白い翅をひらひらと動かし、緑のキャベツ畑を飛ぶモンシロチョウ。身近な蝶なので姿を見たことがある方も多いでしょう。アオムシや蛹の過程を経て美しく飛ぶ姿は、感慨深いものがあります。この記事では、彼らの生態や、卵から成虫になるまでの一生をわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。
チョウ目シロチョウ科に分類される昆虫です。白色の翅に小さな灰色の斑点があり、デザインはシンプルながらも美しく、アゲハ蝶と並んでトップクラスの人気を誇っています。
北海道から九州まで全国各地に分布していて、南西諸島でも見ることができます。アブラナ科の植物の葉が大好物なので、菜の花畑やキャベツ畑にいることが多いです。幼虫であるアオムシはアブラナ科の葉しか食べないため、卵を産みつけるのはアブラナ科の植物だけだといわれています。
4月頃にもっとも多く見られるため春の訪れを告げる蝶の印象が強いですが、実は11月頃までその姿を見ることができます。ただそれぞれの個体の寿命は短く、成虫の平均寿命は10日ほどしかありません。卵の期間を含めてもその一生は2か月ほどです。儚い命だといえるでしょう。
ちなみに飛び回っているモンシロチョウのほとんどがオスだそう。交尾をするため、メスが羽化するのを待っているのです。メスは産卵にエネルギーを使うため、あまり飛び回ることはないそうです。
モンシロチョウの成虫は、お腹をキャベツなどの葉にくっつけて産卵します。そのサイズは約1mmで、最初は白色ですが、3日ほどで黄色くなってきます。4日目には中で動いているものが見えるでしょう。
1週間ほどで孵化をします。幼虫の体長は、はじめは2mmほど。青虫の状態だと動き回る能力があまりないので、生まれた場所にある葉を食べて大きくなります。さなぎになるまでの期間は2週間ほどで、その間、4回脱皮をおこないます。ただ幼虫の皮は伸縮性がないので、失敗するとそのまま体が締め付けられて死んでしまうこともあるそうです。
4cmほどにまで成長すると、さなぎになるための準備をします。頭を持ち上げて左右に振るのが前兆です。糸を分泌し、葉から落ちないように体を固定していきます。
さなぎになると、その中で成虫になる準備をします。一見何も動いていないようですが、近づいてよく見ると、少しずつ変化している様子がわかるでしょう。
真ん中の部分は羽になり、頭部の先にある丸い点は目になります。時間を追うごとに触角や脚などの形もはっきりしてきます。
さなぎの状態でいるのは、温かい時期であれば1週間ほどです。皮膚が薄くなり、中が透けて見えるようになってくるといよいよ羽化が近づいてきます。羽化はほとんどの場合朝におこなわれます。
頭部の近くを破り、脚を突っ張るようにしながら外に出てきます。この時の翅はまだ畳まれた状態です。少しずつ体液を送り込み、10分ほどかけて綺麗に伸ばしていきます。その後数時間かけて乾燥させ、乾いたらやっと飛べるようになります。
モンシロチョウの羽化を観察したいと思う方もいるかもしれませんが、幼虫を採集する際は注意が必要です。彼らに寄生するコマユバチやヒメバチという恐ろしい虫がいるからです。寄生された幼虫には未来がありません。
コマユバチは幼虫の体内に約80個もの卵を産み付け、3日ほどで孵化すると、幼虫の体液を吸収して脱皮をしながら成長します。最終的に一斉にアオムシの体を食い破って出てきてしまいます。
ヒメバチの寄生も特徴的です。モンシロチョウがさなぎになるとその中身を食い尽くし、その後は複数生まれたヒメバチ同士で共食いをし、生き残った1匹だけが空になったさなぎの中から出てきます。
残念ながら、1度寄生されてしまった場合、対処法はありません。ただこれらの寄生虫はある程度成長した幼虫に卵を産みつけることがわかっているため、モンシロチョウの卵を採集して育てれば避けることができるでしょう。その際はヨトウガなど似た卵があるので注意してください。
- 著者
- 小杉 みのり
- 出版日
- 2011-02-24
卵から成虫まで、モンシロチョウの成長過程を丁寧に追った作品です。幼虫だけ、もしくは成虫だけを見ることは容易ですが、その一生を追うには飼育をしなければならず、なかなかハードルが高いでしょう。収録されている写真は大きくて鮮明で、その様子をしっかりと観察することができます。
小さなお子さんにもわかりやすく、なおかつ興味をひく内容のため、「よみきかせ」をする作品としてもおすすめです。
実物大の写真が載っているのもうれしいポイントです。自然界で生きるモンシロチョウの力強さを感じられるでしょう。
- 著者
- 小原 嘉明
- 出版日
著者は、モンシロチョウは紫外線で雌雄の翅の色を見分けていることを発見し、動物行動学に大きな影響をもたらした小原嘉明です。モンシロチョウの生態をわかりやすく解説しています。
実は筆者は青虫が嫌いだったそうですが、数々のハプニングや苦難を乗り越えながら研究をしていく様子もユーモアたっぷりに描いています。
素朴な疑問から仮定をたて、実験をくり返す工程は、まるで推理小説を解き明かしていくかのようです。モンシロチョウについて学べるだけでなく、何かを研究すること自体の魅力も教えてくれる1冊です。