本作は、レントゲンやCTで病魔を発見することを職務とする放射線技師や、放射線科医を主人公とした漫画です。それまで医療漫画といえば、外科医や内科医のような、直接的に患者を治す医者を主人公としているものがメインでした。 しかし本作の主人公は、放射線技師。すなわち医師ではないのです。また手術の場面は少なく、あくまでも診療や診断をメインとしており、医療漫画としては非常に珍しい作品となっています。そして診療を物語の基軸として見ることで、現在の医療の意外な一面や、問題点などが見え隠れしていくことに……。 今回はそんな異色の医療漫画の見所を、全巻ご紹介。ネタバレ注意です。
診療放射線技師の五十嵐唯織(いがらし いおり)は、上司への不注意な発言から勤めていた病院を解雇されてしまいます。
失意のなか駄目元で、かつての想い人である幼馴染が勤めている病院・甘春(あまかす)総合病院の求人広告欄を探ってみたら、なんと放射線技師の募集欄が!彼は大急ぎで連絡するのです。
そんなある日、五十嵐は世界的写真家・菊島亨と出会います。そして彼が頭痛を患っていたことから、病院に行くことを薦めました。
そんななかや五十嵐は、新人・広瀬裕乃(ひろせ ひろの)とともに甘春総合病院に無事就職を果たしました。そして、放射線科医になった幼馴染・甘春杏と再会。しかし彼女は、診療放射線技師を見下す傲慢な医師になっていて……。
- 著者
- モリ タイシ
- 出版日
- 2016-06-17
そこへ、菊島が検診に現れます。さっそくMRIを映す五十嵐。しかし銀歯が原因で、画像が乱れてうまく写りません。杏は、副作用が出ることを覚悟のうえで造影剤を使おうとしますが……。
五十嵐のフォローにより、無事その原因を特定でき、己の想い人の役に立って喜んだ彼でしたが、杏は自分の面子をつぶされて怒ってしまいます。喜ばせようと思ってやったことで怒られるという悲劇に見舞われた五十嵐ですが、ここでさらなる追い打ちが。なんと彼女は、彼のことをまったく覚えていなかったのです。
上記のとおり、本作は「診療」を主軸とした作品。『ブラックジャック』や『医龍』のような、派手な外科手術の場面は出てきません。
しかし、五十嵐に信頼をよせる甘春総合病院の院長・大森渚は、放射線科医、病理、麻酔科医の3つは「医者をリードする医者」ということで、アメリカでは人気が高い職種なのだといいます。
日本人は基本的に細かい作業が得意で、丁寧な仕事をする国民性。むしろ日本こそ診療や病理の職種が向いてそうだと筆者は思うのですが、この辺に関して医療関係者はどう思っているのか興味深いところです。
五十嵐は、優れた観察力と洞察力を兼ね備えた優秀な放射線技師で、なんと医師免許まで持っています。しかし社交性が低いため、人間関係で損をすることがしばしば……。しかし、ここぞというときには、とてつもない力を発揮して周囲を感嘆させるのです。
そんな彼ですが、そもそも放射線技師になろうと思ったきっかけは、幼い頃に杏と交わした約束がきっかけでした。
「イオリはホウシャセンギシになって 私のお手伝いをするんだよ」
(『ラジエーションハウス』1巻より引用)
放射線科医を目指していた杏は、彼にこう言ったのです。そして見事に夢を叶え、同じ職場で働けることに……。しかし肝心の杏とは、いつもすれ違ってばかりになってしまうのです。
果たして、彼の想いが彼女に届く日はくるのでしょうか。医療の他、恋の行方にも注目です。
ある日、杏は屋外のベンチに1人で座っている少年・千葉健太郎に声をかけました。彼は膝のレントゲンを撮るために検査を受け、成長痛と判断されたのですが、そのために付き添いに来ていた母親の時間を奪い、仕事を妨害してしまったのではないかと、悩んでいました。
杏は、どんなに忙しくてもお母さんは息子ことを大事に思っているはず、と元気付けます。
そこへ五十嵐が、なぜか犬を抱いて現れました。杏がかつて犬を飼っていた事から、これをきっかけに自分を思い出してほしかったようですが……なんと、彼女は犬嫌いになっていたのです。しかし、それには彼女の過去に関する、ある理由があって……。
その後、成り行きで、五十嵐は健太郎の話を聞くことになります。健太郎は自身の両親が離婚したこと、そして祖母が脳腫瘍で亡くなったこと、叔母が白血病で亡くなったことを話しました。
