5分で分かる『蟹工船』!これって実話?【あらすじと解説】

更新:2021.12.8

作者・小林多喜二が命を代償にして世に送り出した名作。プロレタリア文学の代表作とされ、国際的評価も高く、いくつかの言語に翻訳されて出版されている『蟹工船』。 本作は世の中に何を訴えているのでしょうか。 この記事では、あらすじから結末まで、詳しく解説していきます。ぜひ最後までご覧ください。

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まずは『蟹工船』のあらすじ、乗組員(登場人物)をご紹介!

まずは本作のあらすじをご紹介します。

蟹工船での仕事は、海で蟹を取り、それをそのまま船の中で加工までしてしまうという内容。蟹を日本の港まで運び、工場で加工するのが一般的ですが、この方法では運搬中に蟹が腐ってしまいます。だったら船の中で加工までしてしまえばいいとして考えられたのが、蟹工船でした。

この船の乗り組み員は、そのほとんどがお金に困っている人たち。田舎に住んでいて働き場所がない、借金で首が回らない、そんな人間ばかりが集められます。彼らは蟹工船に乗るしか生きる道がないような人たちばかりです。

しかし、この船の労働環境は劣悪なもの。毎日毎日16時間以上も働かせられ、休みの日はなく、風呂も入れません。そして、体調が悪くなっても働かせられます。しかし、誰も監督に歯向かうことはできません。なぜなら、歯向かうと拷問されるからです。この光景は、力あるものに搾取される資本主義の構図を表しています。

上にいる人はぼろ儲けで、底辺にいる人たちは命を削ってまでも働かせられ……。働けども、働けども、儲かったお金が労働者に還元されることはありません。そんなある時ついに、この労働に耐えられなくなった乗り組み員がストライキを起こすことに。

果たして彼らを待ち受ける運命とは……。

著者
小林 多喜二
出版日
1954-06-30

 

この本が象徴する、プロレタリア文学とは?簡単に解説!

プロレタリア文学とは、簡単にいうと労働者のことを書いた文学のこと。

現代でも「ブラック企業」が話題となっており、労働時間が法律でも見直しされていますが、このプロレタリア文学はもともと、そういった労働者の怒りや心の声を文学作品で表現してきたものです。
 

資本主義である以上、お金持ちと貧乏人という差が出てくるのは当然です。それが資本主義社会というもの。しかし、人には人権があります。誰であっても、企業の「奴隷」になりたいとは思わないでしょう。

当時の日本は、今以上にパワーバランスが圧倒的に経営陣に傾いており、労働者がまるで奴隷のように働かされていたのも珍しくはなかったよう。

しかし労働者の一部で行動を起こしても、日本の仕組みを変えられるはずもありません。勇気ある行動を起こした人たちは弾圧され、結局仕事がなくなってしまい、生きていけなくなってしまいます。

だからこそ本作のようなプロレタリア文学が出版され、問題を投げかけ浮き彫りにすることで、資本主義の構造をよくしていこうと考えていたのではないでしょうか。

 

『蟹工船』の作者・小林多喜二の生涯。なぜ惨殺された?

本作の作者・小林多喜二は初任給の半分を使い弟にバイオリンを買ってあげるなど、とても優しいお兄さんでした。家はもともと貧乏でしたが、なんとか銀行に入り、21歳のときには、仕送りまでできるようになっていました。

本来であれば、そのまま平和に幸せな人生を過ごしていたのかもしれません。しかし、彼はその道を選ぶことはありませんでした。

当時の日本とペン1本で戦うことを決意しました。それで執筆したのが『一九二八年三月十五日』や『蟹工船』です。

当時は特高警察という組織があり、天皇や日本国に逆らうものを徹底的に取り締まっていました。軍国主義が進められていたため、国は統制がとれないものを排除しようとしていました。今の日本では、とても考えられない光景でしょう。

著者
小林 多喜二
出版日

 

そんな時代背景のなかで多喜二は、『一九二八年三月十五日』の出版で特高警察から恨みを買っており、1930年には、日本共産党への資金援助の疑いで逮捕されます。

そのときは釈放されましたが、次に『蟹工船』を出版したとき、当時の日本の考えを真っ向から批判したという罪に問われてしまいました。そのため本作は発禁処分を受け、彼は当時勤めていた銀行からも解雇されます。その後、とうとう多喜二は特高警察に捕まってしまいました。

そして想像を絶するような拷問を受け、虐殺されてしまいます。

多喜二は生前、特高警察から身を隠すように地下活動をしており、その活動の体験を元に書かれた作品が『党生活者』という作品です。彼の生きざまをさらに知りたい方はそちらも読んでみてください。

 

地獄、糞壺と表されるきつい生活。不潔な環境に暴力がはびこる。

蟹工船の乗組員は、農家の次男や三男坊が多かったようです。地元にいても継ぐ家もなく、出稼ぎに行くしか居場所のない彼ら。そんな理由もあって、どんなひどい労働条件でも、引き受けるしか生きていく道がなかったのでした。

