本作は、1万円札にもなっている福沢諭吉が書いた本です。ビジネス書としても人気がありますが、実際の内容はどんな事が書かれているのでしょうか。 この記事では内容や、著者である福沢諭吉について詳しく解説させていただきます。ぜひ最後までご覧ください。
本作は簡単にいってしまうと、「自分を確立しろ、そして、政治と向き合え」という内容です。
「天の上に人を造らず人の下に人を造らず」という有名な言葉は、誰もが1度は聞いたことがあるのではないでしょうか。福沢諭吉が本作を書き終えたのが明治4年で、その初編が出版されたのが明治5年です。明治9年に出版された、17編で最後になります。
明治9年といえば、明治政府が廃刀令を出して、かつての武士階級の人間たちが刀を差すことを禁止した年です。その翌年には彼らの不満が爆発し、西郷隆盛が兵を挙げた西南戦争が起きています。このような身分制度を本作では、冒頭の「天の上に人を造らず人の下に人を造らず」として、国民は皆平等であると説いています。
「人は自由で平等だ」というのは、当時の日本人にとっては聞いたことが無い考え方でした。今でこそ当たり前の考え方なのですが、江戸時代が終わったばかりの時代としては、まだまだ士農工商の身分差別が根強く残っていたのでしょう。
そんな世の中に対して、福沢諭吉は『学問のすすめ』を出版したのですから、その勇気はとてもすごいといえます。そして反感を集めるかと思いきや、初編は20万部を超える大ベストセラーになったのです。
- 著者
- 福沢 諭吉
- 出版日
- 1978-01-01
福沢諭吉は「学問をすればなんでも出来る」というようなことを言っています。この「学問万能主義」的な考え方は、後の「学歴万能主義」に変わり、その後の日本人の考え方の基礎になってしまった部分もあると考えられているのです。
ただ彼のいう学問とは、ただ学者がいうような専門的な知識のことではありません。彼は「実学」を学問としています。それまでの学問とは、「難し字を知り、難しい古文を読み、和歌を楽しんだり、詩を作ること」だとされていました。
彼はそういうものも大事だけれど、専門家たちがいうほどには意味はない、と説いています。そして、これからは実学を学ばなければ意味はないとしているのです。
実学とは何かというと、商人がマスターするような知識や知恵です。つまりビジネスであり、誇大な言い方をしてしまえば、「お金を稼ぐこと」を実学としています。
彼は『学問のすすめ』をとおして実学を学ぶ必要性を説き、あとは自分で学んでいきなさい、と言っています。間違ってはいけないのが、本作は決して勉強の仕方とか、こうしたら頭がよくなるとか、こうすればうまく勉強できて出世できるといったようなノウハウが書かれている本ではないということ。
彼自身の考え方を示し、実学を学ぶ必要性をとき、あとは自分で学べ、で終わります。自分で学べといっても、少しは道筋をつけてくれてはいますが。この本が近代文明を発展させ、日本を発展させることになった要因の一部であることは、間違いないといえるでしょう。
福沢諭吉は、現在の大分県中津市で、身分の低い武士の子どもとして生まれました。2歳のときに父親を亡くしており、母親は内職、そして彼はその手伝いをするというような生活を送り、生活は非常に苦しいものだったようです。
彼は貧乏生活が嫌で嫌でたまらなくなり、19歳のときに長崎に行きます。当時の長崎は唯一の開国された土地の出島があり、西洋の文化を学ぶにはもってこいの場所でした。
オランダ語を学んだ後は、大阪で緒方洪庵の弟子となります。そして、より一層勉学に力を入れていくのです。それからは、江戸、アメリカ、ヨーロッパに行き、新知識を得て帰国。『学問のすすめ』を執筆していきます。
また彼は、現在の慶応義塾大学の創立者としても有名な人物です。慶應義塾大学は今でこそ大学ですが、彼が創立した当初は、蘭学塾がベースとなった私塾でした。その後は彼が「これからは英語だ」と考えを切り替えたため、慶應義塾も英語に切り替わっています。
本作で伝えたいことは、冒頭でも紹介したように「自分を確立しろ、そして、政治と向き合え」です。これが本作に込められたテーマだと言えるでしょう。
江戸時代までずっと鎖国をしていた日本は、開国した当時、西洋にかなりの遅れをとっていました。その時代の有力者たちは、「このままでは日本は侵略され、崩壊する」という強い危機感を持っていました。それが、明治維新の精神性です。そのような考えの人たちが結集して江戸幕府を倒し、明治時代を切り開いたのでした。
身分の差はあれど、日本に守られていたのが江戸までの時代。戦争があっても、日本人対日本人の内戦です。そのため誰が勝ったとしても、日本を統治するのは日本人でした。
このままでは外国人に統治されると恐れていた日本は、急激に西洋の文化を取り入れ始め、追いつこうとしました。しかし有力者たちだけがそのようなことを実行しても、国民がついてこなければ何の意味もありません。
そのような時代の流れを背景にして、福沢諭吉は『学問のすすめ』を書き上げ、世の中に公表したのだと考察できます。結果として本作は、当時から現在に至るまで、本当に幅広い人たちに受け入れられてきました。日本人の「学ぶ」という意識の元になったのではないでしょうか。
冒頭の文章に天というキーワードが出てきますが、読んでみると、まるで聖書のようです。しかし、福沢諭吉がクリスチャンであったという事実はありません。ここでいう「天」とはお釈迦様の「天上天下唯我独尊」が元ネタであると考えられています。
