オードリー・ヘップバーンがティファニーの前でクロワッサンを食べている。そんなお洒落なシーンが目に浮かぶ、映画作品としても有名なこの小説。原作は1960年頃にトルーマン・カポーティによって書き下ろされました。 ハッピーエンドで終わった映画と受ける印象はけっこう違いますが、登場人物たちの人間らしさや、瑞々しい魅力に、惹きつけられる本です。古典っていうには少し早いかもしれないけど、これからもずっと世界中で読み継がれていくだろう、素晴らしい作品です。
- 著者
- トルーマン カポーティ
- 出版日
- 2008-11-27
ヒロインはマンハッタンに暮らす19歳の新人女優ホリー・ゴライトリー。
高級なアパートメントに住み、セレブ達とのパーティを楽しみ、高級レストランに色んな男たちと出入りする。そんな都会的な自由気ままな生活を、気楽に楽しんでいるように見えるホリー。
そんな彼女は、彼女が「いやったらしいアカに心が染まる」と呼ぶ気分のとき(ブルーな気分とはちょっと違う、)高級宝石店「ティファニー」の前で朝食を食べます。そうすると気分がすっとして、そんなに悪いことは起きないだろうっていう気持ちになるのです。
そして、このお話は彼女が「いつもティファニーにいるような気分になれるような」場所を探し続けるお話なのです。
愛や幸せは難しいものじゃない。そう信じているホリーは繊細で、純粋なヒロインです。しかし彼女は一方でとても無神経な部分があったりします。彼女の無責任さや、突拍子もない価値観は、そんなところからきているのかもしれません。周りの人はそんなホリーを実際以上に持ち上げたり、逆に全然価値のないまやかしみたいな扱いをしたり。それでもホリーは自分を揺らがせることがありません。ホリーはただ自分にとって大切なもののために生きているのです。他の人から見たらおかしなことも、常識とは違うことも、自分のためだけにやってしまえるホリーは、自由で大胆で、ヒロインとしてとても魅力的です。
私が大好きなのは最後のシーン。ホリーの婚約がダメになって、犯罪に手を貸したという疑いをかけられて、ホリーがここでの何もかもを捨てて国外に行こうとするシーンがあります。国外には連れていけないから、名前のない飼い猫「猫ちゃん」を、路地に捨てようとするシーン。
川べりで出会ったその猫に、ホリーは名前を付けませんでした。「ティファニー」みたいな自分の居場所が見つかるまで、猫も、きっと自分も、誰のものでもないというスタンスでいたかったホリー。きっと怖かったんだろうなと思います。何かを大切にすることも、一つの場所に落ち着いて、自分を知るのも。ですが、猫を捨ててしまったあとで、とても後悔します。「ああ、神様。私たちはお互いのものだったのよ。あの猫は私のものだった」というセリフは、ホリーの発するセリフの中で私が一番好きなセリフです。ちょっと変な受け取り方かもしれないけど、ホリーみたいな女の子もこんな感じで思うこともあるんだって、なんだか救われるような気持になる、大好きなシーンです。
彼女が求めるものや、彼女が大切にしたいものは、大人になったり、どこかの価値観に落ち着いてしまったりすると消えてしまう、蜃気楼のようなものかもしれません。
彼女が正しいと思ういろんなことや、楽しいと思ういろんなものも、大多数の人からしたらどうでもいいことなのでしょう。それでも、誰もが持っていた優しくて柔らかいもの。きれいで儚いものの存在をこの本は思い出させてくれます。
大人になると必ずしも正しいことや、いい人が勝つルールはない。むしろそれよりも、もっと重きを置かないといけないいろんな何かが増えていくように思います。息苦しいけど、これが私たちの世界。器用に生きられないホリーを美しいなって思いながら、中途半端に不器用に生きる、せめて「僕」のような存在でいられたら、って思います。
・花盛りの家(同じ本に収録されている短編)
美しい娼婦のオティリーは、結婚して、花盛りの家で暮らすことになります。そこには意地悪なおばあさんがいて、オティリーをいじめましたが、オティリーの反撃により……。予想外な結末だったこのお話。短編だし、テンポがいいので楽しく読み切れます
・クリスマスの思い出(同じ本に収録されている短編)
7歳の「僕」と、60歳を超えている彼女は親友。クリスマスの時期になると、買い出しをして、クリスマスのフルーツケーキ作りに取り掛かる。年齢差のある親友の二人が、クリスマスのためにフルーツケーキを作るだけの話なのだけど、心があったかくなります。映画を見たことがない彼女のために、映画のあらすじを教えてあげるエピソードとか特にほっこり。その分、最後は切ない終わりに泣かされちゃいました。
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