人の世は「戦い」をなくしては成り立たないのかもしれません。戦争はあってはならないことですが、健全な切磋琢磨があってこそ社会が進歩していくことも事実です。この記事では、古代中国で戦う方法を論じた書物『孫子』について、兵法の内容や名言などをわかりやすく解説していきます。あわせてもっと理解を深められるおすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。 また、本作は「flier」で無料で概要を読むこともできます。さまざまなビジネス書、教養書を10分で読めるスマホアプリなので、時間がない方、ご自身で概要を知りたい方はまずはそちらで読んでみてはいかがでしょうか?
『孫子』は、紀元前500年頃、春秋戦国時代の古代中国で執筆された書物です。戦の際の心得や戦術などが記してあり、「兵法書」とも呼ばれ、その教えは長きにわたりさまざまな形で語り継がれています。
作者は、武将で軍事思想家だった孫武(そんぶ)という人物。諸子百家のひとつ「兵家」の代表的人物です。
彼が呉の国に仕えていた当時の中国は、王朝の基盤に不安定さが続き、隙あらば周辺国が攻め入ってくる時代でした。各国は富国強兵の政策をとり、そんな流れのなかで編纂されたのが『孫子』でした。
本書の特徴は、ただ「戦争論」を述べているだけではないところです。人間という生き物を心理的に深く分析し、精神や行動に対する鋭い洞察をみせ、兵法の域を超えた「人間論」として十分価値のあるものとなりました。
そのため『孫子』は、武田信玄やナポレオンなど、国や時代を超えてさまざまな偉人たちの間で読まれたといわれています。現代の日本においてもサラリーマンや経営者たちに役立つビジネス書に応用され、多くの人に愛読されているのです。
それでは『孫子』に記されている兵法の具体的な内容をみていきましょう。
「戦いにおいて1番大切なことは?」と問われたら、ほとんどの人は「戦いに勝利すること」と答えるのではないでしょうか。確かにそのとおりで、負け戦は避けなければなりません。
ただ『孫子』で説いている勝利というのは、「相手を打ちのめす」ことではありませんでした。最重要事項として掲げたのは、「軍隊や兵士を消耗させないこと」だったのです。無駄に戦いを挑み、その場の争いには勝ったとしても、それだけでは上策ではないと語っています。
犠牲は最小限にとどめ、願わくば「戦わずして勝つ」ことの大切さを説きました。「兵法書」でありながら、戦わないことを優先させているため画期的だったのです。
このような考えを根本においた戦術として、『孫子』では「奇策」を推奨しています。奇策とは、人の思い浮かばないような奇抜な作戦のことです。フィクションの世界では真っ向勝負が美談としてとりあげられますが、現実の世界では美しくてクリーンな戦い方が求められるわけではなく、それが結果的に兵士を守ることにも繋がるのです。
ただ奇策といっても思い付きではありません。相手を分析して行動を予測し、その上を行く予想外の戦略を立てる必要があります。またそれらを実行に移すためには、入念な準備と集団の統率が求められるでしょう。
そのためにチームワークを向上させる方法や、兵士たちのモチベーションの上げ方などを論じているのです。
『孫子』が現代においても読み継がれているのは、特にビジネスシーンなどに役立つ名言が散りばめられているからです。有名なものをいくつかご紹介しましょう。
「兵とは国家の大事なり」
これは上述した「戦わずして勝つ」ことの根幹となる言葉です。兵は国家の存亡を左右する存在であり、無下にせず、扱いには熟慮すべきであると説いています。
現代のブラック企業問題などに通じるところがあり、経営者や管理職など人を束ねる立場の方が活用できる教えではないでしょうか。
「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」
『孫子』のなかでもっとも有名であろう言葉です。相手を知り、自分を知ることができれば、百回戦っても負けることはないだろうという意味です。
ビジネスにおいても、顧客やクライアントのことはもちろん知らなければなりません。しかし自社についても把握しておかなければ、簡単に足元をすくわれかねないのです。
「必ず全きを以って天下に争う」
相手をいためつけるのではなく、無傷で味方に引き入れてしまえば天下は近づく、という意味です。この言葉から、『孫子』は兵法書でありながらも「究極の平和」を説いているという見方ができるでしょう。
現代にも活用できる書として『孫子』を紹介しましたが、戦術自体も面白く、中国の春秋戦国時代を舞台にした大ヒット漫画『キングダム』でもその手法がふんだんに取り入れられています。
『キングダム』の主人公は「信(しん)」という架空のキャラクターです。もうひとりの中心人物として、後に秦の始皇帝となる「政(せい)」がいます。
信と政が会話のなかで、出会いからこれまでを振り返りつつ中華統一に向けての夢を語るシーンを紹介しましょう。
政は具体的に「15年かかる」と告げて、その計画を打ち明けていきます。これは『孫子』の「戦いの地を知り、戦いの日を知らば、千里なるも戦うべし」という兵法を応用していると考えてよいでしょう。いつ、どこで、どのくらいの期間で戦うのかきちんと計画をたてておけば、たとえその夢が果てしなくても戦い続けることができるということです。
そのほか、リーダーとしての在り方や、士気を高めて兵士たちを鼓舞するシーンなど、いたるところに『孫子』の兵法が応用されています。『キングダム』を読んでおけば、実生活でも役立つ兵法を自然と学べることになるかもしれません。
- 著者
- 齋藤 孝
- 出版日
- 2018-06-16
戦いに勝つための手段として、多くの人が強くなることを掲げます。これが軍事であれば、兵力を上げることにつながるでしょう。しかし現代社会を見てみると、必ずしも兵力に優れた者や国だけが豊かになっているわけではありません。本当に大切なのは「最善の手」を積み重ねていくことなのです。
本書では、大切なのは「思考力」と「判断力」だとして、現代社会で敵を作らずに成功を手にするためのマインドを説いています。
作者は、教育学者としても有名な齋藤孝。『孫子』の教えを図を用いながら解説してくれているので、わかりやすいでしょう。作者の実体験にもとづいた具体例も載っているので、状況と考え方を照らし合わせながら納得感をもって読み進めることができます。
- 著者
- 出版日
- 2000-04-14
歴史書の重みを知るためには、やはり原文をそのまま読むことが大切です。ただまったく意味がわからなければ読み進める気力もなくなってしまうでしょう。本書には、原文・書き下し文・現代語訳が載っていて、解釈が難しいところには注釈もついています。また巻末には重要語句索引も添付されているので、じっくりと『孫子』について学ぶことができる仕組みです。
いかに相手の裏をつき、いかに戦わないで勝利するか……この兵法はともすれば「卑怯」と思われることもあるかもしれませんが、本書を読むと、人の命と生きる価値を考え抜いた重みを感じることができるでしょう。
社会という戦場で日々戦っている人にとっても、きっと役に立つ一冊です。