そこへ彼の母親・美佐子が現れます。五十嵐は彼女に、健太郎をMRIに行くよう薦めるのです。なぜなら彼女の家系はリ・フラウメニ症候群の可能性があったから。それは遺伝的に、癌が発症しやすい家系のことでした。その可能性を、健太郎との話のなかで感じ取ったのです。
- 著者
- モリ タイシ
- 出版日
- 2016-10-19
前巻の後半と本巻には、検診難民の話がでてきます、健太郎や美佐子の例にも表れているように、検診は時間もかかるうえ、必ず発見できるわけでもありません。そして病気が発見できても、治療できる医者がいなかったり、予約でいっぱいだったりと、患者を悩ませてしまうことになるのです。
本作では病気発見の重要性だけでなく、医療を受ける側の病魔との向き合い方と、それを支援する医療機関側のシステムの問題点なども描写されています。
また癌をはじめ、病気の発見は大変困難であり、本作ではその診療や病理の重要性が痛いほど伝わってきます。
特にリ・フラウメニ症候群のように遺伝的に癌に犯されやすい人にとって、検診は命綱。しかし仕事をやっていると、なかなか検診のために割く時間が出来なかったりと、問題はまだまだ山積みです。
本作を読んでいると、優秀な医者や放射線技師が不足している問題だけでなく、病気や医療に対して、医療機関をはじめ社会全体が柔軟に対応できるような措置が必要になってくるのでは、と思えてなりません。
現在では働きながら治療を受けられるような措置もあるみたいなので、少しずつですが変わってきているようです。
MRIの結果、健太郎の病状は骨肉腫でした。しかし五十嵐は、母親である美佐子にも病状があると見抜いていたのです。
彼女はかつて乳癌を患っていて、片方の乳房を切除していました。そして残った乳房にも、癌のある可能性があったのです。しかし、彼女はこれまでにも何度もマンモグラフィの検査をして、異常はありませんでした。それでも五十嵐は、彼女はデンスブレストだと見抜いていたのです。
デンスブレストとは、乳腺が濃いためにマンモグラフィでは発見されづらいうえ、日本ではまだ医療関係者でも知らない人が多いもの。
美佐子は超音波検査など、綿密な検査をおこなうことになりました。その結果、なんと乳癌であることがわかったのです。
彼女は、健太郎の父親と離婚をしています。その理由は、かつて片方の乳房を切除したときに女としての自信を無くしてしまったことからでした。決して、嫌いで離婚したわけではなかったのです。
彼女は、その元夫の励ましを得て、もう1度夫婦の絆を取り戻して手術を受けることを決意します。果たして、手術の結果は……。
このエピソードの他にも、本巻の最後には、辻村駿太郎という整形外科の医師が登場。彼も杏に気があるようですが、どうも彼はMっ気があるようです。五十嵐の、恋のライバル出現か!?
- 著者
- モリ タイシ
- 出版日
- 2017-03-17
デンスブレストは本作でもいわれているように、日本ではあまりにも馴染みの無い言葉。かくいう筆者も、初めて聞きました。
このように医療とは、新しい病気の発見と解明、そして具体的な治療法の模索と、そのための技術や施設、その担い手である医師の確保が必要不可欠となってきます。
しかし、そのためには莫大なお金が必要です。マイケル・ムーアのドキュメンタリー映画『シッコ SiCKO』によると、アメリカの医療費の金額は尋常ではなく、医療保険にさえ入れない人もいるというのです。
すぐれた医療技術の背後には、いかに高い費用がかかっているかがわかります。日本でも、医療費や面倒な手続き事項などの問題があり、なかなか新しい病気と、その対処法を浸透させることが出来ないようです。
また本作をとおして、乳癌が女性にとっては大変つらい病気であることが、よくわかります。肉体を切り取られるだけでなく精神的にもきつい病気であるため、家族や友人の理解や支えが必要なのです。
最近自分に自信の無い広瀬。そんな彼女は、バンドをしている女性の患者・坂本美月がMAN WITH A MISSIONの『FLY AGAIN』を聴いていたことから、彼女と知り合いになります、美月は大学仲間とバンドを組んでいたのですが、もうじき卒業なので、最後のライブを近々おこなうというのです。
