イングランドの10ポンド札の顔にもなっている、ジェーン・オースティン。そんな国を有名作家である、彼女の代表作をご存知でしょうか?世界中の人から愛され、評価される本作。一体どのような内容なのでしょうか。 あらすじや時代背景から、その魅力を解説していきます。ネタバレを含みますので、ご注意ください。
主人公は南イングランドの田舎町に住む、ベネット家姉妹の次女エリザベスです。彼女はとても聡明なのですが、対する母親は娘たちの結婚にしか興味がありません。
ある日、彼女たちが住むお屋敷の傍に、資産家のビングリーという独身の男性が越してきます。エリザベスの姉ジェーンは、彼と意気投合して仲良くなりました。
一方、彼の友人であるダーシーというお金持ちの男性は、エリザベスに興味を持つのです。しかし、彼はその鼻持ちならない態度で、舞踏会に来ていた女性たちを憤慨させます。
黙っていれば見目麗しく、お金も持っている素敵な男性なのですが、その高慢な性格から、エリザベスに対しても「まあまあだけど、振り返りたいほどの美人じゃない」などと言ってしまうのです。
ところが話をしていくにつれ、彼は彼女のウィットに富んだ話し方に好意を持つようになります。ついには正式にプロポーズを申し入れられますが、憤慨したままの彼女は断固拒否。
他にも、牧師のコリンズにプロポーズされたり、ウィカムという思い人が現れたりと、エリザベスはさまざまな男性に悩まされます。そんななか、過去にダーシーがウィカムしたひどいことを聞いて、ますますダーシーのことを嫌いになるのでした。
しかし、彼からの求婚の手紙をきっかけに、彼女は彼を「偏見」の目で見ていた自分に気づきます。私は彼を、他人の話から憶測した「ひどいダーシー」としてしか見ていなかったのではないか……。
そうして彼女は、いつしか彼を見直していくのです。一方ダーシーの方も、自分がいかに高慢な態度をとっていたか、ということに気づいていくのでした。
果たして、2人の恋はどうなっていくのでしょうか。
- 著者
- ジェイン オースティン
- 出版日
- 2003-08-01
この作品の魅力は、身分の差や勘違い、すれ違いがありながら、彼・彼女たちが精神的な成長を果たしていくところ。お互いをどう見つめ直し、結ばれていくのか……。一見、婚活や恋愛の物語のように思われますが、その一方で、実は人間の本質をつぶさに描いた物語なのです。
本作は1940年にローレンス・オリヴィエ主演で映画化もされました。それ以降も、さまざまなキャストで映像化。また宝塚歌劇団星組により、2012年にミュージカル舞台化もしています。
さらに本作は、多くのパロディや二次創作に使われていることも特徴です。『Darcy's Story』という作品は、ダーシーを主人公として描かれています。本作を読んだ方は、これらの作品も読んでみるのも面白いかもしれません。
さて、ではこの物語、どのような登場人物が出てくるのでしょうか?
主人公はエリザベス。田舎町ロンボーンに住む、ベネット家5人姉妹の次女です。容姿はいたって普通ですが、知性にあふれています。この物語は、彼女を中心に進んでいきます。
長女のジェーンは温和で、とても純粋な女性。エリザベスほど賢い女性ではないようですが、容姿には恵まれています。
そんな彼女たちの近所に引っ越してきたのが、ビングリー。独身の資産家で、誠実な好青年です。ベネット家の夫人は、この彼と自分たちの娘を結婚させようとして、舞踏会の約束を取り付けます。
そして、彼の友人がダーシーです。ビングリーより見た目もよく、すばらしい財産も持っています。その魅力から女性たちが寄ってくるのですが、いかんせん鼻持ちならない高慢な態度をとってしまい、誤解されてしまいます。
街に駐留していた軍隊の色男、ウィカム。エリザベスを始め、ベネット家の下の妹たちは彼に夢中になります。エリザベスは彼からダーシーのよくない噂を聞き、それを信じてダーシーへの不信感を強めるのです。
ベネット家の財産相続権を持つ、遠縁の親戚がコリンズ牧師。自分と結婚すればベネット家の財産もそのまま相続される、と考えた彼も、ベネット姉妹に近づきます。しかしおべっかばかり言ってくる彼に、どの姉妹も辟易してしまいました。
ベネット家の姉妹は他にも、三女メアリー、四女キティ(キャサリン)、五女リディアと続きます。父のベネット氏はことなかれ主義で、娘の結婚には興味がありません。自分の財産がどうなろうと、おかまいなし。
一方、妻であるベネット夫人は、娘の結婚が気になってしょうがない様子。娘の幸せを願いつつも、結婚相手を探すのに躍起になっています。
このように、この物語はエリザベスをはじめとしたベネット家、そして彼女の周りに現れる男性を中心に語られます。どの人物もひと癖もふた癖もありそうですよね。エリザベスの恋、そして結婚はどうなるのでしょうか。そして他の人々の結婚も、彼女に影響を与えるのです。
彼・彼女たちのキャラを理解しながら読み進めると、よりいっそう楽しめますね。
作者のジェーン・オースティンとは、いったいどのような人物だったのでしょうか?
