春を告げる鳥として知られるツバメ。建造物の軒先に巣を作るため身近な印象を抱く人も多く、またその巣は高級食材として注目されることもあります。そんなツバメですが、その暮らしぶりはとてもハードです。この記事では、彼らの生態や種類ごとの特徴、長距離を移動する渡り、巣作りと子育てについて解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。
スズメ目ツバメ科に分類される鳥類で、体長は平均15~20cm、翼開長は30cm前後です。
南北アメリカ大陸やユーラシア大陸、アフリカ、インド、東南アジアにいたるまで世界の広い地域で姿を見ることができます。
肉食で、空中で昆虫を捕えて食べ、水も水面を滑空しながら飲みます。
オスメスともに寿命はおよそ7年で、そのうちの約2週間を卵として過ごし、幼鳥の期間は1年です。
オスはメスに比べて尾が長いのが特徴です。ヨーロッパでは長ければ長いほどモテるため、その遺伝子が強く受け継がれたといわれています。一方の日本では、喉の赤い羽毛が生えた部分の面積が大きく、鮮やかで、太っているオスほどモテると考えられています。地域によって、魅力になるポイントが違うのは面白いですね。
日本で姿を見ることができる種類のうち、5種類を紹介します。
北海道から九州にかけて生息。お腹に淡色の斑があり、名前の通り腰と眼の後ろの羽が赤褐色をしています。全長は17~20cmで、翼開長は33cmほどです。ツバメと同じく民家や店の軒下に巣を作りますが、その形はとっくりを横にしたようなもので、このことから「トックリツバメ」と呼ばれることもあります。
北海道から九州にかけて生息。全長は13cmほどと小さめです。腰とお腹が白く、全体は黒色をしています。尾羽の切れ込みが浅く、また長さも短いのが特徴です。
かつては海岸や山間部の岩場に巣を作っていたのでイワツバメと名付けられましたが、近年はコンクリート製のビルや集合住宅の軒下で営巣することが多く見られます。巣は深いどんぶりの側面に穴があいた形をしています。
奄美諸島や琉球諸島に生息。日本で越冬するため、1年を通して姿を見ることができます。全長は13cm前後で尾羽も短めです。全体的に黒っぽい体色で、喉から嘴まではオレンジ、腹部は灰色がかった白です。尾羽の付け根にうろこ状の班が見られます。
街中の民家や店の軒下に、ツバメとよく似たお椀型の巣を作ります。
関東地方から四国、九州にかけて生息。アマツバメの一種で、全長は12cmほどです。黒褐色の体毛をしていて、喉と腰に白い羽毛が生えています。
長い間、日本にはやってこない種類だと考えられていましたが、1960年代に姿が見られるようになってからは国内で越冬することがわかりました。
イワツバメやコシアカツバメの使っていた巣を利用する姿が確認されており、巣の入り口に自らの羽を付着させる習性があります。
北海道にやってくるツバメの一種で、体長は13cmほどです。暗褐色の体毛で腹部は白色、胸に茶褐色のT字模様があります。水辺や草原に住み、切り立った崖や土手に集団で営巣します。
巣穴の直径は5~10cmほど、奥行きは20~100cmになることもあるそうです。
春から夏を日本で過ごしたツバメは、9月中旬から10月の終わりになり気温が下がると、餌となる昆虫が少なくなる日本を後にして、台湾やフィリピン、マレー半島、オーストラリアなど3000~5000kmも離れた南の国へ移動します。
日本を出発した彼らは集団で行動し、台湾以南に渡る場合はフィリピン近海でばらけて目的地に進んでいくそうです。
そのスピードは、時速45~50kmほど。途中で休みながらも、1日に最長で300kmも移動することが確認されています。太陽の位置を目印にしながら進路を定めているそうです。
1年を通して暖かい場所で暮らすことができればこのような長距離移動をしなくてよいのですが、南の島には同じく昆虫を捕食する生物が多く、子育てに必要な量を集めるのが難しいことから、ライバルの少ない場所を選んでいるのではないかと考えられています。
