありません。解説も詳細ながらわかりやすくまとめられていて、学校の授業の副読本にしてもよいですし、大人が読みものとして読んでも満足できるでしょう。
『論語』に書かれている内容は、よくよく考えてみれば当たり前のことも多いです。ただ見方を変えてみれば、現代も2500年前も物事の真理は不変だということではないでしょうか。
人生の区切りに、くり返し読みたい一冊でしょう。
- 著者
- ["藤子・F・不二雄", "安岡 定子"]
- 出版日
- 2016-10-27
『論語』に興味はあるけれど、やはりどうしても漢字ばかりの本を読むのは苦手だという方におすすめの一冊です。誰もが知る国民的キャラクター、ドラえもんのイラストつきで、するすると内容が頭に入ってきます。
本文の漢字にはすべてふりがながふってあり、小学1年生から覚えられる名言がピックアップされています。
小さい子どもであれば人格形成の礎に、大人であれば忘れがちな道徳精神を思い出すために、ぜひお手に取ってみてください。
- 著者
- 渋沢 栄一
- 出版日
- 2010-02-10
日本実業界の父と呼ばれ、470社以上もの企業の創立に関わった渋沢栄一。その経営哲学は『論語』にもとづく「利潤と道徳の調和」だといわれています。利潤だけ、あるいは道徳だけを追い求めても事業の成功はないのだそう。
本書のなかに散りばめられた渋沢の経営思想は、現代にも十分活きていて、まさにビジネスマン必携の一冊だといえるでしょう。内容は道徳とビジネスの話ですが、『論語』自体の解説としても十分に役にたちます。ある程度内容を理解した後に、どのように実行に移せばよいのか学べる作品です。
2500年以上前に編纂され、中国では長く必読の書とされ、日本においても多くの知識人が読みこんだ『論語』。そこに書かれている精神は、現代に生きる私たちにとってはもはや当たり前のこととして深く心に刻まれています。興味をもった方はぜひご紹介した本を読んでみてください。