小説『コンビニ人間』失礼な人だらけで面白い!現代あるある?既視感がすごい

更新:2018.9.16 作成:2018.9.16

2016年に芥川賞を受賞した本作をご存知でしょうか?タイトルから、ちょっと異様な雰囲気が漂ってますよね。コンビニを舞台に、そこで働く主人公と、その周りの人々との関係を描いた作品です。 村上龍から「この10年、現代をここまで描いた受賞作は無い」とまでいわしめた本作とは、いったいどのような内容なのでしょうか?あらすじから見所まで、詳しくご紹介します。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena

小説『コンビニ人間』のあらすじを簡単に紹介!芥川賞受賞作品

本作は2016年7月に発売され、その年の第155回芥川龍之介章を受賞しました。発行部数はなんと10刷50万部以上!ベストセラーとなっています。また、2017年の本屋大賞では見事9位にランクインしています。

多くの人に絶賛された本作。いったいどんな物語だったのか、あらすじを見ていきましょう。

著者
村田 沙耶香
出版日
2018-09-04

 

主人公である古倉恵子は、30代なかば。大学時代から同じコンビニでアルバイトをしており、結婚もせず、正規の就職もせず、ただバイトに入る日々を送っています。

小さい頃から、周囲の人から「変わっている」と言われてきた彼女は、コンビニのアルバイトを始めたことによって、やっと自分が世間と同じ「人間」になれたと感じます。それは、自分が周囲に溶け込むためにマニュアル通りにこなしていけば、「仕事ができる」と認められるからでした。

しかし、30代なかばも過ぎてコンビニのバイト以外したことがない、結婚もしていなければ、恋愛の経験もない。そんな彼女を、周りの人々は再び「奇妙な人だ」と感じ、好奇心から干渉し始めます。

そんな折、婚活を目的にバイトを始めた、35歳の白羽という男が新人として入ってきます。しかし間もなく彼は、女性客へのストーカー行為でそのコンビニを解雇されてしまうのでした。

その後もしつこく女性を待ち伏せしている彼に、恵子は声をかけます。しかしそれは注意などではなく、なんと「私と一緒に暮らさないか」という提案をするためだったのです。

それは、決して恋愛感情などではなく「同棲している男性がいる」という事実を作ってしまえば、「恋愛をしない」ことに対する免罪符を手に入れられると考えたから。いわば、周囲への擬態でした。

そうして2人は一緒に住み始めるのですが、なんと彼女は、白羽によってコンビニを辞めさせられることになってしまいます。正社員として働くために就職活動をおこなう彼女でしたが……。

2人の関係は、今後どうなっていくのでしょうか。そしてコンビニから離れた恵子は、周囲と同じように、また社会の一員としてやっていけるのでしょうか。

 

作者・村田沙耶香とは?あだ名は「クレイジー沙耶香」!?

さて、この衝撃的な作品を書いた作者に注目していきましょう。

彼女は千葉県出身で、玉川大学文学部を卒業しています。横浜文学学校にて小説家・宮原昭夫に学んでいたそうです。その後、2003年『授乳』で群像新人文学賞優秀賞を受賞。コンスタントに小説を発表してきました。

著者
村田 沙耶香
出版日
2010-04-15

そんな彼女は、なんと他の作家仲間から「クレイジー沙耶香」と呼ばれているそうです。一体どういうことでしょうか……?

理由は、彼女の考え方にあるよう。以前出演したテレビ番組では、「小説へのモチベーションは『喜び』。殺人シーンを書くのが本当に喜び」と発言しています。確かに、これだけ聞くと「クレイジー」と思ってしまうかもしれませんね。

彼女は当時、ずっとコンビニでバイトをしていたそうです。その体験をもとに本作が出来上がりました。ですので、主人公のモデルは作者本人だともいわれています。週3でコンビニでバイトをしており、バイトをした日しか小説を書かないんだとか。

休みの日に書けばいいものの、その際にはネットばかり見てしまって書かないとのこと。疲れて書けないというのもありそうですが、なんだかこのへんも変わっていますよね。

サイコパス?合理的すぎる主人公・古倉恵子

 

作者自身がモデルといわれる主人公・恵子を、もう少し掘り下げてみましょう。彼女の「特異さ」を象徴するようなエピソード。それは幼少期のことです。

公園で小鳥が死んでいたのを見つけた恵子。おそらく、どこかで飼われていたのでしょう。その青い小鳥を見て、周りの子どもたちは悲しくて、みんな泣いています。

と、ここで彼女は、小鳥を手のひらの上に乗せてお母さんのところへ持っていきました。お母さんは少し驚きますが、「かわいそうね」「お墓を作ってあげようか」と声をかけるのです。

しかし恵子は「これ、食べよう」と母に伝えます。お父さんが焼き鳥が好きなのを思い出して、今夜これを焼いて食べよう、と言うのです。

どうでしょうか?「普通」なら、みんなのように死んだ小鳥に思いを馳せて、一緒に悲しむかもしれません。しかし彼女は、みんなと違う思考回路で物事を考えていました。しかし、そこには彼女なりの一貫した合理性が存在しているんです。

しかし、似たようなこと(周りの異様な目など)がたびたび起こるため、彼女は自身が「おかしい」ことを自覚していきます。だけど、何が「おかしい」のかが理解できないため、自分から何もしない、しゃべらない子になっていくのです。このことも、彼女なりに考えた合理性が伺えます。

そして、彼女はコンビニという職に出会います。マニュアル通りに接客や仕事をしていけば、少なくともここでは「世界の部品」としていられる。そう感じた彼女は、このコンビニで働き続け、まさにタイトルどおりの「コンビニ人間」となっていくのです。

しかし、マニュアル通りに動いているだけのアルバイト。もちろん独身で恋愛経験もなく、ましてや結婚など現実味がありません。ただただ、コンビニで働くためだけに生きる人となって、ついに36歳を迎えてしまいます。

 

『コンビニ人間』の登場人物を紹介!「普通」へのこだわり方が気持ち悪い!