広瀬は高校時代、バーレーボール部員でした。彼女はつらいときに友達に薦められた『FLYAG AIN』を聴いて、いつも頑張っていたのです。そして大学から推薦状がくるほど、その実力を伸ばしたのでした。
しかし練習中に左膝靭帯断裂の大怪我を負ってしまい、残りの高校生活は治療に全て費やされ、推薦は流れてしまいます。そして、友達との距離も遠くなってしまったのです。
彼女はかつての自分と美月を重ね、彼女が異常と感じる肩の撮影をすることとなりました。画像は設定より広い範囲を撮ったこと以外は完璧。それを先輩の軒下がトリミングして、みんなで診断することになりました。しかし、異常は見受けられません。
そこで五十嵐が、最初に広瀬が撮影した広い範囲の方の画像をチェックすると……。
- 著者
- モリ タイシ
- 出版日
- 2017-08-18
本巻では、広瀬が主人公となります。第1巻から体育会系っぽい雰囲気を出していましたが、高校時代バレーボール部員で、大学の推薦が出るほどの実力者だったというわけです。
そんな彼女を襲った悲劇。それが、彼女を放射線技師の道へと歩ませました。しかし、これまでのところ、彼女はイマイチいい所がありません。
しかし、そんな彼女が、かつて自分を支えてくれた音楽を通じて患者と向き合い、そして新しい一歩を踏み出します。軒下は彼女をフォローし、技師長の小野寺は彼女が思ったことを言えるように背中を押し、五十嵐はその意図を理解して患者が抱えている本当の病を見抜くのです。
広瀬が患者をしっかり見ていたからこそ、この病気は発見できました。そして後輩をしっかりと見守り、育てようとする周囲の先輩たちの気配りも、病気の発見には不可欠でした。そんな彼らのチーム力にも、ぜひ注目してみてください。
ある日、救急外来から遺体が運ばれてきました。この病院では救急外来で運ばれてきた遺体は、遺体の内部を撮影する診断であるAiに回すようになっていました。しかし、遺族はそれを拒否。
遺体の名は、藤本直樹。まだ13歳です。死因は「心臓震盪」の可能性が高かったよう。しかし、小野寺は遺族の藤本夫妻を説得して、Aiを受けてもらうようお願いしました。そして最終的に奥さんが折れて、Aiを受けることになります。
その結果、直樹の死因は「心臓震盪」などではなく、「肝臓破裂」ということがわかりました。
藤本夫妻は、連れ子同士の結婚。兄・直樹は奥さんのほうの子供で、下の子は夫のほうの子供でした。まだ幼かったこともあるからか、下の子供はすぐに奥さんと兄に懐きましたが、直樹は夫に懐かなかったようです。そのため、隣の家の青年と遊んでばかりでした。
そんな彼の死因は、肝臓破裂です。これは通常、格闘技によって負う怪我であることから、彼が何者かによって殺されたようであることがわかりました。彼を殺したのは、一体誰なのでしょうか。
- 著者
- モリ タイシ
- 出版日
- 2018-01-19
本作としては、異色のミステリー編。法医学という分野からもわかるとおり、医療は犯罪事件の解決にも欠かせないものとなっています。
もっとも今回のエピソードで解決に導くのは、Aiでの分析結果ではなく、五十嵐のすぐれた洞察力と観察力というのが興味深い点。結局のところ、すぐれた機材を使っても最終的に判断するのは人間であり、その人間に推理力や観察力が無ければ意味が無いと暗示しているようにも見えます。
さて、本作では小野寺がAiに関わる苦々しい過去を持っていることがわかります。しかし、現時点では具体的な事情はわかりません。どうやら、彼の後輩に関わることのようですが……。
Ai、もしくは司法解剖などは作中でもいわれているように手続きが多く、遺族が拒否しているパターンも多いため、実行されないこともままあります。しかし、おこなわれなかったがために事件性を見逃してしまったら……と考えると、ゾッとしてしまうでしょう。
このエピソードの他にも、本巻では病院の内部事情も語られており、そこでは五十嵐たちの上司である鏑木診療部長が不穏な動きを見せるようになってきます。どうやら彼は野心家のようですが、しだいに五十嵐を疎んじるようになってくるようです。
今後どのような展開を見せるのか、目が離せません。
