人の心に潜む、ちょっとした悪魔。それが積み重なっていくと、大きな悪魔となって襲ってくる……この物語から、そういったことを感じ取れることでしょう。この記事では、そんな本作のあらすじから結末まで、詳しく解説。2011年の映画化に続き、2018年9月にはドラマ化も決定している話題作です。ぜひ最後までご覧ください。
本作は、日常に住む小さな罪によって、それが時として大きな罪になってしまうということを追求した物語です。
ある日、強風で街路樹が倒れ、2歳の男の子が頭を打って亡くなってしまいました。誰もが自然災害と考えていたこの痛ましい事故ですが、実は、その影にはいくつもの人間の怠慢が積み重なっていたのです。それは誰もが1度は経験したことがあるような、とても小さなものでした。
その1つずつの怠慢を、主人公である加山聡が追求をしていきます。彼は街路樹の事故によって、2歳の子供を亡くした父親でした。そんな彼の職業は新聞記者です。それまで彼の生活は、まさに順風満帆でした。尊敬できる妻に、かわいい息子、そして天職ともいえる仕事……。
街路樹の事故は、その幸せな生活を奪ってしまったのです。この事故にどうしても納得がいかない彼は、事故の原因を徹底的に調査していきます。調査の過程でわかったことは、街路樹を診断する業者が診断をしていなかったこと。それは、担当者の精神的な病気が原因でした。
なんと彼は、極度の潔癖症だったのです。街路樹を診断する日、木の根元には犬のフンがありました。そのせいで、担当者はどうしても木に近くことができまかったのです。
ですが、この診断をしなかったことだけが、街路樹が倒れた原因ではありません。これは、ほんの氷山の一角にすぎず、フンを放置していた行政や、それを片付けなかった犬の飼い主など、あらゆるところに原因があるようなのです。
そう考えた加山は、徹底的に調べ尽くしていくことに決めたのでした。
- 著者
- 貫井徳郎
- 出版日
- 2011-11-04
朝日文庫から出版さえれいる本作。そんな本作は、乃木坂46の齋藤飛鳥がおすすめしていたことでも知られています。直木賞の候補にもなりました。2011年には、桐谷美玲主演で映画化もされています。
また名古屋テレビ「メ〜テレ」にて、石井裕也さんがメガホンを取り、井上真央や妻夫木聡などの豪華俳優陣で、2018年9月にドラマ化される予定です。実は2017年の年末に放送予定であったのですが、その時はさまざまな理由から放送延期となっていたよう。放送日もようやく決まったので、乞うご期待ですね。
作者の貫井徳郎は、東京生まれの推理小説家。早稲田大学を卒業しています。漢字の読み方は、「ぬくい とくろう」です。また、妻は、同じく推理小説家である加納明子です。
最初は不動産会社に勤めていたようですが、退社後、失業期間に書いた『慟哭』が第4回鮎川哲也賞の最終候補作に選ばれます。結果として受賞は逃したものの、その後、作家デビューを果たしました。
代表作には、『憑かれる』『灰色の虹』『悪党たちは千里を走る』など、映像化作品も含めて数多くの作品があります。
- 著者
- 貫井 徳郎
- 出版日
- 2011-06-09
本作に登場する人物を、簡単にご紹介させていただきます。
『乱反射』に登場する人物は、それぞれ小さな、本当に小さな罪を犯しています。その1つ1つは些細なことかもしれませんが、積み重なって大きな恐怖となるのです。ここでは、それぞれの罪についてご紹介させていただきます。
三隅幸造の罪
彼の罪は、街路樹に犬のフンを大量に放置していたこと。理由は腰が痛いからしゃがむのが辛くて、犬のフンを片付けられなかったということでした。このフンが原因で、街路樹の診断を担当した足立道洋が、木に近くことができず、そのため木が倒れてしまいます。
またフンが原因で、街路樹の病気を進行させたと考察することもできます。日々の罪の積み重ねが、小さな子どもを亡くすという最悪の結果を招いてしまったのかもしれません。
小林麟太郎の罪
彼の罪は、市民から犬のフンの後始末をしてくれと頼まれたのも関わらず、面倒だからという理由で後始末に行かなかったこと。なんとそれは、事故の当日だったのです。
行政は、市民が暮らす街を綺麗にする役割があります。それを面倒だからという怠慢が、悲惨な事故を呼び寄せてしまったのではないでしょうか。
田丸ハナの罪
彼女の罪は、自分の自尊心のために街路樹の伐採に反対し、何度も造園業者を追い払っていたこと。そのことがきっかけで街路樹の診断がなかなかできず、病気になっている木も放っておかなければならないことになってしまったのです。
結果論ではあるものの、この1人の見栄がなければ、造園業者は仕事を完遂し、木の病気を発見していたのかもしれません。小さなわがままのために、他の人にしわ寄せがいくというのは、世間ではよくある光景ではないでしょうか。
足立道洋の罪
彼の罪は、自分自身の問題を会社に隠したままだったこと。1番初めに事故の焦点となったのが、造園業者の怠慢です。彼は極度の潔癖症で、それを会社に隠したまま仕事をしていました。
結果的には街路樹の診断をおこなうことができずに放置をしたため、強風で街路樹が倒れ、2歳の男の子が亡くなってしまうという痛ましい事故が起きてしまいます。彼の面倒臭い、会社に知られたくないという個人的な思いが、その仕事を邪魔する結果となり、自分を不幸にしてしまったのです。
榎田克子の罪
彼女の罪は、加山の息子が病院に運ばれる時に、渋滞を作ってしまったこと。彼女は買ったばかりの車での車庫入れができなくて嫌になってしまい、車を道に放置したまま乗り捨ててしまったのです。救急車は、15分も道で立ち往生してしまうことになりました。
反射はある一定方向に曲がりますが、乱反射はどこに光が反射するかわかりません。通常、人は自分が悪いことをしたという自覚があるのであれば、素直に謝罪をします。それが人の道理でしょう。
しかし本作では、悪いことをしたという自覚があるにも関わらず、謝罪の言葉はでなく、すべて言い訳をしてしまうのです。これが「乱反射」であると表現したかったのではないでしょうか。
1つの乱反射が、また別の乱反射を生み、それは大きな光になるように、ひとりのささいな怠慢などが大きな事故に繋がってしまったことを表しているのではないかと考察することができます。
- 著者
- 貫井徳郎
- 出版日
- 2011-11-04
人々の小さな罪が連鎖し、その結果奪われた、1つの小さな命。加山はその事実に気づき、徹底的に調査をします。しかし誰1人として、自分の非を認めようとはしません。彼に「すみません」と言おうとしないのです。
謝罪の言葉を発してしまえば、自分のおこなった行為を罪と認めることになります。それが結果的に人を殺してしまったという罪の意識に繋がり、その重さに耐えられないからだと推測することができます。
誰も認めない現実を、加山は受け止めることができません。そこで彼は、自分のホームページで世の中に訴えかけます。しかし、彼が予想していたような結果にはなりませんでした。彼に賛成してくれる人はもちろんいたのですが、それは半数でしかなく、反対する人もまた半数いたのです。
これは、やはり誰もが同じような罪をおこなったことがあるからだということが推測できます。加山はこの事実をどう受け止め、痛ましい事故に決着をつけるのでしょうか。
この結末にはいろいろ考えさせられることがたくさんあります。ぜひ本編をお確かめのうえ、立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。