「クラブ・ミュージック」を俯瞰する書籍たち。ダンスフロアでの体験を活字化

更新:2021.12.14

Youtubeで即視聴できる現在とは異なる状況にあった、インターネット以前のクラブ・ミュージックの原点。現代のように、DJがプレイするダンスミュージックに熱狂することが定着するより前の時代には、海外発の情報が届かず、日本からは現地で何が起こっているのか把握しきれなかった。 頼りになるのは、現地での伝聞、海外の雑誌、CD、レコード、イベントのフライヤーなど。それらから熱狂的な現場を紐解いた書籍がある。文化を伝えるために編纂された書籍、そのいくつかを訳書含めて紹介していこう。

ブックカルテ リンク

クラブ・ミュージックの全貌を知るための「聖書」

著者
["ビル ブルースター", "フランク ブロートン"]
出版日
2003-03-01

クラブ・ミュージック。その全貌を黎明期から知りたいのなら、この分厚い一冊はまさに必読。1927年のラジオDJの誕生から、90年代後半のスーパースターDJの誕生までを濃密に記した600ページ超の大作。

ノーザン・ソウル、レゲエ、ディスコ、ヒップホップ、ガラージ、ハウス、テクノ。各ジャンルのシーンが連動しながら勃興したことが書かれているのは、日本語ではこの書籍のみ。継承されていく文化の連なりの味わい深さに没入し、自分は徹夜で熟読した。現在改めて読み返してみると、「2003年あたりには、アメリカにも1988年スタイルのダンス革命が起きるはずだ」という一文があり、これが現在のEDMの爆発的な流行を予見している。

クラブ・ミュージックの多様性を辞典化

CLUB CULTURE A to Z

ディスコ研究会
銀河出版

タイトルに「A to Z」とあるように、1993年当時のクラブ用語を辞典形式で紹介。掲載される500のキーワードは、当時経営中だったクラブの名前、活動中のアーティスト、流行語など幅広いジャンル。

またプライマル・スクリームからECDまでメジャーからアンダーグラウンドまで分け隔てず、クラブ・カルチャーに関連した事柄を広い枠組みで紹介している。現在では住み分けが出来てしまったが、この雑多感が楽しめるのは当時ならでは。というか、このように多様な価値観がひとつの空間に同居するというのが本来のクラブ・カルチャーの醍醐味だったはず。

黎明期のクラブ・ミュージックを日本から編纂

著者
出版日

のちの国内クラブ・ミュージック誌『エレキング』『ラウド』などに携わる方々が一同に介して、1993年までのクラブ・ミュージックをレイヴ、ハウス、イビサなど章を立てて紹介。

当時はまとまった情報が載った書籍がこれ以外になかったゆえに希少な存在であった(もちろんミニコミなどもあったが)。手に取った時は10代だった自分に理解できない単語が多く、当時の高尚な文体もあって読み解けなかった。読み直してみると、ワンクリックで海外の情報にたどり着ける現在と違って、当時は文化を輸入することが過酷であり、その希少性が伝わる。

2000年代の成熟したクラブ・シーンのトピックを紹介

著者
湯山 玲子
出版日
2005-09-01

タイトルの通り、音楽的側面よりも文化的側面を軸にまとめた一冊。筆者自身の音楽体験を元にした、クラブの楽しさが伝わる内容。

幅広い章立てで、俗っぽい国内のパラパラから、クラブ・ミュージックの聖地イビサ、そしてイギリスの音楽ジャーナリズムまで、興味深いトピックを平等に扱う点が好印象。クラブ・ミュージックに接するテンションの高さが2005年当時のパーティ感を反映していて、懐かしい気持ちに浸れる。10年以上経過してシーンが成熟した現在との熱量の差を感じる。

エレクトロニック・ミュージック寄りのディスクガイド

著者
佐久間 英夫
出版日

DJがプレイするために12インチのレコードでのリリースが中心であった、初期のクラブ・ミュージック・シーン。2000年頃から、アーティストのCDアルバムやDJによるミックスCDが目立つようになる。レコードに比べて手軽で一般的なCDというメディアに注目した一冊。

著者は当時テクノ系レコードショップTECHNIQUEの店長であった佐久間英夫ということもあって、クラブ・ミュージックの括りもハウス、テクノ、ドラム&ベース、トランス、ブレイクビーツなどのエレクトリック・ダンス・ミュージックが中心。2002年までの約1000枚の名盤に触れられる。

ブラック・ミュージック寄りのディスクガイド

著者
小川 充
出版日
2008-11-28

ディスコ以降、1988年から2008年までリリースされたクラブ・ミュージック全般を取り扱うディスクガイド。

ヒップホップ、テクノ、ハウス、クラブ・ジャズ、ドラム&ベースと幅広く取扱い、DMRのバイヤーであり音楽評論家の小川充の監修もあって、ジャジーなブラックミュージック寄りの作品が中心。クラブ・ミュージックはジャンルやリリース点数が多いゆえに、誰が編集するかで捉え方が変わるのが面白い。編集者にもDJ的な感性が必要といえる。

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