彼女は1775年、イングランドの南部に生まれました。当時のイングランドの女性においては珍しく、充実した教育を受けて育ちます。また、この教育期間に、多くの文学作品に触れたといわれています。
1789年にはすでに小説のようなものを書き、家族や友人に見せて喜んでいたそうです。そして1797年、彼女の代表作のひとつである『分別と多感』を書き始めます。そのほかにも多くの作品に着手したようです。
- 著者
- ジェイン オースティン
- 出版日
正直、彼女の人生は、あまり変化のないものだったといえるでしょう。多くの時間を家族と過ごし、何度か引越しはしましたが平穏な人生を送りました。
その彼女の人生を写したものだったのでしょうか。彼女が描く小説の世界は、いつも平凡な田舎町が舞台でした。そして主人公は名家の娘と、その娘をとりまく紳士たちとのいわゆる「恋バナ」がほとんどです。
しかし、そんな狭い世界のなかでも、彼女は登場人物たちの人間階級をつぶさに表し、その心を徹底的に描写しています。特に大きな事件があるわけでもなく、淡々と、主人公とそれを取り巻く人々の心を徹底的に書き出すのです。それゆえに彼女は、心理写実主義の先駆けともいわれています。
イギリスの中産階級の女性の恋愛と結婚を、つぶさに描いたジェーン。自分の経験と、周りで起こった出来事のみを細かく細かく描いていくさまは、彼女が平穏な暮らしをしていたからこそのものだったのかもしれません。
本作では、ベネット夫人が娘たちの結婚に躍起になっていることからもわかるように、結婚が大変重要視されています。それは、本作が書かれた当時の時代背景を反映したものでした。なぜ、作者ジェーンが生きた時代は、これほどまでに結婚が重要視されていたのでしょうか?
現代においては、女性が生涯独身を貫き通して生きることは珍しいことではありません。しかし、この頃のイングランドは、そんなことはとても許されるような社会風潮ではありませんでした。
各人の家柄、階級というのはかなり重要視されたものでした。女として生まれた者の「幸せになる道」は、お金持ちの男性と結婚して、資産を受け継ぐ。そういった価値観が当たり前になっていたのです。女性の自立した道など、用意されてはいませんでした。
そういった家の階級が重要視されていた時代ですので、物語に出てくるダーシーは、格下であるベネット家の女たちを軽んじて見てしまい、エリザベスを憤慨させてしまいます。
また基本的に財産を相続できるのは、その家の長子のみでした。それ以外の子どもたちにはごくわずかな持参金しか持たせられなかったとされています。
そのため、もともとあまり資産のない中産階級であり、娘が5人もいるベネット家は、危機的状況だったといえます。母親が娘の結婚に躍起になるのも理解できますね。
ただし賢い娘であるエリザベスは、単純にお金持ちの男を好きになれるわけがありません。ダーシーの態度や過去の話を聞いて、彼に対する嫌悪感は募ります。けれども、彼を含めて周りにいる男性を選ばなければ、ベネット家はじめ自分の人生が好転するはずもありません。
物語の途中ではコリンズという男性が現れますが、彼はエリザベスはじめ周りの女性に相手にされません。しかし、エリザベスの友人シャーロットは、そんな彼と結婚します。彼女は器量がよくないため20代後半まで結婚できず、生活のために彼と一緒になりました。いわゆる「妥協」なのかもしれません。
エリザベスはそんな彼女を見て辟易します。しかし、女性はそういった選択をしないといけないほど、この時代では自らの意思で結婚相手を選ぶことが困難だったともいえるのです。
5人姉妹だったエリザベスは、器量はそこそこですが機知に富み、父親からも気に入られています。性格も勝気で喜怒哀楽がはっきりしており、さぞ魅力的な女性だったのでしょう。
しかし、この時代は、賢い女性が必ずしもよいというわけではありません。頭が良く、ものごとをきちんと考え、主張をはっきりするという性格は、ある人から見れば「生意気だ」ということにもなりかねないのです。
先にも説明しましたが、この時代の女性は結婚しなければ生きていけない、といっても過言ではありませんでした。現にシャーロットは、何もかも我慢してコリンズと結婚します。
また、エリザベスの他の姉妹たちは器量がよい者もいれば、行動的すぎて問題を起こしたり、知識をひけらかしたりする者もいました。誰かが何かを妥協しながら、押さえつけながら、結婚相手を探す時代。そんななか、この物語に登場する女性たちのなかでは、エリザベスは一味違ったといえるでしょう。
自分の聞いたこと、見たこと、感じたことをはっきりと意思表示し、たとえお金持ちと結婚の可能性が低くなっても、毅然とした態度を取る。嫌な人には嫌いだと言うし、また、自分の偏見に気づき、それを訂正する賢さもあります。
この時代の女性にはなかなかいなかった、「自立した考えの女性」だからこそ、彼女は魅力的な女性だったといえるのではないでしょうか。
- 著者
