「月刊コミックゼノン」で連載中の、榎本あかまるの作品。クールなOL文野(ふみの)さんが、同僚の牧田を巻き込んでくり広げる「文具ラブ」コメディ。懐かしのあの文房具、この文房具が勢揃いして、ノスタルジックな気分に浸れること間違いなし……!? 本作はスマホの漫画アプリ「マンガほっと」でも無料でご覧頂けます。気になった方は、ぜひどうぞ。
主人公・文野さんは、とある会社の営業課女性社員。まだ新入社員でありながら、仕事は丁寧で評判の上々な、出来るOLです。
しかも人目を引く美貌の持ち主でもあり、同性からも羨ましがられるグラマーさとあって、放っておく人はいない――かと思いきや、現実はまったく逆でした。
- 著者
- 榎本あかまる
- 出版日
- 2017-06-20
彼女の周囲には、ほぼ人がいません。それは彼女がクールを越えた氷のように固い表情で、あらゆるやり取りを「はい」、「いいえ」、「何か?」の3単語で済ませてしまう塩対応に原因がありました。
物語は基本的に会社が舞台なので、ビジネスライクな対応といえばそうなのですが、あまりにも素っ気ないために関わろうとする人がいないのです。
ツンツン過ぎて恐れられているともいえます。
そんな彼女が、唯一表情を綻ばせる瞬間があります。それは愛用の文房具をいじる時。なぜか彼女は古今東西の文具に目がない女性で、それに夢中になっている間だけは豊かな表情を見せてくれるのです。あまりにも表情豊かなため、どちらかといえば百面相の様相になってしまいがちですが。
鋼鉄のOLが文房具にだけふっと柔らかい顔を見せる。そんなギャップが魅力的です。
文野さんがご執心の文房具は、ただの文房具ではありません。
彼女が愛するもの。それは実用一点張りの事務用品ではなく、遊び心溢れる懐かし文具です。ものによっては、ほとんどオモチャと大差ありません。
しかし、オモチャと文房具には決定的な違いがあります。それはもちろん、オモチャ屋で売っているかどうかということではありません。勉強道具として塾や学校に正々堂々と持ち込めるか否か、という点です。
たとえば、ロケット鉛筆。これはシャーペンが禁止されてる小学校などでも、鉛筆代わりに持ち込むことが許されるアイテムの1つ。シースルーの軸に、いくつもの替え芯が詰められた筆記用具です。鉛筆芯が磨り減ったら、先頭の芯を抜き取って軸の後ろからはめ込むと、新しい芯が出てくる仕組みでお馴染み。
この替え芯の仕組みが、何か弾丸の装填動作にも思えて、無駄に入れ替えしたものです。
文野さんも同様。童心を忘れない(というよりは童心に返ってしまう)彼女は、免罪符の与えられた数々の懐かし文房具で、子供時代によく見られた手遊びに興じるのです。
本作には、他にもさまざまな文房具が登場します。当時流行っていたものなども多く登場するので、きっと誰もが読んでいて懐かしくなること間違いなし。幅広い年代の人に楽しんでもらえるはずです。
『文野さんの文具な日常』の主人公はタイトルにもなっている文野さんですが、物語の語り手は別にいます。それは彼女の上司、男性社員の牧田です。事実上、もう1人の主人公といっても差し支えないでしょう。
業務上の都合から2人はデスクが隣り合わせであり、しかもそこがオフィス全体で見ると離れ小島になっているため、勤務中はほぼ常に2人だけの空間が出来ています。そうした事情から、文野さんの奇行――もとい文房具との戯れは牧田だけが知っていることで、基本的には彼の目線で毎回の話が描かれます。
2人だけ、とはいっても前述したように文野さんはツンツンなうえにマイペースなため、直属の上司・牧田であっても口を開けば例の3単語で塩対応です。
彼は35歳、アラサーという年代のせいか、自身が少年時代に発売されていた各種懐かし文房具に精通しています。そのおかげで名称から発売年、本来の使い方から楽しみ方まで、回想込みで丁寧に解説してくれます。
この解説のおかげもあって、実際には知らない文房具のネタでも、まるで自分が体験したことのように楽しめるようになっているのです。
ここからは各巻の面白いエピソードをご紹介しましょう。まずは1巻から。
- 著者
- 榎本あかまる
- 出版日
- 2017-06-20
とある日の文野さん。この日は会社を挙げての社員旅行でした。さすがの彼女もこの日ばかりは温泉旅館を満喫……とはいかず、宴会場では相変わらずの塩対応。部長クラスの誘いに対しても「いいえ」と言い切り、無礼講といえども牧田はヒヤヒヤしっぱなしでした。
そして彼女は大人しく会席と日本酒を堪能しているのかと思いきや、お膳の下で懐かし文具「ミニ四駆レースえんぴつ」を遊んでいるではありませんか。これは鉛筆をサイコロに見立てた文房具です。専用すごろくコースまで用意している念の入れよう。
それだけならまだ良かったのですが、彼女の手元を離れたレースえんぴつを牧田が投げ返したところ、うっかりよい目が出てしまって……。
文野さんにしては珍しく、彼女の方から積極的に牧田と遊びに興じた貴重なお話。子供のようにはしゃぐ彼女が可愛らしいです。牧田には塩対応のバリエーションが増えたのですが、果たしてこれもデレといえるでしょうか。
文野さんは平常営業ですが、この回の文具は普通の事務文具「Dr.GRIP」です。通常シャーペンは軸のお尻をノックして芯を出していくものですが、Dr.GRIPは本体を振るだけで済むという優れもの。
振るだけで芯が出てくるというメカニズムが面白いので、子供は無駄にシャカシャカ振ったりするのですが……ごたぶんに漏れず、文野さんもシャカシャカに夢中。Dr.GRIPのストラップホールに糸を通し、何本も組み合わせてご満悦状態でした。
- 著者
- 榎本あかまる
- 出版日
- 2018-01-20
しかし、今回は牧田も負けていません。自動芯出し機能を備えた最新文具「オレンズネロ」で対抗します(彼は普通に仕事しようとしてるだけですが)。
そしてそこへ、新名という新キャラが登場します。2人の会社に時々訪れる出入り業者で、彼女もまた文野さんに負けず劣らずの文具好きです。突如現れた新名はオレンズネロに興味津々。文具にだけデレる文野さんと違って、非常に素直に感情を表す女性のようです。
一方の文野さんはというと……。いつも通りに振る舞おうとしつつ、牧田の最新文具と思わぬ突然の来訪者の登場で、ペースを乱されている様子がちらりと窺えます。
文房具と戯れる時以外は常に冷静な彼女の、少し意外な一面が垣間見える瞬間です。
いかがでしたか?こうして文野さんを見てると、ついつい同じことをしたくなります。本作片手に文房具屋さんを訪ねてみれば、きっと彼女のように童心に返ることでしょう。