国の天然記念物に指定されているイリオモテヤマネコ。生息数がとても少なく、絶滅が危惧されています。この記事ではそんな彼らの生態や体の特徴、歴史、保護活動などをわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。
ネコ科ベンガルヤマネコ属に分類され、ユーラシア大陸の東方に生息しているベンガルヤマネコの亜種だと考えられています。1965年に八重山群島の西表島で発見され、大きな話題となりました。現在は国の特別天然記念物に指定されています。
夜行性で、基本的には地上にいますが、木に登ったり泳いだりするのも得意です。単独で行動し、1~7平方キロメートルほどを行動圏内を縄張りとしています。
島の食物連鎖の頂点に君臨し、哺乳類や鳥類、爬虫類、両生類、甲殻類などさまざまなものを捕食するのが他のヤマネコと異なる特徴です。通常のヤマネコはネズミ類やウサギを主食とし、広大な生息域が必要ですが、西表島の面積はそもそも290平方キロメートルしかありません。ヤマネコ類の生息域としては世界最小といわれています。
このような限られた土地で生き抜くために、さまざまな生物を食べるよう進化したと考えられています。寿命は他のネコ科の動物と比べるとやや短く、10年ほどです。
体長はオスが55~60cm、メスが50~55cmほどです。体重はオスが3.5~5kg、メスが3~3.5kgほどで、イエネコよりも少し大きいくらいと考えるとよいでしょう。
イエネコとの外見的な違いは、耳が丸く、裏の一部が白くなっていること、額に縦縞の模様があり、隈取のように目の周りが白くなっていること、尻尾が太く長いこと、胴が長く四肢が短いことなどが挙げられます。
遺伝的にはピューマに近い種で、全身に斑点模様があるのも特徴です。
西表島に野生ネコがいるということは現地では知られていて、「ヤママヤー(山にいるネコ)」や「ヤマピカリャー(山で光るもの)」、「メーピスカリャー(目がぴかっと光るもの)」などと呼ばれていました。
沖縄がアメリカの占領下にあった頃には、アメリカの大学による調査もおこなわれましたが発見にはいたらず、飼い猫が野生化したものではないかという考えもありました。
1965年2月、動物文学作家の戸川幸夫が返還前の島に入り、情報や標本を収集し、皮や骨などを発見します。それらを日本哺乳動物学会が鑑定した結果、「新種か新亜種である可能性があるが、奇形あるいは海外から持ち込まれたものが野生化した可能性も捨てきれない」という判断がされました。
その後1967年に、猟師の黒島宏によって生きたヤマネコが捕獲され、国立科学博物館動物部長の今泉吉典によって新種として発表されたのです。
今泉は発見者である戸川の名前から「トガワヤマネコ」と名付けるよう提案しましたが、戸川本人がこれを辞退。そのため発見地の西表島の名をとって「イリオモテヤマネコ」と名付けられました。
2018年時点で、西表島に生息しているイリオモテヤマネコの数は、100頭前後にまで数を減らしています。そのため、環境省レッドリストの絶滅危惧IA類に分類され保護活動がおこなわれていますが、調査のたびに個体数が減少する傾向に歯止めはかかっていません。
その大きな理由として、人間の土地開発による生息地の破壊や交通事故が挙げられます。特にイリオモテヤマネコの行動圏を分断する県道の存在が拍車をかけているようです。交通事故によって命を落とす個体の多くが、子猫や親から自立したばかりの若い成体であることも問題でしょう。
また近年では、観光客の増加によって外部から持ち込まれる感染症や、野良猫との競合、交雑なども懸念されています。
イリオモテヤマネコを保護するために、1995年に「西表野生生物保護センター」が設置されました。このセンターでは彼らの生態に関する調査研究や交通事故への対策、持ち込まれる外来生物への対策などに取り組んでいます。
その一環で設置された「ヤマネコ注意」の道路標識は、西表島のシンボルともいえる存在になり、そのほか非営利団体や地元の住民などによるパトロールも実施されています。
- 著者
- 安間 繁樹
- 出版日
- 2017-01-20
動物好きが高じて研究者となった男性が西表島を訪れ、イリオモテヤマネコを観察した記録ノートや工夫などをまとめた作品です。
小さな島で暮らすイリオモテヤマネコが、実は大陸に生息するベンガルヤマネコに近い種だという事実から見えてくるのは、とてつもない地球の歴史でした。約20万年前、西表島を含む琉球諸島は大陸と繋がっていたのです。イリオモテヤマネコは当時大陸からやってきて、20万年という長い月日をかけて独自に進化を遂げてきました。
知的好奇心を刺激してくれる1冊です。
- 著者
- ["鈴木 直樹", "森本 孝房"]
- 出版日
- 2017-08-09
イリオモテヤマネコやカンムリワシ、リュウキュウイノシシなど珍しい動物が多く生息することで知られる西表島は、「東洋のガラパゴス」とも呼ばれています。作者は、人間の気配を消すことでありのままの動物たちの姿を捉えることができるようにと、自らロボットカメラを開発し、撮影に挑みました。
神秘に満ちた島で撮影された写真には、野性味あふれる動物たちの生態が切り取られています。特に水に潜って魚を捕る習性がある、「水を怖がらないネコ」イリオモテヤマネコの躍動感あふれる姿は圧巻でしょう。
また定点カメラの画像の時間軸を消し去ることで実現した「時間軸写真合成画像」では、小さな島の限られたフィールドで巧みに共存している動物たちの姿を見ることができます。この共存関係があるからこそ、世界最小といわれる生息域のなかでイリオモテヤマネコは生きていけるのでしょう。
豊かな生物に溢れる奇跡の島を訪れたくなる1冊です。
小さな島で生息するイリオモテヤマネコ。20万年にわたって絶妙なバランスで保たれてきた営みは、人間による環境破壊によって徐々に崩れ、今や絶滅の危機に瀕しています。豊かな自然とそこで育まれてきた動植物たちを守るために、我々に何ができるのか考えさせられます。興味をもたれた方はぜひ紹介した本を読んでみてください。