ここでは、主人公以外の登場人物を見ていきましょう。両親や友人も登場しますが、基本的には恵子の視点を中心に、物語は進みます。

鍵となるのは、婚活のためとバイトに入ってきた白羽という男。この男は引きこもりでニート。さらに、平気で「ネット起業する」とうそぶいたりするのです。
 

コンビニの仕事を心の内では見下していたり、ストーカー行為でクビになった後も家賃を払えず追い出されたり、恵子の「一緒に住みませんか」という提案も「考えてやってもいい」と上から目線。果ては、自分の借金を彼女に返してもらおうと、彼女を就職させようとします。

これでは、「口だけのクズ人間」とののしられてもしょうがないような気がしますね……。

しかし、恵子はそんな彼に共感を覚えることがありました。

36歳にもなって、コンビニでアルバイトしてるの?結婚はしないの?と「普通の人々」は「普通であること」を強要して、ずかずかとプライベートに踏み入ってきます。ありのままの自分を「普通の人たち」の両親や友人は許してくれません。

そんな不満を、白羽も抱えていました。ですから、「普通の人間」を演じるために恵子は同棲を提案し、彼もそれに乗ったのです。決して恋愛感情などなく、彼女なりの合理性を追求した結果でした。

しかし、やはり「普通の人」から見ると、その考え方に納得はいかないのでしょう。彼女のありのままは、否定され続けます。そんな彼女の視点から見ると、「普通」にこだわる周りの人たちの気持ち悪さが際立っていきますね。

『コンビニ人間』は現代あるある?日本的な「普通」を考察!

さて、この作品ですが英語圏の評価はいまいちのようです。理由としては、日本独特の文化にあるよう。

周りからの「普通であること」への同調圧力、周りの人々の「おせっかい」「心配」がむしろプレッシャーになることなど、日本人なら少しでも共感できるのではないでしょうか。それが恵子ほど極端でなくても、「普通であること」は日本ではいたく重要視されるような気がしますよね。

しかし恵子が感じるそんな「普通の人々」からの疎外感が、英語圏の人々には理解しがたいようです。日本では特に、「一個人が社会からはみ出してはならない」ような空気が蔓延していますが、欧米ではむしろ個が尊重されます。

普通でないことに特になんの偏見もないようです。もちろん、まったくないとはいいきれませんが、恵子も英語圏でなら、もっとのびのびと人生を歩めたのかもしれません。

『コンビニ人間』の結末をネタバレ解説!恵子が選んだ生き方とは?

さて、いよいよクライマックスです。

白羽と同棲を始めた、恵子。彼女の提案を受け入れた白羽でしたが、やっぱりクズと評される性格は変わりません。自分の借金返済のために、彼女を正社員として働かせようとするのです。

白羽のためにコンビニを辞めさせられ、就職活動をおこなう恵子。今までバイトの時間に合わせて生活していたので、生活習慣も大きく崩れてしまっていました。

著者
村田 沙耶香
出版日
2018-09-04

 

ある日、とある会社の面接に向かう途中にコンビニに寄ると、店長不在でバイトと新人バイトで大わらわの状態。困った様子を見て、とっさに恵子はそのコンビニの本社社員を装い、飲み物の補充やドアの汚れなど、これまでの仕事の経験を生かしてアドバイスします。

バイトたちは、彼女に大変感謝しました。しかし、一緒にいた白羽はそれを見て「何をしているんだ!」と怒鳴りつけます。一体何が不満なのか……。

そこで、彼女は気づきます。自分はコンビニ店員なんだ、と。

この気付きこそが、最大の見所であり、本作をより深いものにしています。

その後、この出来事をきっかけに自分が「コンビニ人間」であることを再度自覚した恵子。そして、それを白羽にはっきりと伝えるのですが……。

果たして、2人のこのいびつな関係は続くのでしょうか。彼女はこれから、「普通でない自分」と、どう折り合いをつけて生きていくのでしょうか。その最後は、ぜひ本を読んで確かめてください。奇妙な物語らしい、相入れない、それでいてどこか共感もできる結末となっています。

 

いかがだったでしょうか?あなたも、誰かに「普通」を押し付けたり、押し付けられて窮屈な思いをしていないでしょうか?恵子や白羽は極端だったかもしれませんが、彼女たち側の視点に立つことで、いつもの自分を「気持ち悪い」と思うこともあったのでは。

そんな、「普通でない」恵子はどう生きていくのか、ぜひ手にとって確かめてくださいね。