昔からニホンザルは、さまざまな物語に登場してきました。高い知能をもち、人間との共通点も多いからでしょう。この記事では、彼らの生態や分布、性格、知能、体の特徴などを解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。
霊長目オナガザル科マカク属に分類されています。北海道を除く本州や四国、九州と幅広く分布していて日本人にとっては身近なサルでしょう。ただ学者の間では、珍しい分布域をもつことで知られています。
通常、霊長目は、熱帯や温帯のジャングルなど、木々が生い茂る温かい地域を好んで生息します。ところがニホンザルは積雪が観測される青森県にも生息していて、ここが北限として認識されているのです。このことからニホンザルは英語で「snow monkey」とも呼ばれています。
体つきはがっしりとしていて、オスの体長は50〜60cm、メスは45〜55cmほどです。毛色は暗めの赤褐色で、腹部の色は淡くほぼ白色です。顔に毛は生えておらず、ピンク色の肌が毛色と比較してよく目立ちます。この顔の色は年齢を重ねるにつれて赤みを増していくようです。
昼行性で、基本的には群れをつくって行動します。行動圏は10〜20kmほどで、移動しながら餌となる食べ物を探します。食性は雑食ですが、どちらかというと植物を好むようです。そのほか果物や種子、キノコなどを食べます。
寿命は25年ほどで、飼育下では37年生きたという記録もあります。
昔話などにも登場するニホンザル。フィクションのなかでさまざまなイメージが与えられていますが、実際の性格はどのようなものなのでしょうか。
彼らは、他の動物と比べて人間に近い感情をもっていると考えられています。表現が豊かで、特に目の前の事象に対する好き嫌いの感情は表情だけでわかってしまうほどです。
さらに自分の感情に素直なため、理性で抑えることはありません。そのため個体によってはかなり攻撃的なこともあり、野生下のものにはむやみに近づかないほうが賢明です。鋭い犬歯があるので、もし噛まれてしまうと大怪我をする恐れがあります。
その一方で、猿回しなどのショーに登場するニホンザルは、とても従順です。これは群れで暮らす習性から、厳しい上下関係の規律を守ることが植え付けられているからです。飼い主がボスであることを認識すれば、よほどのことがない限り逆らうことはありません。
ちなみに上下関係の規律は、メスよりもオスの方が正しく守ろうとする傾向にあります。
芸を覚えることができる動物は他にもいますが、ニホンザルは人間の行動を見て覚え、理解して応用することができるため、非常に高い知能をもっているといえるでしょう。
たとえば犬の「お手」であれば、犬はお手をすることで餌をもらえるという認識をしますが、ニホンザルの場合はその行動自体が何を意味するのか考えることができるのです。
飼い主に命令されることはやっておくべきだという損得勘定ができるので、芸を覚える際も頻繁な餌付けは必要ありません。この賢さは飼育下だけでなく野生の個体でも確認することができます。
またニホンザルは、冬に温泉に入る姿が観光名所になるほど有名ですが、通常の動物は、湯気が出るほどの湯に好んで入ろうとはしません。ニホンザルは温泉に気持ちよさそうに入っている人間の様子を観察し、真似をして入っている可能性があるといわれています。最初の1頭が温泉はいいものだと学習し、仲間に伝えて広まったそうです。
ニホンザルと同じオナガザル科のオナガザルをはじめ、多くのサルは長いしっぽをもっていますが、ニホンザルのものはとても短いのが特徴です。
これは、寒い地域でも生きていけるように進化したものだと考えられています。雪が降り、気温が氷点下になるような場所で細くて長いしっぽが生えていると、そこから体が冷えてしまうからです。
人間も、細くて長い指先から冷えていくことを考えるとわかりやすいでしょう。
寒い地域でも体温を維持するために、体の表面積が小さくなる現象は他の動物にもみることができ、これを生物学で「アレンの法則」と呼びます。
- 著者
- 福田 幸広
- 出版日
- 2017-01-11
作者は動物写真家として有名な福田幸広です。温泉で有名な長野県の地獄谷に17年間も通い、写真を撮影し続けて1冊の本にしました。温泉に入る姿、子どもを抱っこする姿、じゃれあいながら毛づくろいをする姿など、さまざまなシチュエーションのニホンザルを見ることができます。
こうして見てみると、いかに彼らが表情豊かなのかを思い知らされるでしょう。どんなことを考えているのかが手に取るようにわかります。
とにかくかわいくて、癒されること間違いありません。しあわせな気持ちになれる1冊です。
- 著者
- ["小田 英智", "津田 堅之介"]
- 出版日
- 2005-06-01
子どものころからサルが好きでしかたがなかったという津田堅之介が、4年の歳月をかけてニホンザルを撮影した1冊です。北限の生息地である青森県から、芋を洗う文化をもつサルがいる宮崎県まで全国を網羅しています。
児童書のため文章はやさしくわかりやすいですが、大人でも満足できる内容です。野生の群れが送る生活に密着し、ドキュメンタリーとして読むことができます。
また人間とサルの関係についても言及しています。リアルな暮らしを知るとともに、彼らが生きる自然を守っていかなければならないと考えさせられる作品です。