夏の到来を告げる鳥「ホトトギス」。古くからさまざまな文学作品に登場し、数多くの異称をもつことでも有名です。この記事では、そんな彼らの生態や特徴、実は深いウグイスとの関係、さまざまな別名の由来、彼らが登場する俳句や和歌などをわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
カッコウ目カッコウ科に分類される鳥類の一種です。分布は中国南部からインド、マダガスカルやアフリカ東部まで広い範囲におよんでいます。日本では、中国やインドで越冬する個体群が5月中頃に渡ってくるため、全国的に「夏鳥」として知られています。
体長は28cmほどです。羽を広げると全幅が46cmほどになります。頭部から背中にかけては青灰色で、羽や尾羽は黒褐色です。胸部から腹部は白く、黒い縞模様が入っています。目の周りにある黄色いアイリングも特徴のひとつです。オスとメスに見た目の大きな違いはありません。
ホトトギスが好んで食べるのは、蛾の幼虫や昆虫などです。ただ渡りの長旅中にはエサが食べられず、餓死してしまうこともあります。またハヤブサやワシ、コンドルなどの猛禽類に襲われることがあり、天敵です。
林の周辺や藪のある場所、草原などで暮らしていて、警戒心が強いためその姿を近くで見ることは難しいでしょう。遠くからだとカッコウやツツドリと見間違えがちですが、鳴き声で違いを知ることができます。
彼らの鳴き声は「キョ、キョ、キョキョキョキョ」というよく通り、大きいです。日本語の発音に当てはめて「テッペンカケタカ」や「トッキョキョカキョク」などと表現されることもあります。
ホトトギスは自分では巣を作りません。その代わり、ウグイスの巣に卵を生み、さらに孵った雛も育ててもらうのです。これを「托卵(たくらん)」といいます。
托卵の習性が生まれた理由はよくわかっていません。一説によると、ホトトギスは体温の変化が大きいため、卵を一定の温度であたためることができないからではないかといわれています。ちなみに托卵する鳥は他に、カッコウやツツドリ、ジューイチなどが知られています。
ホトトギスの托卵相手として利用されるウグイスは、スズメ目ウグイス科の鳥です。日本全国に生息しており、体長はオスが15cm、メスが13cmほどです。背中がオリーブ褐色で腹部は白く、全体的に地味な色合いをしています。大きさも見た目もホトトギスとは異なりますが、卵はどちらもチョコレート色です。ホトトギスの方が少し大きいですが、よく似ています。
ウグイスは平地や山地の草木が生い茂った場所に棲んでいて、春になると巣を作り卵を産みます。この巣に産卵されたホトトギスはいち早く孵化し、なんとウグイスの卵を巣の外に捨ててしまうのです。そしてウグイスは、ホトトギスの雛を自分の子どもだと思いこんだまま、世話をします。
ホトトギスを意味する表記は、異称を含めると20種類以上あるといわれています。そのなかから代表的なものを紹介しましょう。
時鳥
ホトトギスが日本にやってくるのは、田植えが始まる頃です。毎年同じ時期に渡ってくるため、農期の区切りを表す意味で「時を告げる鳥」とされました。同じ意味で「勧農鳥(かんのうちょう)」や「早苗鳥(さなえどり)」と呼ばれることもあります。
杜宇
中国の伝説には、貧しい蜀という国で農耕を指導し、国を発展させて王になった「杜宇」という人物が登場します。彼が亡くなった後、その魂がホトトギスに化身し、農耕を始める季節を教えてくれたという話がもとになっています。
また杜宇が「鵑(けん)」に生まれ変わって鳴いているとして、「杜鵑(とけん)」と呼ぶようになった説もあるそうです。
不如帰
上述した杜宇に関する別の伝説です。杜宇は王になった後、不品行のために退位させられることとなりました。復位を望んだものの叶わず、国を離れます。そして「不如帰去」、つまり「帰ることができない」と血を吐くまで泣き続けたそうです。
ちなみに「血を吐くまで」は、ホトトギスの口の中が赤いことと関連しています。
子規
「不如帰」が故郷を離れた旅人に帰心を思わせることから、「思帰」と呼ばれるようになり、それが転じて「子規」となりました。
俳人として知られる正岡子規は、この異称にならって自身の雅号をつけました。結核を患い吐血する自身の姿を、血を吐くまでなき続けたホトトギスに重ね合わせたそうです。
初夏の季節を代表する鳥として、数多くの俳句や和歌に詠まれています。
「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」(山口素堂)『江戸新道』
江戸時代の俳人である山口素堂が詠んだ句です。「青葉」「初鰹」もホトトギスと同様に夏の季語で、江戸の人々が夏の到来を感じるものとして好んだ言葉を織り込んでいます。
「鶯の生卵の中に霍公鳥 独り生れて 己が父に 似ては鳴かず 己が母に 似ては鳴かず……」(高橋虫麻呂)『万葉集』
『万葉集』に収められた奈良時代の歌人、高橋虫麻呂の作品です。「霍公鳥」は『万葉集』でよく用いられるホトトギスの異称で、托卵でウグイスの巣に生まれたホトトギスが父や母であるウグイスのようには鳴かない様子を表しています。
「卯の花の 散るまで鳴くか 子規」(正岡子規)『子規全集第九巻』
結核を患い余命が長くないことを知った子規が、自身をホトトギスになぞらえて詠んだ句です。
「帰ろふと 泣かずに笑へ 時鳥」(夏目漱石)『漱石句集』
子規の親友である漱石が、入院中の彼を見舞った際に励ましの言葉として読んだ句です。子規と漱石が強い絆でつながっていることがわかるでしょう。
- 著者
- 大橋 弘一
- 出版日
- 2015-12-10
作者の大橋弘一は、野鳥写真家でありながら、鳥に関わる古典文学や人文科学にも精通している人物です。本作には、四季折々の景色を背景に、のびのびと暮らす野鳥たちのありのままの姿が写し出されています。
ホトトギスをはじめ、鳥の呼び名や由来、昔話、伝説などの伝承にも力を入れていて、本書にもその知見が存分に盛り込まれています。
生態とエピソードをあわせて知ることができ、普通の図鑑とはひと味もふた味も違う風格を感じられる1冊です。
- 著者
- 正岡 子規
- 出版日
- 2015-01-07
自身をホトトギスになぞらえた正岡子規。もともと冗談が好きだったということもあり、晩年は病に伏して苦しみや辛さを表現した作品もあるなか、滑稽な俳句を詠んで周囲を楽しませていたそうです。
そんな彼が残した「クスっと笑える」100句を、コラムニストで童話作家の天野祐吉が厳選し、ツッコミを入れながら紹介した作品です。さらにエッセイストで漫画家の南伸坊が描くイラストも、子規の句の魅力を引き立てているでしょう。
正岡子規の人柄が伝わってくる1冊です。