夏の夜空にひときわ輝く赤い星「アンタレス」。さそり座の一等星で、夏の星座を見つける手掛かりにもなります。この記事では、色や大きさなどの特徴や名前の意味、寿命、さそり座の見つけ方などをわかりやすく解説していきます。あわせてより理解が深まるおすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
夏の星座として有名な「さそり座」の心臓にあたる部分で真っ赤に輝く星が「アンタレス」です。「さそり座α星」と呼ばれることもあります。
21個存在している一等星のうちの15番目の明るさで、見かけの等級数は平均で0.96と少し暗め。また等級数が「0.88~1.16」まで周期的に変わる「脈動変光星」ですが、変光周期が5年前後と長く変化量も小さいため、気付く人はいないでしょう。
実際の明るさは、太陽の8000~1万倍もあり、目に見えない赤外線を含めると、なんと6.5万倍に相当する明るさになるそうです。
直径は太陽の約720倍。仮にアンタレスを太陽系の中心に置いたとすると、火星の軌道をすっぽりと包み込むほどの大きさです。ただ質量は太陽の15倍前後しかありません。
表面温度は3500℃ほど。太陽の5500℃と比較するとかなり低く、赤く見えるのもこのためです。地球からは距離は約550光年で、同じ天の川銀河に属し、太陽系に近い天体だといえるでしょう。
このような特性を踏まえ、アンタレスは天文学的に「赤色超巨星」に分類されています。
ギリシャ語で「火星に似たもの」を意味する言葉が語源になっています。火星の軌道に近い位置に見えることがあり、なおかつ色も似ているため、かつては間違えて観測されることもあったそうです。
和名の「赤星(あかほし)」や、古い漢語で「火(か)」、「大火(たいか)」と表されるのは、星の色に由来しています。
また、中国最古の詩篇である『詩経』のなかの「七月流火」という句で使われている「火」は、アンタレスを指しているそう。夏の終わりの黄昏時に火が西へ沈んでいく様子を描いた句で、秋の訪れを意味しています。
「火星(アレース)に対抗(アンチ)するもの」を由来とする説もありますが、こちらは正しい語源ではありません。
アンタレスの寿命はおよそ1000万~2000万年だといわれています。
直径の大きな恒星ほど寿命が短い傾向があり、太陽ほどの大きさだと約150億年といわれているので、アンタレスがいかに大きくて短命であるかがわかるでしょう。
その生涯を終える直前には自身の質量を支えきれなくなり、重力崩壊が発生して超新星爆発を起こすと考えられています。
超新星爆発の後に残るのは、「中性子星」と呼ばれる最晩年の天体。質量が足りないためブラックホールにはならないようです。
アンタレスの寿命がいつ尽きるのか正確なことはわかっていませんが、仮に超新星爆発が起きたとしても地球からの距離は十分離れているため、影響は無いといわれています。
肉眼ではひとつに見えるアンタレスですが、実は2つの恒星が寄り添っている「連星」です。宇宙に存在する天体の大半は連星だそうで、アンタレスの場合は寄り添っているといっても、両者の距離が地球と太陽の平均距離の550倍もあります。
連星のうち明るい方を「主星」、暗い方を「伴星」といい、主星が「アンタレスA」、伴星が「アンタレスB」と名付けられています。
アンタレスBの明るさは5.2等級。主星の周りを878年かけて公転しています。
夏の大三角とともに、夏の星座として親しまれている「さそり座」。南の空に観測することができます。あまり高くはのぼらないので、できるだけ開けた場所で観測しましょう。6月下旬は22時頃、7月下旬になると20時頃に真南に見えます。
さそり座を見つける際にもっとも目印になるのがアンタレスです。赤い色をしていて、なおかつ他の星よりも明るいので、見つけやすいでしょう。
アンタレスを見つけたら、東の方角に向かって星がS字のカーブを描いて並んでいることを確認します。これが「さそりの胴体から尻尾」です。空が暗い場所であれば、背後にうっすらと雲のように見える「天の川」も観測できるでしょう。
アンタレスを挟んだ両側にも星が並んでいます。これが「さそりの胸」の部分で、さらに西の方角には「さそりの頭」にあたる縦に3つ並んだ星を見つけられるはずです。
- 著者
- ["渡部 潤一", "出雲 晶子"]
- 出版日
- 2012-06-20
全部で88あるすべての星座を収録した図鑑です。日本では見ることができない南半球の星座についても知ることができます。
各季節ごとのカラー星図から探したい星座のおおよその位置をつかむことができ、また解説ページでは実際の星空を撮影したカラー写真が掲載されているので、見え方を確認することができます。
目立つアンタレスからさそり座を見つけるように、順を追って星座を見つける方法も載っているので、実用的な使い方ができるでしょう。
随所にちりばめられたコラムには、ギリシャ神話や望遠鏡の使い方、プラネタリウムに関する情報などを紹介。飽きることなく1年中星空を楽しむことのできる一冊です。
- 著者
- 佐藤 勝彦
- 出版日
- 2012-12-06
作者の佐藤勝彦は宇宙物理学の権威で、宇宙の始まりについて論じた「インフレーション理論」の提唱者のひとりとして知られている人物です。佐藤は、「夜がなかったら宇宙という存在に気づかなかったかもしれない」と述べています。
太古から、人間は夜空に広がる星を見て宇宙について思いを馳せてきました。赤く輝くアンタレスもそのひとつでしょう。本書では、古代ギリシャから現代にいたるまで、人々がどのような思いで宇宙を見つめ、その謎を紐解いてきたのかを、当時の社会的背景も含めて解説しています。
宇宙というと、難しい理論や公式など専門的な知識がないといけないと思いがちですが、説明はわかりやすく、文系の人が読んでもまったく問題ありません。宇宙について学ぶ際に最初に読みたい一冊。興味が広がるでしょう。