都市部でも姿を見ることが多いギンヤンマ。他の種と比べると動きが早いため、捕まえることはもちろん姿をじっくり観察する機会もあまりないのではないでしょうか。この記事では彼らの生態や種類ごとの特徴、卵から成虫になるまでの流れ、オニヤンマとの違いなどをわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
トンボ目ヤンマ科に分類される昆虫で、全長は7cmほど、翅の長さは5cmほどです。日本全土で姿を見ることができ、池や沼、水田などの水辺に生息しています。
成虫の姿を見られるのは4月から11月にかけてです。オスは腹部の付け根が水色、メスは黄緑色をしています。他のトンボと同様に、オスの腹部の第2節と第3節の間には「副生殖器」があるため膨らんでいます。一方でメスの腹部は平坦です。
オスは成熟すると池や湖に400平方メートルにもおよぶ縄張りをもち、毎日パトロールをしています。そのため眼も発達していて、大きな複眼は2万を超す個眼で構成されています。また額には3個の単眼があり、光を感じて空の方向を探っているようです。
食性は肉食で、主な餌は蚊や蝿、アブなどの小さな昆虫です。空中を飛びながら長い脚で抱え込み、捕食します。1日に自身の体重の10%ほどを食べる必要があるので、餌となる小さな昆虫が見つからない場合は共食いをすることもあるようです。
日本で姿を見ることができる3種類を紹介します。
本州から南西諸島に分布しています。全長は8cmほどです。木陰の多い池や湿地を好み、ギンヤンマに比べて翅が短く、飛行速度も緩やかなため、比較的捕獲が簡単な種でもあります。
成虫の胸部に黒い線が2本見られるため、この名前が付けられました。
国内では南西諸島と小笠原諸島の一部でしか見られませんが、世界ではアジアとオセアニアの熱帯域の広い範囲で見られます。全長は8~8.5cmと大型の種類です。
東南アジア全域に広く分布していて、日本では奄美大島以南にのみ生息しています。八重山諸島では1年を通して姿を見ることができるそうです。
全長は8~9.5cmと、国内で見られるヤンマ科のなかでも最大級です。鼻に独特なT字の紋があります。
ギンヤンマの卵は交尾の後に水草に産み付けられ、産卵から12日程度で孵化します。肉食のヤゴは水中の微生物を食べて成長し、大きくなるとオタマジャクシやメダカも食べるそうです。
成虫になるまで10回以上脱皮をくり返し、生まれた時期によっては越冬をすることもあります。越冬する場合は約8か月、しない場合は3~4か月と、ヤゴの姿でいる期間に幅があるのも特徴です。
羽化をする準備が整うと、天気のいい夜を選んで植物の茎や枝をつたい陸へ上がってきます。この時、尾をそり返す仕草が見られますが、これは羽化した後に翅を伸ばすため、障害物がないか確かめているのです。
安全な場所を見つけると、草や枝に捕まって体を固定させ、羽化を開始します。羽化したての体はとても柔らかいため、固くなるまで動かずにじっと休息し、明け方頃に空へ飛び立って行きます。
オニヤンマは、ギンヤンマと同様に日本生息するトンボです。ともに住宅地や都市部で姿が見られるため混同されやすいですが、オニヤンマの体長は10cm前後と大きく、体色も雌雄ともに黒地に黄色の縞があるという違いがあります。
またヤンマ科のトンボは、前から顔を見てみると複眼同士がぴったりと接していることが確認できますが、オニヤンマは複眼が1点でのみ接しているのが特徴です。
さらに、ギンヤンマが単独で行動するのに対してオニヤンマは群れをつくって行動します。寿命もギンヤンマが1年程度なのに対し、ヤゴの期間が長いオニヤンマは4年もあるという違いもあります。
- 著者
- 得田 之久
- 出版日
- 2010-06-10
ヤゴ、成虫、交尾と産卵とギンヤンマの一生を描いた絵本です。作者は昆虫絵本作家として有名な得田之久で、本書は1970年代に出版したものの改訂版です。
当時は参考となる資料が少なかったため、2~3年をかけて得田自らがトンボを観察し、作成しました。羽脈の1本1本まで丁寧に描いています。ギンヤンマ以外の昆虫や植物も細かい筆致で表現され、まるで本当に水辺で暮らす彼らの姿を覗いているようです。
絵本ですが内容は図鑑に匹敵するといってよいでしょう。大人でも充分に満足できます。
- 著者
- ["尾園 暁", "川島 逸郎", "二橋 亮"]
- 出版日
- 2012-06-29
日本に現生するトンボ203種を美しい写真とともに紹介している図鑑です。
卵、ヤゴ、成虫それぞれが見られる時期や生息地などの情報とともに、すべてのトンボの頭部と側腹部のイラストを掲載しています。個々の生態だけでなく、近種の見分け方に関する知識もつけることができます。
またすべての種で、ヤゴ、成虫のメス、オス、交尾の様子の写真を収録しており、特にイトトンボの交尾は神秘的な美しさを感じさせてくれるでしょう。
ボリュームはありますが持ち運びができるサイズなので、ぜひ本書をもって観察に出かけてみてくさい。