その小さい体からは想像がつかないほど大きな声で鳴く鈴虫。古くから日本人に親しまれてきた秋の虫です。この記事では、彼らの生態や鳴き声を出す仕組み、飼育方法、卵の管理方法などを解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。
バッタ目コオロギ科に分類される昆虫です。体長は17~25mmほどです。リーン、リーンという鳴き声の美しさと、飼育が簡単なこともあり、江戸時代にはすでに日本人に親しまれていました。
東北以南の本州、四国、九州に生息していて、昼も夜も草むらなどに潜んでいることが多く、捕まえるのは意外と困難な昆虫でもあります。
自然環境下で成虫の姿が見られるのは8~10月です。越冬ができないため10月中にはすべて死んでしまいます。成虫の寿命は50~70日ほどでしょう。
夜行性のため、鳴き声が聞けるのは夕方以降がほとんどです。食性は肉食寄りの雑食で、昆虫の死骸や枯草を餌にしています。
鈴虫の右翅には突起が一列に並ぶやすり状の「鑢状器(ろじょうき)」という器官があり、左翅には「摩擦器」という器官があります。この2つをこすりあわせて振動を作り、翅の膜が空気を震わせてその振動を増幅させることで、大きな音を出しているのです。
鳴くことができるのはオスのみで、繁殖期にメスにアピールするために音を出します。鈴虫の耳は前脚にある膝のような関節のすぐ下にあり、ここで音を聞きとっているそうです。
「競い鳴き」と呼ばれる数匹で同時に鳴くものと、単独で鳴く「独り鳴き」の2種類があり、独り鳴きは周囲に他の鈴虫がいない時にのみおこないます。基本的には「競い鳴き」のほうがボリュームが大きくなるようです。
鈴虫は複数飼育が可能な昆虫なので、30cmサイズの飼育ケースであれば20匹程度を一緒に飼うことができます。繁殖を考えている場合は、1匹のメスが100~200個の卵を産むことをふまえて大きめのものを用意しましょう。
野生の個体を捕まえるのは難しいので、ペットショップなどで購入するのがおすすめです。雄雌のペアで500円以下で手に入ることが多く、単体で購入する場合はオスの方が50円ほど高い傾向にあります。
跳躍力はあまり無いので、飼育ケースの高さは必要ありません。中にはマットを5~6cmの厚さで敷き、隠れ場所として使えるような割れた植木鉢や、止まり木になる流木、餌を乗せる小皿などを配置します。マットが乾いてきたら霧吹きなどで湿らせてください。
餌はナスやキュウリ、カボチャなどの野菜、鰹節や煮干し、小動物用のペレットなど動物性タンパク質を含んだものを与え、共食いを防ぎます。直接土の上には置かず、小皿や石の上に置くか、竹串などに刺して与えましょう。
成虫が寿命を迎える10月頃になると、マットの中に産み付けられたたくさんの卵を確認できます。使わない止まり木やゴミなどを取り除いてケースを綺麗にし、霧吹きでマットを湿らせましょう。その上にビニールなどを被せてケース内の湿度を保てるよう密閉し、暗い場所に置きます。
産卵から2か月間ほどは、マットが乾いたら湿らせるようにしてください。それ以降は乾燥させます。
3月に入ったら直射日光の当たらない暖かいところにケースを移動させ、孵化するまでマットは常に湿らせておきましょう。
卵は5~6月に孵化します。幼虫を飼育する際は、ケースに新しいマットを敷いて、野菜や鰹節などの餌、止まり木を入れます。マットは乾燥させないようにしましょう。
2か月間で6回の脱皮をし、成虫になります。脱皮の際は止まり木が必須なので、忘れずに入れてあげてください。
- 著者
- 高嶋 清明
- 出版日
- 2013-06-14
鈴虫などのコオロギの仲間や、バッタ、セミなどさまざまな鳴く虫を紹介し、鳴き声の出し方やなぜ鳴くのかなどを解説した作品です。
写真が豊富なのが特徴で、全身写真だけでなく翅の細部まで見られるのが嬉しいポイントです。鈴虫がもっている「鑢状器」と「摩擦器」も確認することができます。
またコオロギの仲間でありながら鳴くことがない「コロギス」がどのようにして仲間とコミュニケーションをとっているのか、「カミキリムシ」など鳴く印象の無い虫がどのような鳴き声をしているのかも紹介しています。実は人間には聞こえていないけれど、本当は鳴いている虫が多数いるという事実にも驚かされるでしょう。
鳴き声をデータ解析した資料も載っていて、メスへのアピール、縄張りの主張などシチュエーションによってどのような違いがあるのかも一目瞭然です。「子供の科学」シリーズですが、大人が読んでも多くの発見があるでしょう。
- 著者
- 木坂 涼
- 出版日
- 2013-06-20
鈴虫をとおしておじいちゃんと女の子の交流を描いた絵本です。孵化、幼虫の脱皮、初鳴き、産卵、そして死という一生を追っていきます。作者自身も20年近く鈴虫を飼育し続けているそうです。
おじいちゃんは電話や手紙を使って女の子にアドバイスを送るのですが、どれも実際の飼育に役立つものばかりです。また透明感のある翅の描写などイラストも細かく、図鑑や飼育ガイド本としても役に立ちます。
だんだんと弱り鳴く力がなくなった鈴虫を観察する女の子の様子や、飼育ケースの中に死んでいる個体を発見した時の描写などからは、作者の愛情を感じることができるでしょう。
日本人にとって鈴虫の鳴き声は、秋の訪れを感じさせてくれるものです。しかし、元来見つけにくい場所に生息していることに加え、近年では生息地の減少から野生の個体を捕まえるのはなかなか難しいといわれています。幸運にも見つけることができた場合は、ぜひ紹介した本を参考に飼育に挑戦してみてください。