- ["望月 玲子", "ジェーン・オースティン"]
- 出版日
- 2009-04-01
なんといっても200年前の小説ですので、翻訳は続々とされていますが、時代背景とともに理解して読んでいくのは難しいもの。
そんなときは、漫画で読むのもオススメです。こちらの漫画は原作に忠実で、さらに絵柄の美しさが特徴。ビジュアルで当時の衣装を見てとることできます。また漫画ならではの表現で、わかりやすく読めるのが魅力です。
前後半に分かれていますが、長編小説をぎゅっと詰め込んだ内容になっていますので、まずは楽しみながらこちらを読み、そのあとで原作を読む、という流れだとわかりやすくていいかもしれませんね。
まずはこれであらすじをつかんで、その後小説ならではの心理描写をしっかりと堪能していくと面白いでしょう。
さて、本作は各社からさまざまな翻訳が出版されています。ですが、ぱっと見ただけではどれがいいのかわかりませんよね。
そこで各社の翻訳を、それぞれ比較してランキングにしてみました。ぜひ参考にしてみてください。
- 著者
- ジェイン オースティン
- 出版日
- 2003-08-01
こちらは、中野康司が翻訳したもの。
他のものに比べてくだけた表現が多いので、読みやすいのが魅力です。ただし、昔の小説にしては訳がくだけすぎでは?というところもあるようですね。意訳が多いようですが、その分日常的で現代の表現に近く、すっと入ってくるともいえます。
ちくま文庫では、ジェーンの作品は全て中野康司の翻訳で、彼女の作品を続けて読みたいなら、こちらがいいかもしれません。他の作品とあわせて読むと、理解が深まります。
- 著者
- ジェイン オースティン
- 出版日
- 2014-06-27
多くは「高慢と偏見」と訳されるのですが、こちらの小山太一の翻訳は、このように訳しています。タイトルが一般的に知られているものと違うので、少し探しにくいかもしれません。
エリザベスとダーシーが見詰め合う表紙も美しく、思わず手にとってみたくなる一冊。こちらは過度に現代っぽくせず、読みやすさがありながらも、当時の文体や格調高さを意識した訳になっています。かといって古臭さは無く、違和感なく読めるのでおすすめです。
出版が2014年と新しいのも、ポイントですね。
- 著者
- ジェイン・オースティン
- 出版日
- 2017-12-22
2017年に出版された、新しい翻訳です。
訳者はジェーン・オースティンを研究している大島一彦。なるほど研究者だけあって、表現は適切で世界観を立体的にするもの。ジェーンが描いたキャラクターの特性を深く理解し、それらを小説のなかの訳にちりばめ、いたるところに彼・彼女たちの性格が表れるように表現されています。
文章は多少固いところもあるので、もしかしたら読みやすいものではないかもしれませんが、原作の風格、描かれ方を細かく日本語に翻訳しています。
また、魅力的な当時の挿絵付きというのも嬉しいところ。想像力をかきたてる一助となってくれそうですね。
さて、この物語の結末はどうなっていくのでしょうか?
- 著者
- ジェイン オースティン
- 出版日
- 2003-08-01
うまくいっていた長女のジェーンとビングリーですが、突如彼がロンドンへ帰ってしまうというハプニングが起こります。それについて、彼女は何も聞かされていませんでした。のんびりおっとりとしている彼女は、周囲に促されてやっとロンドンへ行きますが、結局会えずじまい。すっかりあきらめて戻ってきてしまいます。
一方エリザベスは、ダーシーの態度の悪さの原因や、ウィカムと彼のトラブル、ジェーンとビングリーの一連の出来事をダーシーからの手紙で知ります。そこで彼女は、彼のことを偏見に満ちた目で見ていたことに気づいたのです。
彼自身も、エリザベスと言いあったことで、自らの高慢な態度をあらため始めます。そのことに気づいたエリザベスは、葛藤しながらも徐々に彼に惹かれていくのでした。
しかし、物語はこれで終わりません。なんと末の妹のリディアが、ウィカムと駆け落ちしてしまうのです。突然のことにベネット夫人は寝込み、そこに追い打ちをかけるようにウィカムは高額な持参金を要求します。なんて男なんでしょうか……。
そんななかビングリーは、ジェーンが自分に気が無いと思っていたのが勘違いだったことに気づき、彼女の元に戻ってきます。
これらのさまざまな問題を裏で解決に導いてくれたのは、実はダーシーでした。彼は、彼女たちのために、誠実に自ら動いてくれたのです。
そんな彼を見て、エリザベスが心動かさないわけはありませんよね?果たして、2人は自らの高慢さと偏見を乗り越えて、幸せになれるのでしょうか。続きはぜひ、本を読んでみてください。
いかがだったでしょうか?200年前とはいえ、生き生きと描かれる当時の恋愛模様。婚活ストーリーといわれることもありますが、1番の魅力は登場人物の心理描写です。紹介したランキングを元に、自分にあった翻訳を探してみてくださいね。