幼虫という言葉から連想するか弱いイメージとはかけ離れた、水中のハンター「ヤゴ」。獲物を素早く捕えて、あっという間に咀嚼してしまうスピーディな狩りをします。この記事では、彼らの生態や種類ごとの特徴、卵から羽化までの成長過程、飼育方法などをわかりやすく解説していきます。あわせてもっと理解を深めることができるおすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
トンボの幼虫の時期のみを指す名称で、水田や沼地などの水中に生息する昆虫です。卵から孵化した直後は「前幼虫」といい、虫だと認識できる姿はしていません。最初の脱皮を経てヤゴの姿になります。
獲物を捕る際は折り畳んでいる下顎を牙のように伸ばし、先端にあるハサミを使います。幼い頃は自分の体と同程度の大きさの微生物などを食べますが、羽化間近になるとメダカやオタマジャクシなど大型の生物を捕食します。捕まえた後は一瞬で引き寄せ、噛んで飲み込む素早い狩りをするのが特徴です。
体長はハッチョウトンボなど小型のもので8mmほど、オニヤンマなど大型のものでは50mmにまでおよびます。ヤゴの期間は、短いもので2か月ほど、長いものでは6~8年と幅があり、平均すると1~3年です。
トンボと同様に複眼が発達しているほか、遊泳能力もあり、フナなどの天敵に襲われそうになった際は肛門から水を吐き出してロケットのように前進します。
日本で姿を見ることができる代表的な種類を紹介します。
日本最大のトンボであるオニヤンマのヤゴは、孵化後の1令幼虫で1.7mmほど、羽化直前の15令幼虫では50mm前後にまで成長し、突出した大きさを誇ります。
ヤゴの期間は2~4年で、越冬をするため、1年をとおして姿を見ることができるでしょう。北海道から沖縄まで広い範囲に分布し、近くに林のある河川の水草や枯葉の間に暮らしています。
「赤とんぼ」という通称で知られるアキアカネ。3~6か月間をヤゴの姿で過ごします。季節はだいたい3~8月頃です。
体長は1令幼虫で1mm前後、羽化直前の8令幼虫で18mm前後になります。全国の水田や湿地に生息していますが、近年では個体数が減少しています。
日本でもっとも見る機会の多いイトトンボの一種です。北海道から沖縄の平地や丘陵地の池や沼、流れが穏やかな小川で見ることができます。
ヤゴの期間は1か月半から1年ほどで、個体によってバラつきがあり、越冬をするものもいます。体長は1令幼虫で1.2mmほど、羽化直前の10令幼虫で18.5mmほどです。
他のヤゴよりも細長い体型をしていて、腹の先にある3枚のエラで呼吸をする特徴があります。
日本の固有種であるムカシトンボ。千葉県を除く北海道から鹿児島までの広範囲で生息が確認されています。
ヤゴの期間は5~8年と最長です。体長は1令幼虫で1.3mmほど、羽化直前の14令幼虫で23.5mmほどになります。
木に囲まれた丘陵地や山地にある川の源流付近に生息し、硬く平坦な体が特徴です。羽化する1か月ほど前からは陸にあがり、水場から少し離れた場所で成虫になる個体もいるようです。
水の中や泥の中など、トンボは種によって異なる場所に卵を産み付けます。孵化するまでの期間もさまざまで、数日で孵化するものから数か月を卵で過ごすもの、さらには卵のまま越冬するものもいます。
孵化した直後は細長いエビのような体型をしていて、これを「前幼虫」と呼び、1回目の脱皮を経てヤゴの姿になったものを1令幼虫と呼びます。その後は少ないもので7回、多いもので14回の脱皮をくり返すのです。
羽化の時期が近づくと、餌を捕ることををやめて陸にあがり、木や草、岩などの高さのある場所に登って体を固定し、準備を始めます。
ギンヤンマやオニヤンマなどは静かな夜を選び、カワトンボやイトトンボは昼間に羽化をするそうです。所要時間は、夜間の場合は約2時間ほどで、気温の高い昼間はもっと短い時間ですみます。
羽化の仕方は2通りです。背中の皮を破り、空の方向へ這い出して体を抜き取る種と、腹部が上になるよう体を反り、上体をくねらせて腹の先から這い出す種がいます。
浅い池や小川などでヤゴを採集する場合は、水草の間や石の下などを探すとよいでしょう。シオカラトンボやサナエトンボのヤゴは泥に潜っていることが多いので、足で水底をかき回し、逃げたところを網で掬って捕まえるのがおすすめです。
また都市部では学校などのプールに産卵することもあるため、許可を得られれば探してみるとよいでしょう。
飼育をする際は、水槽の底によく洗った砂利を敷き、大きめの石などを入れて身を隠すことのできるスペースを作ります。水は深さ10cmほどまで入れ、空気を送るエアーポンプも設置しましょう。
また羽化をする時のために、水面から出る長さの木の枝や棒なども入れてください。水槽は直射日光の当たらない場所に置きましょう。
共食いをする可能性があるため、なるべく1匹ずつ水槽に入れるのがおすすめです。餌はアカムシやイトミミズを用意し、大きい個体にはメダカやオタマジャクシを与えます。食べ残しなど水が汚れないよう、定期的に掃除をしてあげてください。
- 著者
- 小杉 みのり
- 出版日
- 2011-02-24
美しい写真で生き物の生態をわかりやすく解説する「うまれたよ!」シリーズ。本書では、ギンヤンマのヤゴの誕生から成虫になるまでを追っています。
水中で生活をしているため、卵の状態から飼育をしない限り、ヤゴの成長の全過程を追うのは至難の業です。本書では、前幼虫が初めて脱皮をする様子や、終令幼虫と1令幼虫の対比など、貴重な姿をたくさん見ることができます。
特にメダカを狩る迫力には、子どものみならず大人も釘付けになるでしょう。
1令幼虫から成虫までの成長過程を、実寸大の写真で紹介しているのも嬉しいポイントです。実際に採集する時のお供としても役立つ1冊です。
- 著者
- ["尾園 暁", "川島 逸郎", "二橋 亮"]
- 出版日
- 2012-06-29
日本に現生するトンボ全203種の成虫のオスとメス、そしてヤゴの写真を掲載している本格的な図鑑です。
作者のひとりである尾園暁は、なんとひとりですべての写真を撮影したのだとか。だからこそ、オリジナル性が高いうえに系統立てられた作品になっています。特に見分けの難しい種類は、細かい部位を拡大した写真で違いを解説しているのでわかりやすいです。
産卵時期や幼虫、成虫を見れる時期、生息地も掲載しています。専門的に学んでいる人から初心者まで満足できる1冊です。