まるでマントのような飛膜をもち、暗闇のなかを滑空する「ムササビ」。かっこいい印象が強いですが、実は驚くべき繁殖行動をするのをご存知でしょうか。この記事では、彼らの生態や空を飛ぶ仕組み、交尾と子育て、よく似たモモンガとの違いなどを解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。
ネズミ目リス科ムササビ属に分類される動物です。アジアを中心に8種類が存在していて、ホオジロムササビが日本の固有種です。
体長は30~50cmほどです。山地や平野部の樹木の多い場所に生息しています。ただ夜行性なので、野生の個体を実際に見かけることはなかなか難しいでしょう。昼間は天敵であるテンやタカに襲われないよう、木の洞などに身を隠しながら休んでいます。
雑食性で、昆虫類や果実、木の実、鳥の卵などを食べます。餌を求めて動きまわるのも夜ですが、嗅覚が優れているので、暗闇でも食べ物のある場所を嗅ぎつけることができるのです。
日本では古代から狩猟の対象とされ、縄文時代の遺跡からも発掘されてきました。現在は鳥獣保護法で守られています。
ムササビの最大の特徴ともいえるのが、滑空飛行です。
首から尾にかけて大きな飛膜をもっていて、これを広げることで風に乗り、グライダーのように長い距離を飛ぶことができます。
飛行距離は、10mの高さから飛んだ場合、通常で約20m、うまく風に乗れば100m以上にものぼるそうです。ただ鳥のように羽ばたいて浮上することはできません。
ムササビが滑空飛行をする理由は、安全に餌を探すためだと考えられています。彼らは他の動物との争いを避けるため、基本的に地上で餌を食べることはありません。
また天敵から逃げる際にも役立っています。飛行時の最高速度は秒速16mほどだといわれていて、このスピードには鳥類もなかなか追いつくことができないのです。
繁殖期は、初夏と冬の年に2回あります。この時期になると、メスを奪うためにオス同士で激しい争いをくり広げます。オス同士の戦いは動物界においてそれほど珍しいことではありませんが、ムササビの場合、交尾の際に他に類を見ない行動をするのです。
メスは平均で1~3匹のオスと交尾をします。最初に交尾をするのは、オス同士の戦いに勝った力のある実力者です。交尾が終わると、オスはメスの膣の入口に、自分の精子が漏れ出ないよう「交尾栓」というタンパク質でできた蓋をします。
ここまではまだ理解ができますが、そのメスのもとに2匹目以降のオスがやってくると、前のオスが付けた交尾栓を取り除き、中の精子を掻き出してから交尾をするのです。
種としての繁栄よりも、それぞれの個体の子孫を残すことへの執着が強いといえるでしょう。力の強いオスの遺伝子が残るとも限らないのが、面白いところです。
こうしてメスは、約75日間の妊娠期間を経て、1〜2匹の子どもを産みます。
ムササビと同様に滑空飛行をする動物に、モモンガがいます。いくつか相違点を紹介しましょう。
まず体の大きさですが、モモンガは10~20cmほどしかなく、小さいです。だいたい手のひらサイズしかありません。体が小さいため風の流れを大きく利用することもできず、飛行距離はムササビの5分の1程度だといわれています。
また飛膜にも違いがあります。モモンガは前足と後ろ足の間に飛膜がついていますが、ムササビの場合は首から尾にかけてとその範囲が広いのです。その分、風にも乗りやすいといえるでしょう。
さらに、尾が扁平形をしているのがモモンガ、円錐形をしているのがムササビという違いもあります。
- 著者
- 川道 武男
- 出版日
- 2015-02-03
作者は、単独性哺乳類の社会を研究している動物学者です。本書は、9年間をかけて117頭のムササビを調査、研究し、その生態を解説している作品です。
1匹のメスが一晩の間に複数のオスと交尾をする様子、出産、子育てなど暮らしに密着しています。写真は赤外線無発光のカメラを使用しており、夜行性の動物を追う苦労がうかがえるでしょう。
実は古代から伝わる「天狗」や「砂かけ婆」の正体は、ムササビだと考えられているという興味深い話も載っています。人間にとって身近でありながら、妖怪と勘違いされるほど生態が謎に包まれていたということです。
楽しく知識をつけることができ、好奇心を刺激される1冊でしょう。
- 著者
- 井上 豊子
- 出版日
ある日、「まるさん」の家の庭に、まだ目もあいていないムササビの赤ちゃんがいました。どうやら巣から落ちてしまったようです。何とかその命を助けようと、まるさんは懸命にお世話をします。
生まれて間もないムササビは、すぐにまるさん一家になつき、「ムーちゃん」と名付けられて元気に成長していきます。しかしいつまでも一緒にいるわけにはいきません。自然界に帰る時、彼らはどんなことを思うのでしょうか。
この物語は、なんと実話が基になっているそうです。まるさんの優しさと、巣だった後もたびたび顔を見せにくるムーちゃんのかわいらしさに、心があたたかくなる1冊です。