巨体ゆえに研究目的の運搬が困難なことから、まだわかっていないことの多い魚、「マンボウ」。岩にぶつかっただけで死んでしまう、泳ぐのが遅い最弱の生物であるなど、さまざまな噂も流れています。この記事では、彼らの生態や種類ごとの特徴、寄生虫、赤ちゃんの姿などを解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。
フグ目マンボウ科に分類される魚で、温帯、熱帯の海水域に分布しており、日本近海でも沖合の表層で姿を見ることができます。
全長は平均で2.7m前後です。巨体ゆえに正確な測定は困難ですが、平均体重は1tを超すと考えられています。
食性は肉食で、死んだ個体の体内からはクラゲや小魚、プランクトン、甲殻類、軟体動物といったさまざまなものが確認されています。捕食対象に噛みつくのではなく、吸い込んで摂餌するそうです。
稚魚の時は、カツオやマグロ、アシカ、サメ、シャチなど数多くの天敵が存在しています。成体になってからの天敵は少ないそうです。ただ2015年には絶滅危惧種に指定され、個体数が減った原因は人間が他の魚をとるために仕掛けた網に引っかかる「混獲」にあるとされているので、最大の敵は人間といえるかもしれません。
飼育下での寿命は最長で10年です。野生下での寿命は正確なことはわかっていませんが、20年は生きるのではないかと考えられています。
マンボウ科には、一般的な「マンボウ」を含め5種類が現生しています。
ウシマンボウ
世界中の温帯、熱帯の海水域に生息し、日本でも北海道以南で姿が見られます。全長は3.3mほどです。
長い間マンボウと同一種であると考えられていましたが、2010年に独立した種類に分類されました。下顎に瘤のような隆起が見られること、舵鰭が丸いことなどが相違点として挙げられます。
ヤリマンボウ
世界中の温帯、熱帯の海水域に生息し、日本では秋田県、宮城県以南で姿が見られます。全長は2.2mほどとやや小柄です。
下顎が突出していること、「舵鰭(かじびれ)」と呼ばれる体の後方についているヒレが山型で突出しているのが特徴です。
クサビフグ
世界中の温帯、熱帯の水域に生息し、日本では秋田県、宮城県以南で姿が見られます。全長は1m弱とマンボウ科のなかでもっとも小さな種類です。
他の種類は丸みを帯びた体をしているのに対し、細長く楔(くさび)のような体型をしています。
カクレマンボウ
オーストラリア南東、ニュージーランド近海などで生息が確認されている種類です。全長は2.2mほどです。
2014年にニュージーランドのクライストチャーチに打ちあげられ、既存の種に比べて細くて薄い体をもっていたことから研究がすすめられ、2017年に新種として登録されました。
マンボウの体の表面や消化器官には、なんと50種類以上の寄生虫がいるそうです。なかには「マンボウノチョウ」「マンボウノシラミ」といった他の生物には見られないものも寄生しています。
マンボウの遊泳速度は時速2~3kmほどと遅く、鱗も小さくてとれやすいため、寄生虫が宿主として選びやすいと考えられているのです。
千葉や茨城など国内の一部の地域、また台湾などではマンボウを食用とする文化もありますが、これは冷凍処理を施して寄生虫を死滅させたものを捌いているので、水揚げされたものをそのまま口にするのは非常に危険です。
フグ目に分類されますが、フグの毒として知られる「テトロドトキシン」は保有していないため、調理に資格は必要ありません。
マンボウは1度に3億~7億個の卵を産み、これは現生する生物のなかで最多だといわれています。ただそのうち成体になるまで生き残ることができるのは2匹程度で、きわめて生存率の低い生物としても有名です。
孵化したばかりのマンボウは、尾ビレに似た「膜鰭」というものを持ち、体型も仔魚とわかる形をしています。
稚魚に成長すると大きさは人間の小指の爪くらいになり、丸い体の全身に棘のようなものがみられます。その姿はまるで金平糖のようです。
この棘は、体の表面積を増やすことで浮力を大きくし、海中を移動しやすくしていると考えられています。また捕食されることを避けるのにも役立っているとされ、少しでも多く子孫を残そうとする生存戦略だろうと推測されています。
体長30cmほどに成長する頃に、棘はなくなります。
- 著者
- 澤井 悦郎
- 出版日
- 2017-08-22
少年期にマンボウに魅せられ、2018年現在も広島大学で研究を続けているという作者。本書は、生態から都市伝説の真実までさまざまな角度からマンボウを紹介していく作品です。
「自由研究の延長」と作者自身が述べているように、写真や図を多用したわかりやすい構成です。専門性が高いDNAについてや、記録計を付けた個体を追跡した情報なども、苦労せず読み進めることができます。
実はインターネット上にさまざまな噂が流れているマンボウ。それらをひとつひとつ解説、訂正していく丁寧さからは、そこはかとない愛情を感じられるでしょう。
子ども向けの書籍として発表されていますが、大人が読んでも十分に満足できる内容です。
- 著者
- たけがみ たえ
- 出版日
- 2017-11-01
とあるマンボウがひまな日に思いついたという、ことわざをもじった不思議な短文を紹介していく絵本です。
作者のたけがみたえは、新進気鋭の木版画家として知られる人物です。本書も、版画集としても鑑賞できるほどユニークでダイナミックな絵を堪能することができます。
「蚊も泣くフカも泣く」「雪降って温まる」などの創作短文が見開きで大きく印字され、端に小さく元ネタとなることわざが書いてある構成です。クイズ形式で楽しむことができますし、リズム感や語呂がよいので元となることわざを知らなくても問題ないでしょう。
解明されている生態も不可思議で、姿は確認されているもののUMAのような浮世離れした印象が拭えない奇妙な生物、マンボウ。稚魚の姿も、成体からはとても想像のつかないものでした。興味をもった方はぜひ紹介した本を読んでみてください。