鏑木は、院長にある意見を申し立てます。なんと、五十嵐が技師の本分を超えて「読影」したと言うのです。読影とは、主治医からの依頼を元に検査や診察を行い、患者に助言をおこなうこと。医師免許を持たない者(五十嵐は本当は持っている)は診断をしてはならないと、法律でも定められているのです。
しかし院長は、五十嵐は「所見」をしただけと、ゆるやかに返しました。
鏑木は、五十嵐が病院を転々としているのは何かわけがあると睨んで、彼に探りを入れようとします。
そんなある日鏑木は、学会のシンポジウムに出席するために出張をすることになりました。そして彼の不在時に大腸癌の可能性がある患者がやってくるのです。
病状を解析するにはIVRを使うしかありませんが、現時点でできるのは学会に行ってしまった鏑木だけ。あとはサポート経験しかない杏だけでした。しかし、鏑木の帰還を待とうにも患者は出血しており、急ぐ必要があります。
そこで結局、杏がIVRをおこなうことになりました。しかし腫瘍が大腸で見つからず、途中で行き詰まってしまうのです。五十嵐は再度画像を見ましたが、今回は彼にもよくわからないよう。しかし、たまたま机にあった小説がヒントになり、彼は小腸に腫瘍があることを見抜くのです。
一体、どうやって見抜くことができたのでしょうか。
- 著者
- モリ タイシ
- 出版日
- 2018-07-19
本巻では、鏑木が不穏な動きを見せます。かなりの悪役……かと思いきや、重要な人脈の名前を頭の中にごっそり入れているのをユーモラスに描かれたり、実は小説を読むのが好きな真面目な一面もあったりと、妙に憎めない人物です。
また彼は、急な呼び出しにあってもすぐに応じるなど(眼と鼻の先に、美女と牡蠣の誘惑があっても)、医者としての最低限の矜持は持っているよう。そんな彼のキャラクターにも注目です。
読んでいると感じるのですが、本作は基本的に嫌なキャラクターが出てこないということがわかります。そんなところも、本作の魅力の1つといえるでしょう。
今回出てくるIVRというのは、血管の中に細長い管を入れて調べる技術。大変な精密機械を使ううえに、新しい技術であるため、作中では誰が使うかで揉めてしまいます。一般企業でも新しい技術で何かをやろうとすると、必ずどこの部署でやるのか揉め事が起きてしまうものですよね。
作中では、IVRは頭の中の地図とわずかな松明を頼りに、真っ暗な立体迷宮を進むようなものといわれています。
そしてこのエピソードでは、五十嵐が最後に杏のサポートをしたことから、2人の距離が縮まることになるのです。今までもどかしい思いをしてきた五十嵐ですが、ついに関係が進展!? 恋の行方もますます気になる6巻です。
IVR手術を協力して成功させた事で、杏は唯織に信頼を寄せ始めました。
しかし、唯織が医師免許を持ちながら、放射線技師として働いている事を知った杏は、戸惑いを隠せません。
そんな中で、少女のMRI検査を担当することとなった杏。しかし突然、検査中にMRIから煙が吹き出し、杏は室内に閉じ込められてしまいました。酸素濃度は下がり続ける一方です。杏の命の危機を感じた唯織がとった行動とは…!?
- 著者
- モリ タイシ
- 出版日
- 2019-03-19
緊迫のIVR手術から束の間。今巻では、MRI検査で事故が起こります。
杏は、唯織が医師免許を持ちながらにして放射線技師として働いている事を知りましたが、そのことについて唯織に尋ねられずにいました。
そんな悶々とした心持で請け負った少女のMRI検査中、事故は起こってしまいました。機器から白煙が吹き出し、杏は室内に閉じ込められてしまうのです。絶体絶命の杏は、朦朧としていく意識の中で、過去の記憶を呼び覚ましていくのでした。
遂に杏の過去が明かされていく展開となりました、『ラジエーションハウス』第7巻!彼女の過去からも、絶体絶命の杏を救おうと必死に行動する唯織からも、目が離せません!
というわけで、唯織に信頼を寄せ始めた杏が、唯織との約束に近付いていく第7巻!またしても彼らの距離感に変化が生まれそうですね!
鏑木が悪巧みをする一方、五十嵐と杏にも少しずつ変化が!そして、小野寺の過去には一体何があったのでしょうか。まだまだ目が離せません。