スマートなハンターとして人気が高いトンボ。空中でピタリと止まったり急旋回をしたりと、他の昆虫には見られない動きをすることも特徴です。一体どのような体のつくりをしているのでしょうか。この記事では、彼らの生態や種類ごとの特徴、複眼や羽の仕組みを解説していきます。さらに図鑑などおすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。
昆虫綱蜻蛉目に分類される生物で、全世界に約5000種が現生しており、日本ではそのうちのおよそ200種を見ることができます。
最古から地球に存在していた昆虫の一種で、2億9000万年前の古生代石炭紀には翼開長50cmを超す「メガネウラ」という原種が存在していたことがわかっています。また生きた化石と呼ばれる「ムカシトンボ」は、およそ7万年前のウルム氷期にはすでに存在していました。
体の特徴は、2つの大きな複眼と分厚い胸部、細長い胴体です。食性は肉食で、空中で飛びながら他の昆虫を刈る様子が知られています。肢は短く細いので歩行には適しておらず、移動のほとんどが飛行です。獲物を捕まえたり木の枝につかまったりする時は、肢の内側に生えた頑丈な毛がホールドするのに役立っています。
オスは強い縄張り意識をもち、繁殖期には縄張り内に入った他のオスを威嚇して、激しく争う姿も見られます。このことからも「空中最強の昆虫」と呼ばれるに相応しい獰猛な性格をしていることがうかがえるでしょう。
日本では、全長30mmほどの小型のものから100mmを超す大型のものまで姿を見ることができます。また多くの種類が、前後の羽の形が揃った「均翅亜目」と、後羽が広くなっている「不均翅亜目」に分類されます。
クロイトトンボ
均翅亜目の小型の種で、全長は27~30mmほどです。北海道から九州にかけて分布し、植物の多い池や沼など温暖な水辺に生息しています。成虫の姿を見ることができるのは4~10月の間です。国外では朝鮮半島や中国、ロシア等に分布しています。
オスは繁殖ができるようになると胸部に青白い斑紋が出るようになり、メスは黄緑色の体色をした個体と薄い青色の個体の2種類が見られます。
モノサシトンボ
均翅亜目の小型の種で、全長は40~50mmほどです。北海道から九州にかけて分布し、木陰のある湖や池に生息しています。成虫の姿を見ることができるのは5~10月の間です。国外では朝鮮半島や中国に分布しています。
体に物差しの目盛りのような模様があるのが特徴です。オスは繁殖ができる可能になると体の斑紋が水色になり、メスは黄緑色の体色をした個体と水色の個体の2種類が見られます。交尾は午前中にすることが多く、オスとメスが連結して水面の植物に産卵します。
ハグロトンボ
均翅亜目の大型の種で、全長は55~65mmほどです。本州、四国、九州、屋久島、種子島に分布し、流れの緩やかな河川や用水路などに生息しています。成虫の姿を見ることができるのは5~10月の間です。国外では朝鮮半島や中国、ロシアに分布しています。
国内に生息するトンボのなかで唯一羽の縁紋をもたず、雌雄ともに黒褐色をしていることが特徴です。メスは交尾をした後単独で水中の植物に卵を産み付け、その間オスは側にいて外敵が来ないかを警戒します。
チビサナエ
不均翅亜目の小型の種で、全長は35~40mmほどです。九州南部と沖縄諸島に分布し、植物の多い河川の中流から上流域に生息しています。成虫の姿を見ることができるのは6~8月の間です。
日本の固有種で、雌雄ともに黄色い胸部に黒色の胴体をもち、胸部の側面に2本の黒いラインがあります。メスは交尾をした後、単独で空中で卵塊を作り、水を打ちながら産卵していきます。
シオカラトンボ
不均翅亜目の中型の種で、全長は45~60mmほどです。九州南部から沖縄諸島に分布し、平地や山地の沼や池、水田などに生息しています。成虫の姿を見ることができるのは3~12月の間です。国外では朝鮮半島や中国、ロシア、ヨーロッパに分布しています。
日本でもっとも数が多い種類のひとつです。オスは繁殖ができるようになると、白い粉を吹いたような体色になり、メスは黄褐色の体色になります。交尾をした後、メスは腹で水面を掻きながら産卵し、その間オスは側にいて外敵が来ないかを警戒します。
