草間彌生、赤瀬川原平、川俣正 日本人アーティストの言葉を読むおすすめ6冊

更新:2021.12.15

アーティストたちの語る言葉には様々なものがあります。 アーティストは作品で勝負するべき、という考え方もありますが、僕自身としては、良きアーティストは良き言葉を紡ぐ、という感覚があります。アーティストたちの苦悩や希望、あるいは精緻な分析、時代状況への洞察。数々の言葉の中から、今回は日本のアーティストに絞り、また比較的お財布に優しいものを中心に、6冊を選びました。

ブックカルテ リンク

自伝 ―― 制作についての語り

著者
草間 彌生
出版日
2012-03-28

水玉が増殖していく作品で知られる草間彌生の自伝です。

若い頃から注目され、川端康成が当時既に彼女の作品を購入していることでも知られていますが、28歳の渡米後のエピソードもとてつもないものばかり。セクシュアルなパフォーマンスのために会社を複数立ち上げたりと、彼女の創作の「純粋さ」と、それゆえの徹底ぶりにも驚かされます。

アーティストがグッズ展開することについて訝しむ人もいるかもしれませんが、少なくとも彼女の場合は、自作をグッズとして展開することは、10代の頃からの幻視・幻聴との付き合い方、受け入れ、克服として現れた「水玉」が無限に増殖することの一端であるのです。

近年ますます再評価が高まる彼女の創作の年月をぜひ垣間見てください。
 

著者
川俣 正
出版日

1970年代後半から、現在に至るまで世界的に活躍する川俣正が、自身の作品について語る一冊です。

29歳のときには早くもヴェネツィア・ビエンナーレに参加している川俣ですが、本書のサブタイトルにもある通り、「アートレス」であることを芯に据えています。

「アーティストが華やかにもてはやされる商業主義的なアートの世界とはまったく無関係に、独自のスタイルで自分なりの活動を行っているアーティスト」として世界の様々な場所で制作を行い、ときには現地の人と衝突(というか喧嘩)することも辞さない。

かつて岡林洋によって『ポスト・モダンとエスニック―「地球にやさしい芸術」への仕掛け』(1991年)という本が書かれ、その中で川俣も言葉を寄せているという一面もあるのですが、彼は制作のなかでは常に試行錯誤や紆余曲折、時代状況との呼応や距離の取り方がその成否を問わず刻みつけられているのです。
 

著者
福岡 道雄
出版日
2012-10-01

福岡道雄は1936年に大阪で生まれた彫刻家です。彼はある時期からパタリと制作をやめてしまいます。いわば、「つくらない彫刻家」として彫刻家であり続けようとしたわけです。

「つくる」ということについて考え続け、1970年代の禁欲的な作品が褒めそやされた時期に大胆にも具象的な彫刻を次々に発表した福岡の大胆さと敏感さ。「何もすることがない」と延々FRP彫刻に文字を刻みつけていく営為。彼にとっては、「つくらない」ということは「考えない」ということではなく、むしろ自問自答のひとつの契機なのです。

1990年には『何もすることがない ― 彫刻家は釣りにでる』という本も出していますが、こちらでも、彼の飄々とした、しかし腹の奥の深いところから響いてくる声が記録されています。

鋭い批評の眼差し

著者
中平 卓馬
出版日

中平卓馬は森山大道たちとともに、「アレ・ブレ・ボケ」の手法で60年代に注目を浴びた写真家です(とはいえ実際は「アレ・ブレ・ボケ」の写真はそれほど彼のとった写真の中でも多くはないのですが)。彼は並行して鋭い眼差しを社会へ、時代へ、写真へ、そして自分自身へと向け、多くの文章を残しました。

この『なぜ、植物図鑑か』は、彼が主観的な作風を一掃し、「植物図鑑」のような写真へと転向しようとした70年代初頭に書かれました。たくさんの苛立ちが、怒りが、諦めが(同時代の商業主義への悪態のつき方はいささか度を過ぎたものを感じます)、方法論の転換と切り詰めによって作品としてかたちを与えられます。個人的には、最も好きな写真家のひとりです。
 

著者
["松浦 寿夫", "岡崎 乾二郎"]
出版日
2005-12-16

岡崎乾二郎と松浦寿夫の複数回にわたる対談によって構成されるこの本は、あまりの固有名の量に、その斬新なパースペクティブの提示に驚かされるとともに、たくさんの思考のヒントをもらえます。

何度も読み返しているのですが、その都度新しい発見があり、また、展覧会や美術について考えて悩んでいるときにページをめくると、その悩みについてはとっくに二人が言及している、ということもしばしばです。博覧強記な点ももちろんなのですが、お二人とも大変魅力的な絵画を制作しているために、発言にも尚更説得力があります。

キャンバスに向かう画家は、一筆一筆において、文字通り常に新しいキャンバスと向き合う経験をしているのだということに気づかされる、時間の厚みと複雑さに満ちた一冊です。
 

「やってみた」の先駆け

著者
赤瀬川 原平
出版日

赤瀬川原平はたくさんの本を書いています。

本当は、最近再販された『オブジェを持った無産者』をはじめ、『東京ミキサー計画 ハイレッド・センター直接行動の記録』や、『反芸術アンパン』といった戦後前衛のうごきを回想した本を紹介する方がよかったかもしれません。しかし「文章の書き手」としての赤瀬川の魅力を感じるには、この本はうってつけです。

タイトル通り、彼がゼロから家を作るべく、奮闘する記録です。街なかにある使途不明・使い道が絶たれた無用の構造物を「トマソン」と呼んで路上観察を行う『超芸術トマソン』や、辞書に載っている文章を面白く紹介して行く『新解さんの謎』などの「面白いアイデアを実行に移す人」としての赤瀬川の手にかかれば、家を建てることもこんなに面白くなります。

彼は今のyoutuberやある種のブロガーたちの先駆者でもあるのかもしれません。
 

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る