夏の終わりになると、注意が必要な危険生物とされるヒアリ。ニュースやワイドショーなどで名前を聞かなかった日はないほど世間を騒がせた年もありました。この記事では、彼らの生態や特徴、目撃報告、日本のアリとの見分け方、毒性、天敵などについてわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
初めてヒアリの日本への侵入が確認されたのは、2017年の5月のこと。元々は南アメリカの熱帯から亜熱帯に生息する生物です。さまざまな手段で北アメリカや中国へと分布を広げ、日本へは中国から海路で渡ってきたものと考えられています。
分類はハチ目アリ科で、英名は「Fire Ant」といい、艶のある赤褐色の体色が特徴です。体長は2.5~6mm程度です。
日本での生息地は公園や畑などの比較的開けた平地で、他のアリと同様に雑食性が強く、昆虫や爬虫類の死骸、樹液、人間の食事のクズまで餌にしてしまいます。
また攻撃性の高さも特徴です。時にはネズミなど小型の哺乳類を集団で襲う姿も確認されており、繁殖力や順応性の高さも相まって国際自然保護連合が定める世界の侵略的外来生物ワースト100になっています。また、日本でも特定外来生物に指定されています。
日本の在来種であるアリとの最大の違いは、体色でしょう。日本のアリは全身が黒いですが、ヒアリは艶のある褐色をしていて腹部のみが黒くなっています。また腹部に2つのコブがあるのも特徴です。
ヒアリの大きさは、比較的若い働きアリや巣の見張りをおこなう高齢のアリなど、役割や年齢によって異なります。また大きさ自体は日本のアリと大差がないため、大きさや形で判断することは難しいのです。
ただ巣穴の形は特徴的です。地上に山のようにこんもりと盛り上がった蟻塚をつくります。その大きさは、1年以上経つもので直径30~38cm、高さ25cmにもなります。入口は外敵の侵入を防ぐために巣から離れた場所にあり、地下のトンネルを使って出入りをするそうです。
公園などで不自然に盛り上がった土を見かけた場合は、それがヒアリの巣である可能性があります。中には数十万匹もの個体が潜んでいる可能性もあるので、個人で駆除するのはほぼ不可能です。絶対に近寄らないようにしましょう。
刺された瞬間、焼かれたような激しい痛みがあることから「火蟻」と名付けられたほど高い攻撃性と強い毒性をもつヒアリ。
その症状は人によって異なります。軽度な場合は患部が赤く腫れて痛みやかゆみを感じる程度で、10時間ほど経過すると膿が出て水膨れのようになります。
中度の場合は1時間ほどで刺された場所を中心に体が広範囲にわたって腫れ、蕁麻疹が出ることもあるそうです。
そして重度の場合は、1時間ほどで息苦しさや眩暈、激しい動悸などを感じるようになり、意識を失うこともあります。これらの症状はヒアリの毒に対するアレルギー反応の可能性が高いため、放置しておくと死にいたる危険性もあることを知っておきましょう。
ヒアリの毒にはアルカロイドである「ソレノプシン」、蜂の毒と同じ成分の「ヒアルロニダーゼ」などが含まれています。そのためヒアリ自体に刺されたことがなくても、共通成分をもつ蜂に刺されたことがある場合は、アナフィラキシーショックが起きる可能性があるため注意が必要です。
もしも指されてしまった場合は、念のためすぐに病院を受診しましょう。
アメリカでは集団で子牛や鳥の雛を襲っている姿も確認されていて、天敵がいない印象がありますが、実は他のアリやノミバエといった小さな昆虫が天敵です。
特に「ゾンビバエ」と呼ばれるノミバエは脅威でしょう。ヒアリの体に体当たりをして卵を産み付け、体内で孵化します。そして幼虫はヒアリの体内を移動し、体から酵素を出してヒアリの頭を切断します。落ちた首から出てきた幼虫は、宿主だったヒアリの死体を食べて成長するのです。
またアルゼンチンでは、50種類以上のアリが分布しているため、生息地が競合している多種に襲われることもあります。ヒアリの毒が効かない種も多いので、アリの世界では決して強くはないのです。
このような自然界の天敵を利用して駆除することが、有効な手段だと考えられています。
日本では2017年の5月に発見されて以降、警戒が呼びかけられるようになりましたが、その後は一体どうなっているのでしょうか。
環境省の発表によると、2018年に入ってからは6月に大阪府の大阪市と岸和田市で、7月に愛知県の飛鳥村と瀬戸市で生きたヒアリの姿が確認されています。
これらはすべて中国からの荷物を乗せたコンテナ内で発見されており、粘着トラップや毒餌を使用して駆除をしています。
2017年に発見されたものも、コンテナ内や事業所の敷地内で駆除が完了していて、公園や市街地にまで拡大し定着したという例は確認されていません。
- 著者
- ["塩見 一雄", "山内 健生", "森哲", "成島 悦雄", "小野 展嗣", "和田 浩志", "仲谷 一宏", "吹春 俊光", "松井 正文", "篠原 現人", "小松 浩典", "夏秋 優", "上里 博", "松浦 啓一", "大和田 守"]
- 出版日
- 2017-06-23
人気の図鑑シリーズのなかでも、危険な生物のみを750種集めた1冊です。危険生物のなかで花形的な存在である熊やライオン、ホオジロザメといった巨大な肉食獣から、毒キノコまで幅広く紹介しつつ、各生物の毒に感染してしまった場合の症状や対処法のコラムも載せています。読みごたえ十分でしょう。
ヒアリを含む毒性のあるアリや、人間の皮膚を食いちぎるほど鋭い顎をもつアリについてもしっかりと解説しています。毒を噴射する瞬間をとらえた珍しい写真も見ることができます。
また、日本国内のどこに危険生物が潜んでいるのかを示したマップがついているのも嬉しいポイントです。付属のDVDにはクイズも収録しているので、親子で楽しみながら学べます。
- 著者
- 丸山 宗利
- 出版日
- 2017-07-28
アジアにおけるアリの研究の第一人者である丸山宗利による、昆虫を探す旅を綴った旅行記です。
熱帯から亜熱帯地域への旅が中心なため、昆虫にとっては楽園でも人間にとっては過酷な環境なことが多く、愛する昆虫について語る時と旅の辛さを語る時のテンションの差にクスリとさせられます。
主な目的はハネカクシという昆虫の調査ですが、道中では蟻酸で攻撃をしてくるサスライアリや、アフリカ睡眠病という病気の感染源であるツェツェバエなどにも遭遇しています。ヒアリ同様に、小さくても気安く接してはいけない昆虫が多く存在することが再確認できるでしょう。
2021年5月には東京港青海ふ頭内で約150個体のヒアリが発見されました。この時点で、16都道府県、計65の発生事例があります。対応が遅れればたちまち猛威をふるう可能性があるため、万一の時のためにも、危険生物についての知識はつけておいたほうがよいでしょう。