- 著者
- 齋藤孝
- 出版日
- 2016-09-08
原文
「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」と言えり。
されば天より人を生ずるには、万人は万人みな同じ位にして、
生まれながら貴賤きせん上下の差別なく、
万物の霊たる身と心との働きをもって天地の間にあるよろずの物を資とり、
もって衣食住の用を達し、自由自在、
互いに人の妨げをなさずしておのおの安楽にこの世を渡らしめ給うの趣意なり。
(『学問のすすめ』より引用)
現代語訳
「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」と言われる。
そうであるならば、天から人が生ずる以上、万人が万人みんな同じ身分のはずで、
生まれながらにして貴い賤しい(身分が高い低い)といった差別はないはずである。
また、人は、万物の霊長たる人間の身と心の働きをもって、
天地の間にある万物を活用して衣食住の必要を満たし、人々がお互いに妨げをしないで、
おのおの安心してこの世を自由自在に渡ることができるはずである。
もちろん現代語訳の方が現在の日本人にとってはわかりやすいと思いますが、原文を読んだうえで、現代語訳を読むことをおすすめします。なぜなら現代語訳は、その訳者の主観が入ってしまうときがあるからです。そのため、福沢諭吉の本来の解釈とは違ったところもあるでしょう。
原文を読み、1度は自分で咀嚼したうえで、答え合わせのために現代語訳を読むのはいかがでしょうか。そうすると本質が、より一層理解できるようになるかもしれません。
原文や現代語訳でもわかりにくい方は、漫画もおすすめ。『学問のすすめ(まんがで読破)』や『まんがでわかる学問のすすめ』などがあります。漫画で本作のすべてを理解することは難しいかもしれませんが、こんな本という大枠を知るためには最適なのではないでしょうか。
興味がある方は、ぜひご覧ください。
本作は17編で、340万部以上も売り上げた大ベストセラーとなっています。当時の日本の人口が3500万人であったので、現在なら約1200万部に相当している計算です。とても考えられない数字ですね。
これほどの売りあげることができれば、億万長者です。当時の日本としては、歴史上初となる自己啓発書でしたが影響は大きく、「学歴万能主義」の考え方は、現在の世の中でも普通に存在する考えとなっています。
今から約200年も前の人が示した考え方であるのに、世の中が激変した現在まで残っていることは、非常にすごいことですね。それだけ影響力があったのが、福沢諭吉という人物です。さすが、1万円札に乗っているだけあります。
「ゝ」はおどりじ【踊り字】といいます。
おどりじ【踊り字】
同一の漢字または仮名を重ねることをあらわす符号。「〻」(二の字点)・「々」(同の字点)・「ゝ」(一の字点)・「〵〳」(くの字点)など。おくり字。かさね字。畳字。繰返し符号。
(『広辞苑』より引用)
このおどりじで馴染みがあるのが、苗字の佐々木などに使われる「々」ではないでしょうか。々は漢字が連続しているときに使われ、「ゝ」はかな文字が連続するときに使うのが、正しい使い方です。
その他のおどりじの表記には、「ゞ」「ヽ」「ヾ」などがあります。
- 著者
- 福沢 諭吉
- 出版日
- 1978-01-01
本作に出てくる名言を、ベスト5までご紹介させていただきます。
第5位
愛国の意あらん者は、官私を問わず
まず自己の独立を謀り、余力あらば
他人の独立を助け成すべし
(『学問のすすめ』より引用)
国を愛すものは、仕事や私生活を問わないで、まず自立することを目指す。そして、自分が自立できたのならば他人の自立を助け、最後には国の自立を助けることが重要であると言っています。日本人全員で、発展していこうというメッセージが込められている名言です。
第4位
学問に入らば大いに学問すべし。
農たらば大農となれ、
商たらば大商となれ。
(『学問のすすめ』より引用)
物事を深堀していくことが大事だという名言。1を5や6に上げて終わらせるのではなく、しっかり10まで上げていくことが重要だと言っているのではないでしょうか。
第3位
読書は学問の術なり、
学問は事をなすの術なり。
(『学問のすすめ』より引用)
本を読むことはあくまで学問の手段であり、目的ではない。事をなすことこそが学問であると言っています。さすが実学こそ学問といった福沢諭吉です。
学問は机上で終わっても意味がありません。それは趣味になってしまいます。そうではなくて、当時の背景から考えると、学問は世の中のためにならなければいけないと言っているように考察できます。
第2位
人は生まれながらにして貴賤・貧富の別なし。
ただ学問を勤めて物事をよく知る者は
貴人となり富人となり、
無学なる者は貧人となり下人となるなり。
(『学問のすすめ』より引用)
勉強をすればお金持ちになり、無学のものは貧乏になる。さすが、学問万能主義です。世の中の本質かもしれませんね。
第1位
「天は人の上に人を造らず
人の下に人を造らず」
(『学問のすすめ』より引用)
やはり1位は、冒頭の、この言葉でしょう。とても有名な名言です。当時の日本人にとって自由で平等の考え方は、とても衝撃的なものであったはず。
みなさんにも気になる名言はありましたか?