この過酷な生活を続けるために、ツバメなどの渡り鳥が身に着けた能力が「半球睡眠」と呼ばれるものです。脳の半分だけを眠らせ、周囲に気を配って飛び続けながらも休むことができます。
ツバメの巣は、民家の軒下などに主に田んぼなどから運んできた泥や枯草を使って作られます。3月頃からつがいで協力して作業を開始します。口から分泌される唾液などを練り込むことで強度を高め、少しずつ泥を重ねていくことでお椀状の巣ができるのです。
できあがった巣の直径は13cmほど、深さは2.5cm程度で、そこに枯草や自らの羽毛を敷き詰めてフカフカにし、産卵用のベッドを作ります。
産卵をするのは4~5月。1日に1個ずつ、合計で3~7個の卵を産みます。卵はメスが中心になって温め、2週間前後で孵化します。雛にはオスとメスが交代で餌を与え、親鳥たちは1日に500回も巣と餌場を往復するそうです。その間雛は巣の中でじっと待ち続けます。
梅雨を迎える頃になると、いよいよ巣立ちです。ただし、直後は餌が上手に取れないことも多く、巣立ってから1週間前後は親から餌をもらう個体もいます。また巣立ちまで生き残ることができる雛は5割程度しかいません。
この後続けて2回目の産卵と子育てをおこなう親鳥もいますが、夏までにはすべての雛が巣立っていきます。
秋になると暖かい南の国を目指して日本を後にしますが、親鳥たちは翌年の春になると、昨年作った巣の近くで待ち合わせをし、再び産卵をするのです。
たまに、巣から転落している雛を見つけることがありますが、この場合は地域の役所に許可を得てから「保護」という形でのみ飼育をすることが可能です。
雛が巣から転落するのは事故である場合も多いですが、オスの親鳥が故意に子を殺すこともあります。メスが他のオスとのペアリングで産んだ雛を感じとり、自分の血を引かない個体を追い出す習性があるのです。
また、体が小さくて、強く育たない可能性のある雛には餌を与えずに巣から落とすこともあるそうです。何度も餌場と巣を往復する献身的な子育てかと思いきや、意外とシビアな一面があることがわかります。
ここまでツバメの生態や種類を紹介してきました。
次の項目ではツバメの生態を詳しく知ることが出来る本を2冊紹介します。図鑑には書かれていない情報が盛りだくさんですので、ぜひ参考にご覧ください。
- 著者
- ["神山 和夫", "渡辺 仁", "佐藤 信敏"]
- 出版日
- 2012-01-01
飛行メカニズムや繁殖などの生態に関することや、巣から落ちた雛を見つけた時の対処法、自宅の軒下に巣を作ってもらう方法など、ツバメとの関わり方を解説しています。
作者自身がフィールドワークで得た結果をもとに書かれているため、図鑑などには載っていない詳細情報が魅力です。
実はスズメがツバメの雛を巣から突き落として巣を乗っ取ること、日本で越冬するためにロシアからやってくる種類がいることなど、興味深い話題が満載です。
- 著者
- 鈴木 まもる
- 出版日
- 2009-02-01
「だれかがぼくをよんでいる」
不思議な声に導かれて越冬地のマレーシアから5000km離れた日本に戻るオスのツバメ。その旅路を一人称視点で描いている絵本です。
なんといっても絵が美しく、臨場感の溢れる描写がシンプルなストーリーを際立たせ、旅の過酷さを追体験させてくれます。
苦難を乗り越えながらも日本についた彼は、奥さんと一緒に巣作りをし、産卵へと向かいます。そして卵がかえった時、自分を呼んでいたのが誰で、なぜ危険を冒しながらも日本へやってきたのかを知るのです。
小さなお子さんでも理解できる内容ですが、大人が読んでも感涙必至の、ツバメの逞しさを感じさせてくれる作品です。
軒下に巣を作るため、都市部での生活に適合した生態をしていると思われがちですが、雛を育てるためには田んぼや河川敷など昆虫が生息する餌場が必要です。毎年同じ場所で彼らが巣作りをできるような環境を維持していきたいものです。