田んぼや水たまりなどでよく見かける「アメンボ」。スイスイ―っと水面を移動する様子は見ていても楽しく、昆虫採集をする子どもにも大人気です。この記事では、そんな彼らの生態や種類ごとの特徴、水に浮く理由、空を飛ぶのかなどわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。
カメムシ目アメンボ科に分類される水生昆虫の総称です。世界には約500種類が生息しています。日本ではおよそ200種が確認され、そのうちの大部分は「アメンボ亜科」と「ウミアメンボ亜科」に属しています。
6本ある足のうち、中足と後ろ足が細長く発達しているのが特徴です。後ろ足で舵をとりながら中足で水をかき、水面を滑るように移動します。
活動期間は春先から秋にかけてです。孵化してから1か月ほどで交尾ができるようになり、産卵を終えると寿命を迎えます。ただし冬までに産卵を終えなかった個体は陸地にあがって越冬することもあるそうです。
すべての種が肉食性で、水面に落ちてきたアリやハエなどの小さい昆虫が主なエサです。足の先にある特殊な毛で水面の振動を感知すると、素早く近寄りって獲物を捕獲します。そして針のように尖った口を突き刺して体液を吸います。時には水面に浮かんだ魚の死体などを食べることもあるそうです。
では日本に生息している主な種類を紹介しましょう。
北海道から沖縄まで日本全国に生息していて、もっとも個体数が多い種類です。体長は1.5cm前後で、体色は黒か褐色です。流れの緩やかな河川や湖、沼などで暮らしていますが、都市部では公園の水たまりやプールなどでその姿を見ることもできるでしょう。
北海道から九州までの広い範囲に生息しています。体長は1cm前後です。体色はやや茶色っぽく、銀灰色の微毛が生えています。河川や池のほか、水田などの浅い止水域でも暮らしています。
本州、四国、九州のほか台湾や中国南部にも生息している大型の種類です。体長は2~3cmほどあり、広げた中足が6cmにも達する個体もいます。
北海道の南部から奄美大島まで、また朝鮮半島にも生息しています。体長が0.5~0.7cmと非常に小さいのが特徴です。ずんぐりとした胴体は黄色っぽく、黒色の模様があります。ウミアメンボ亜科に属しているものの淡水性で、流れの緩やかな渓流が活動域です。
本州西部と九州北部に生息する日本固有の種類です。体長はわずか0.3~0.4cmほどです。体は灰色で、頭部と前胸背には暗黄褐色の模様があります。海洋性で、波の穏やかな内湾の入江が生活圏です。岩礁地では遠浅の海岸でも見ることができます。
沿岸部の環境破壊によって生息数が激減していて、一時は絶滅したとされていましたが、一部の地域で生息が確認され、現在は絶滅危惧種として保護の対象となっています。
アメンボが水面に受ける理由は2つあります。
まずひとつは、体重が軽いこと。平均的な大きさのもので、わずか0.05gほどしかありません。1円玉が1gだということを考えると、その軽さがわかるのではないでしょうか。
もうひとつは、足先の構造です。細かい毛がたくさん生えていて、その毛には体から染みだした油がついているため水をはじきます。水がしみこまないので体は水中に沈まず、浮いていられるのです。
また水面には表面張力があって膜のようになっています。そこに足先にある爪を食い込ませることで、歩くことができるのです。反対に、表面張力を弱める洗剤のような成分が水に混じっていると、溺れてしまいます。
ほとんどの種類には背中に4枚の翅があり、飛ぶことができます。水が少なくなったりエサがとれなくなったりすると、新しい水場を探してジャンプをするように飛ぶそうです。
まれに10m以上飛ぶこともあるそうですが、鳥などに狙われやすくなり危険が増えるため、よほどのことがない限り遠くまで飛ぶことはありません。
1番よく飛ぶのはヒメアメンボです。反対にシマアメンボは翅がなく飛びません。
アメンボは漢字で「飴坊」または「飴棒」と書きます。体の中央に臭腺があり、そこから発せられる匂いが飴のように甘いことが由来となっています。
ただ実際に匂いを嗅いでみても、甘さを感じることはほとんどないようです。舐めてみても甘くはありません。
ちなみにアメンボには他にも呼び名があります。容姿がクモに似ていることから「ミズグモ」「カワグモ」と呼ばれたり、江戸時代には「チョウマ(跳馬)」呼ばれることもあったそうです。
- 著者
- ["三田村 敏正", "平澤 桂", "吉井 重幸"]
- 出版日
- 2017-07-10
カメムシ目の水生昆虫89種をとりあげたオールカラーの生物図鑑です。
各種の生態や生息環境に関する情報をはじめ、生きた標本を使った各部位のアップ写真を掲載。類似種も簡単に見分けられるようになっています。
また幼虫に関する解説も充実しています。出現時期が一目でわかるグラフも付いているので、観察のお供にも最適でしょう。
- 著者
- 出版日
- 2016-04-19
身近な昆虫を中心に約900種の写真を収録した昆虫図鑑です。
引き出し線を使って各部位の名称を紹介しています。すべての解説にひらがなでルビが振ってあるため、小さなお子さんも読むことができるでしょう。
ポケットサイズなので持ち運びも簡単です。野外観察に必携の1冊です。