日本に生息するトンボのなかでも最大の大きさを誇るオニヤンマ。強力な顎と抜群の飛翔能力で、スズメバチにも戦いを挑む強者です。この記事ではそんな彼らの生態や特徴、噛む力のすごさ、天敵との戦いぶり、ヤゴの飼育方法などを解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。
トンボ目オニヤンマ科の昆虫です。日本に生息するトンボのなかでは最大の種で、街中でよく見かけるヤンマ科のギンヤンマなどと比べると格段に大きく見えます。
学名は「Anotogaster sieboldii」。日本の生物研究に大きな功績を残したドイツの医師で博物学者のフィリップ・フランツ・フォン・シーボルトに対する献名として命名されました。
成虫の体長は9cm~11cmほどで、メスの方がオスより大きく、尾部には産卵弁があります。翅は広げるとオスは5.5cm、メスは6.5cmくらいです。
エメラルドグリーンの複眼を持ち、左右が頭部の中央付近で触れ合うくらい近寄っているのも特徴のひとつ。標本にすると黒褐色になりますが、生体では鮮やかな色をしています。
体色は黒く、胸の前面にハの字模様、側面には斜めに伸びる2本の黄色い帯があります。また腹にある7本の黄色い縞も大きな特徴です。
生息地は北海道から沖縄までの日本全国。本州では市街地から少し外れた小規模な川の近くで見られますが、南西諸島では河川の発達した島にだけ分布しています。徳之島、慶良間諸島、宮古列島などには生息しておらず、沖縄本島でも個体数は少ないそうです。
地域によって体の大きさや体色に違いがあり、北海道、御蔵島、屋久島、鹿児島県黒島などに生息する固体は、体長8cmほどと他の地域より小型になることが知られています。
成虫は6~9月頃に発生し、自然の多い地域では、山頂付近や丘陵地の林道などでよく目撃されます。都市部では車道や歩道に沿って飛行する姿を見かけることができるでしょう。
成長すると川辺に移動し、オスは一定の区域をメスを求めて往復飛行します。飛行中に他のオスと出会うと激しく争うことがあり、この行動がオス同士の縄張り争いとされていましたが、最近の研究でオスは羽ばたくものすべてをメスと見なしてしまい、メスと間違えて追いかけていることがわかりました。
回転するものに敏感に反応するため、扇風機やブラウン管テレビの映像でも、その前でホバリングしたり、周囲を回ったり、稀に体当たりすることもあるそうです。
成虫になるまで3~5年かかるといわれており、幼虫の状態で越冬しながら、10回ほど脱皮します。成虫になってからの寿命はわずか1~3ヶ月と短命です。
強力な顎をもっていて、その力は凄まじく、指を噛まれると血がにじむくらいの傷を負うことがあるそうです。
食性は他のトンボと同じく肉食。オニヤンマは飛行しながら獲物を捕まえることができ、ガやハエ、アブ、ハチなどの小型の昆虫を好んで食べます。
餌を見つけると、持ち前の機動力で素早く近づき、細い手足を使って捕まえます。先端には釣り針のような返しがついているため、獲物が動くほどに深く食い込んでいくのです。すかさず顎を使って噛みつき、獲物が弱るのを待ってから捕食します。
トンボ類の天敵は、肉食性の昆虫や両生類、鳥類など。そのほか雑食性で知られるコウモリに襲われることもあるそうです。
最大の敵はスズメバチ。がっちりした体で、強力な毒針を持ち、人間にとっても怖い存在でしょう。しかしオニヤンマは、スズメバチに襲われると抜群の飛翔能力を活かして体当たりで応戦。隙をみて強力な顎で噛みつき、弱った相手を平然と食べてしまうこともあるそうです。
成虫の飼育は意外と難しく、捕まえてもすぐに死んでしまいますが、幼虫のヤゴの飼育は比較的簡単です。
水槽に砂利や砂を敷き詰めて、水を5cm程度入れ、水草を植えておくと、そこが棲みかとなります。羽化するときに備えて、登れるような小枝や割りばしなどを準備しておくとよいでしょう。
ヤゴは生き餌しか食べないのでせ、新鮮な餌を準備しましょう。イトミミズやボウフラ、アカムシ、ミジンコ、小型のバッタ、オタマジャクシ、メダカなどが好物です。
生き餌は水槽の内部や水が汚れやすいので、定期的に水を入れ替えるなど、こまめに世話をしてあげてください。
- 著者
- ["尾園 暁", "川島 逸郎", "二橋 亮"]
- 出版日
- 2012-06-29
日本に生息するトンボ全203種を、カラー写真とイラストで解説した本格的な図鑑です。
著者のひとりである尾園暁は、昆虫と身近な自然の魅力を紹介するプロの昆虫写真家で、ライフワークとして国内外のトンボを追い続け、日本にいるトンボ全種を撮影したことでも有名です。本書では写真のほかに生態の解説も担当しています。
収録したトンボ全種の線画を描いたのは、プロ生物画家の川島逸郎。拡大部線画は、種類の同定やオスメスの違いを見分けるのに最適です。
そして二橋亮は、トンボを含めた幅広い昆虫を研究する専門家として、分類や分布の解説を担当しています。出現期グラフ、分布図には、最新の研究成果が反映されているため信頼性は抜群です。
持ち運びできるサイズなので、フィールドワークで活用できること間違いなしの一冊です。
- 著者
- 尾園 暁
- 出版日
- 2016-06-01
本書の前半はオニヤンマが主役。日本最大の大きさを誇り、力強く空を飛ぶ成虫の姿はとても勇ましいでしょう。そして成虫になるまでの幼虫期も大きく取りあげています。
作者は昆虫写真家の尾園暁。愛情こもった写真が彼らの暮らしぶりを余すところなく紹介します。
後半では、日本に生息する66種類のトンボについて解説。翅の大きさによるグループ分けや色の違い、生息地、卵の産み方、ヤゴの種類など、あらゆる切り口で生態を知ることができます。
使用している言葉もやさしいので、昆虫好きのお子さんと一緒に楽しめる一冊です。