「おい、地獄さ行ぐんだで!」というセリフが本作の冒頭にありますが、蟹工船はまさにそのセリフどおりの場所。労働者はタコ部屋に押し込まれ、その不衛生な環境で何ヶ月も働き続けなければいけません。

監督に殴られても治療は受けられず、風呂には入れず、体にはノミやシラミが湧き続けます。さらに労働者のなかで力のないものは、労働者たちの性欲処理にも使われていました。まさに言葉通り、地獄の環境でした。

こういった劣悪な労働環境が、現代の「ブラック企業」とリンクしていることが、本作の見所の1つでしょう。蟹工船が肉体的な暴力であれば、現代のブラック企業には精神的な暴力があるとも言えます。『蟹工船』の時代よりはマシかもしれませんが、労働環境での上から下への圧力は、昔も今も残っています。

本作はいわゆる「ブラック企業」で働く方は勇気をもらえる作品。労働者たちが今の最悪な環境を問題視し、自分たちの未来を切り拓こうとする様子には誰しも感動することでしょう。

 

『蟹工船』は実話?→世相や経験をモデルにした、フィクションです!

本作はリアルな描写から、ノンフィクションだと思われることも多い『蟹工船』。しかし、実際にはフィクションです。

ですが、モデルとする事件があったことは事実。その事件は1926年に博愛丸と英航丸という蟹工船で起きました。本作は、その虐待事件を題材にしています。

小林多喜二は、当時の乗組員に直接話を聞いたり、新聞や各資料をもとに調査をし続けて本作を執筆しました。彼が世間に現実をより正確に伝えようと徹底したリアルな描写こそが、『蟹工船』が現代でも読み続けられる、歴史的な名作になった理由なのではないでしょうか。

 

「『蟹工船』は難しそう」そんなあなたは、漫画や映画からどうぞ!

著者
["小林 多喜二", "バラエティアートワークス"]
出版日
2007-10-01

『蟹工船』は実はページ数も多くなく、本が苦手な方にとっても非常に読みやすい作品です。しかし、それでも活字が苦手という方には、漫画や映画がおすすめです。

映画『蟹工船』には、松田龍平さんや西島秀俊さんが出演。労働者の過酷さが映像として目で理解できるので、より小林多喜二の世界に入り込みやすいのではないでしょうか。

あまりにも劣悪な環境ということで、入り込みすぎて途中で辛くなってしまうかもしれませんが、一見の価値はあり。蟹工船のような状況が日本にあったことを知り、そこから現代にも通じる学びを得られるでしょう。

松田龍平が実写化出演した映画、テレビドラマ一覧!原作を読むとわかる変幻自在ぶり

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映画俳優・故松田優作の長男にして、今や日本映画界に欠かせない俳優となった松田龍平。彼の魅力はなんといっても、狂気をはらんだ人間から実直な一般人までを見事に演じ分ける圧倒的な演技力です。どこか飄々とした雰囲気と、訥々とした口調に惹きつけられますよね。 この記事では、松田龍平が演じた役柄と作品について紹介します。

 

結末の意味をネタバレ考察!結局最後はどうなる?

著者
小林 多喜二
出版日
1954-06-30

最後に、この力強い物語の結末までの流れをご紹介します。

労働者たちはストライキを起こしますが、海軍によって中心人物たちが捕まってしまいました。しかし彼らは諦めず、自分たちを守ってくれるはずの存在である軍の実態を知ってもなお立ち上がり、ストライキをもう1度起こすことに決めました。彼らは経営陣に、そしてこの国に勝つことができるのでしょうか。

利益さえでれば、労働者をまるでゴミのように扱ってもよいとしている資本家の考えを、真っ向から否定している本作。現代では、この考え方は多くの人に受け入れられる考え方でしょうが、当時の日本でこの流れ、そして結末を書くことは、相当な勇気がいることだったでしょう。

そして、読者も多喜二の考え方に賛成はすれど、その感想を公にできない世の中だったと考えられます。この大胆な発信が現在までも残されているということは、それだけ日本の労働者は鬱憤が溜まっていたのでしょう。

作者の思想が詰め込まれている『蟹工船』が出版されたことによって、当時の日本には救われた労働者がたくさん居たはずです。結果的に拷問によって虐殺されるという最期を迎えた多喜二ですが、彼の考え方は現代にも引き継がれ、確実にかつてのような圧力は少なくなっているのではないでしょうか。


働くとはなんなのかをあらためて考えさせられる本作。ぜひみなさんも、小説でも、漫画でも、映画でも、小林多喜二が命をかけて残した思想に触れてみてはいかがでしょうか。そして、あらためて働くことについて考えてみてはいかがでしょうか。心からおすすめできる作品です。

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