オニヤンマ
不均翅亜目の大型の種で、全長は80~110mmほどです。日本に生息するトンボのなかで最大です。北海道から沖縄まで全国に分布し、平地や山地の河川の中流、上流域に生息しています。成虫の姿を見ることができるのは7~10月の間です。国外では朝鮮半島や中国、ロシアに分布しています。
雄雌ともに黄色と黒の縞模様の体色をしていて、メスの産卵弁が長いことが特徴です。交尾は長い場合は2時間以上におよぶこともあり、その後メスは産卵弁を水中につきたてて川底に卵を産み付けます。
六角形の個眼が1万~3万個集まってできた複眼と、3つの単眼をもっています。複眼は頭部の左右に張り出した大きな球形になっていて、前後左右ほぼすべてを見渡すことができます。脳内ではそれぞれの個眼が捉えた映像をひとつの映像として構築しているそうです。
さらにこの複眼は、腹に近い部分と背中に近い部分で異なった役割を担っています。
背中側は、自分の上にある空を映すことで高い場所にいる鳥などの天敵を見つけるのに使い、紫外線から青緑色を感知することができます。一方で腹側は、自分の下にある障害物や獲物を見つけるのに使い、紫外線から赤色を感知することができるのです。
この発達した複眼の機能があってこそ、空中での機敏な動きとスマートな狩りが可能となっているのでしょう。
また単眼は、光を感知する能力に優れており、光や影から得た情報を複眼の3倍の速さで脳に伝達することができます。こちらも天敵である鳥などが迫っている場合に役立ちます。
トンボは4枚の羽を別々に動かすことができ、1秒間で20~30回も羽ばたくことが可能です。これにより、ギンヤンマのように最高で時速100km近いスピードを出せる種もいれば、空中でそのまま留まるホバリングができる種、真上に浮上することができる種も存在します。
このことからトンボは、昆虫のなかでもっとも美しく飛ぶことができるといわれているのです。
このような飛行技術を支えているのが、3つに分かれた胸部です。中央と後ろの胸は特に分厚く発達していて、別々に動かすことができます。前羽は真ん中の胸に、後羽は後ろの胸についているので、4枚の羽を別々に動かすことができるのです。
それぞれの羽には「結節」と呼ばれるくびれと、「縁紋」と呼ばれる模様があり、これは他の昆虫には見られない特徴です。近年の研究では、結節が機敏な動きを実現し、縁紋が高速飛行をする際の不規則な振動を抑える役割を果たしていることがわかってきました。ちなみに飛行機にも似たような仕組みが取り入れられています。
トンボの姿が太古からほとんど変わっていないのは、この羽の構造が生存に適した完成度の高いものであるからだといえるでしょう。
- 著者
- 尾園 暁
- 出版日
- 2016-06-01
日本で姿を見ることができる代表的なトンボの生態や生息地を紹介している、本格的な図鑑です。
成虫はもちろん産卵から孵化、ヤゴ、羽化とすべての成長過程の写真を掲載しています。体のつくりについても各部の拡大写真を用いて細かい部分まで説明しているので、まさに「ぜんぶわかる」というタイトルに偽りなしの内容です。
またオス同士が縄張りを巡って争うさまや、メスの産卵の様子を連続撮影でとらえたものなど、なかなか見ることのできない貴重なシーンも満載です。初めて見るものばかりで、つい惹きこまれてしまうでしょう。
さらに、捕まえ方や飼育方法なども網羅しています。この1冊でトンボのすべてがわかるといっても過言ではないでしょう。
- 著者
- ["尾園 暁", "川島 逸郎", "二橋 亮"]
- 出版日
- 2012-06-29
日本に生息するトンボ、17科203種すべての生態を写真とともに紹介しているガイドブックです。表紙からも伝わるようにその写真は美しく、斑紋など体の詳細な部分まではっきりと確認できます。
それぞれの生息地で撮影された写真も多いので、種類ごとに好む環境も知ることができます。
卵・幼虫・成虫の見られる時期や生息地も細かく紹介しています。採集やフィールドワークなどへの活用もおすすめです。
また分類については、DNA解析の結果にもとづいてわかりやすく解説しており、科ごとのグループについても理解を深めることができるでしょう。