夏の風物詩ともいえるセミ。なかでもミンミンゼミの鳴き声は、ほとんどの人が聞いたことがあるのではないでしょうか。実は、他の種とは時期や時間で棲み分けをしているという興味深い話もあります。この記事では、彼らの生態や、どのような一生を送るのか、活発な時期、分布などを解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
カメムシ目ヨコバイ亜目セミ科の昆虫です。その名のとおり「ミンミン」と特有のリズムを刻みながら鳴くので、騒がしい蝉時雨のなかでも比較的聞き分けやすいでしょう。
体長は33~36mmほどで、羽まで含めると50~60mmになります。他の種類との見分け方は、体型と体色を見るとよいでしょう。セミの体は楕円形をしているものが多いですが、ミンミンゼミはより丸みを帯びています。
体色は黒をベースとして緑色の模様が混ざり、背中の中央部分が白くなっています。緑色の模様が美しい個体は「セミの貴族」と呼ばれることもあるようです。
幼虫の時は乾燥した土を好むため、平地に比べて日光の当たりやすい傾斜地に生息していることが多いです。採集をしたい場合は、傾斜のある公園などを探してみるとよいでしょう。
一般的に「セミの一生は短い」といわれています。ただ実際は成虫になってからの寿命が短いだけで、幼虫の期間も含めるとミンミンゼミの寿命は2~4年です。むしろ他の昆虫よりも長いのです。
成虫になって地上に出てからは、およそ3週間ほど生きます。個体によっては1か月以上生きるものもいるようです。なぜ成虫になってからの寿命が短いかというと、彼らの体の構造が「子孫繁栄」という目的に特化しているからです。
ミンミンゼミを含め、多くのセミが鳴くのは交尾のための求愛行動です。オスは自分の居場所をアピールするために精一杯鳴き続けます。その間、口にするのは僅かな木の汁のみです。メスも交尾を終えて卵を産むと、すぐに死んでしまいます。
つまり、成虫の体のつくりそのものが長く生きるようにはできておらず、むしろ子孫を残すために成虫の姿になっているので、長い寿命が必要ないということなのです。
セミが鳴く最大の目的は繁殖にあるというのは先述したとおりですが、実は交尾を成功させる確率を高めるために、セミ同士の種を超えた気遣いがあります。
ミンミンゼミとクマゼミでその例をみてみましょう。両者の鳴き声は人間の耳にはまったく異なって聞こえます。ただ音のベースはほぼ同じで、仮に再生速度を変えるとそっくりになるそうです。そのため両者が同じ場所で同時に鳴くと、メスはパートナーとなるオスを見つけにくくなってしまいます。
そこで彼らは、時期や時間で棲み分けをおこなっているのです。
地域によって多少の違いはありますが、基本的には7月中旬頃からクマゼミが地上に出て鳴くようになります。その後2~3週間経った8月上旬頃から、ミンミンゼミが鳴きはじめるのです。
またアブラゼミと比べてみると、ミンミンゼミやクマゼミは午前中に鳴くことが多く、アブラゼミは午後に鳴くことが多いのだそうです。種を超えて協力しあうことで、お互いに子孫を残しやすくしています。
ミンミンゼミは北海道から沖縄まで、日本全国に広く分布しています。ただし、なぜか関西地方だけ極端に数が少ないそうです。
理由は諸説ありますが、関西地方は夏の気温が高くなる傾向があり、暑すぎる場所は彼らにとって好ましくないからといわれています。また湿度も関東地方と比べて高いため、乾燥した土を好む幼虫が育つ環境としても好条件とはいえないのです。そのため都市部にはほぼいませんが、標高がやや高い場所には生息しています。
またミンミンゼミが少ない地域には、クマゼミが多く生息しているというデータがあります。もしかしたら彼らは、かなり大きい規模で棲み分けをしているのかもしれません。自由研究の題材にして、調査するのもよさそうですね。
- 著者
- 筒井 学
- 出版日
- 2012-07-11
引き継がれていくセミの一生を追った写真絵本です。成虫が生んだ卵が1年かけて孵化し、その後幼虫は土の中へ潜ってゆっくりと成長します。数年が経ち、地上へと出ると子孫を残すためだけに懸命に鳴くのです。自然界の厳しさや、生命の力強さを感じることができるでしょう。
収録されている写真はどれも美しく、写真集のように眺めているだけでも楽しめます。
著者の筒井学は、豊島園昆虫館の施設長を務めたこともある人物です。写真に添えてある説明もわかりやすく、鋭い観察眼と愛情がわかる1冊です。
- 著者
- 工藤 ノリコ
- 出版日
成虫になるまでの長い期間を地中で過ごしているセミ。人間からするとなかなか想像がつかないですが、本書の主人公のセミくんは、脱皮した抜け殻をハンガーにかけたり、おもちゃで遊んだり、ベッドに横たわって本を読んだり……意外と地中ライフを満喫しています。
そしてある時、「いよいよ今夜です」と電話がかかってくるのです。
地上に出て、空を飛べること、生きていることを心から嬉しく思っているセミくんの様子に、大人も胸がアツくなってしまうでしょう。そんな彼をたくさんの昆虫たちが祝福しているのも微笑ましいです。
本書を読むと、実際にセミを見た時も、命を大切にしてあげようと思うはず。ぜひ親子で読んでほしい1冊です。