28歳の女性の、まっすぐな片思いを描いた小説、『愛がなんだ』。著者は直木賞作家でもある角田光代です。本作で描かれる、大人の100%の片思い。この記事では、そんな本作のあらすじから結末まで、詳しく解説させていただきます。ぜひ最後までご覧ください。
主人公であるテルちゃんの、ダメ恋愛ぶりを描いた物語。彼女は恋がなければ生きていけない性格で、何事よりも恋を優先します。そのため会社へは無断欠勤、無断遅刻・早退。なぜかというと恋愛相手からの呼び出しがあると、真っ先に駆けつけてしまうからなのです。彼女の恋愛には、常識という概念が存在しないように見受けられます。
そんな彼女が恋をした人物は、田中守という青年。通称、マモちゃんです。彼には恋人はおらず、出版社に勤めていました。
2人の出会いは、とある飲み会。出会ってからというものの、マモちゃんは仲のよい友達のように、深夜になってはテルちゃんを飲みに誘います。彼女はその誘いを絶対に断りません。たとえ、深夜であっても駆けつけてしまうのです。
そんな彼女をいいように利用しているマモちゃんは、やがて彼女と深い仲にもなっていくことに……。
- 著者
- 角田 光代
- 出版日
- 2006-02-24
あらすじを読んだだけでもテルちゃんのダメ恋愛がわかり、彼女のことを心配になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし『愛がなんだ』はそのダメ恋愛ぶりにも注目ですが、テルちゃんの潔い考え方にも妙に説得力があり、そこが読者を本作の世界に引き込んでいきます。
本作は映画化も決定。2019年に公開予定で、今泉力哉が監督としてメガホンを握ります。岸井ゆきのや成田凌らが出演する映画は、どんな世界観を見せてくれるのでしょうか。
成田凌が出演した作品を見たい方は、こちらの記事もおすすめです。
成田凌の人気の理由を出演作品から紐解く!実写化した映画、テレビドラマの原作の魅力も紹介
本作に登場する人物を、簡単にご紹介させていただきます。
- 著者
- 角田 光代
- 出版日
- 2003-11-21
神奈川県横浜市の出身。早稲田大学第一文学部文芸専修を卒業しています。
大学在学中に彩河杏の名義で描いた『お子様ランチ・ロックソース』という作品が、上期コバルト・ノベル対象を受賞し、小説家としてデビューを果たしました。その後は、『幸福な遊戯』で第9回海燕新人文学賞を受賞。角田光代としてデビューします。
『対岸の彼女』で直木賞も受賞している彼女の作品は、他に『ロック母』や『八日目の蝉』、『紙の月』など、数々の名作があります。メディア化作品も多く世に送り出している人気小説家です。
マモちゃんは典型的な自分系男子であり、自分を中心に世界が回っていると考えている人間です。そんな彼には、テルちゃんの気持ちや辛さはわかりません。わからないからこそ、テルちゃんを利用するという意識もなく、誘い続けるのです。
この物語は一見すると、テルちゃんがダメ男に引っかかっていると捉えてしまいますが、実はテルちゃんこそが自分系女子なのではないかと考察することもできます。マモちゃんは彼女を利用していますが、それはあくまでプライベートな時間のみです。
彼はきちんと仕事もしていますし、毎日夜遅くまで残業しています。深夜になって人を呼び出すことを平気でするようなので性格がいいとは思えませんが、あくまでプライベートな時間を活用しているのです。
その反面、テルちゃんはプライベートの時間はもちろんのこと、仕事中でさえもプライベートな時間にしてしまっています。
マモちゃんはテルちゃんを利用していますが、彼女はマモちゃんのために社会をないがしろにしてしまっているという見方もできてしまうのではないでしょうか。恋のためなら、たとえ社会に迷惑をかけることも辞さないその行動は、自分系意外の何者でもないと考えることできるでしょう。
そういったことも、この小説のひとつの読み方なのかもしれませんね。
テルちゃんは、マモちゃんに好きな人ができたとしても、同じ時間を共有できればそれでいいと考え、あいかわらずマモちゃんの都合のよい誘いを受け入れ続けます。その結果テルちゃんは、無断欠勤や無断遅刻が原因で、会社をクビになってしまいました。
しかしテルちゃんは、そのことを後悔せず、マモちゃんへの時間を増やすことができると前向きに捉えるのです。そんな2人の関係は、くっつきも離れもしない関係になってしまっていました。
意外かもしれませんが、テルちゃんは今の今まで、自分からマモちゃんを誘ったことはありませんでした。誘いは全て、マモちゃんからです。つまり彼は自分中心の、典型的な自分系男子だったのです。しかも、テルちゃんを利用しているという意識もありません。
テルちゃんは再三、葉子にマモちゃんのことは諦めるように言われますが、まったくその言葉は響きませんでした。
そして、ある日、葉子の堪忍袋の尾が切れ、ついに彼女はマモちゃん本人に苦言を呈します。彼女の言葉を受け入れたマモちゃんは、テルちゃんに「もう会わない方がよい」と伝えたのでした。
その時のテルちゃんの反応とは?そして、2人の行き着く先とは?気になる結末は、ぜひご自身の目でお確かめください。さまざまな恋愛小説がありますが、まっすぐだけど、ただの甘いだけのラブストーリーではない特徴的な本作。それぞれが自分の欲求のままに恋する姿を見れば、あなたも恋を、そして自分らしく生きることを始めたくなるかもしれません。
最後に、本作の名言をご紹介させていただきます。
- 著者
- 角田 光代
- 出版日
- 2006-02-24
ストーカーが私のような女を指すのなら、
世のなかは慈愛にみちているんじゃないの
(『愛がなんだ』より引用)
テルちゃんが言ったセリフです。彼女は、マモちゃんの言うことはほとんど聞いてしまいます。それはまるで、だだっこを見守る母親のような姿だと読み取ることもできるでしょう。悪びれないその考え方こそが自分の欲求しか見えていない彼女らしく、少し恐ろしくあります。
風が吹けば桶屋が儲かる、
恋愛運が上昇すれば仕事運は下降する
(『愛がなんだ』より引用)
テルちゃんにとって、恋愛をすることこそが人生です。つまり恋愛をすると、恋人が第一優先になってしまうので、その分、仕事はしません。
通常であれば、仕事に身が入らなくなるレベルで済むのでしょうが、彼女の場合は本当に仕事をしなくなってしまうのです。ある意味まっすぐなその姿は、誰も真似できないからこそ純粋に感じられ、それがこの作品の魅力なのかもしれません。
もうほんと、ほかにだれもいねえよってときに、
呼び出してもらえるようでありたいっす
(『愛がなんだ』より引用)
テルちゃんが、マモちゃんに対して感じていることです。彼女自身もうまいように利用されていることをわかっていながら、それでも彼と時間を共有できることがこのうえなく幸せだと感じています。そこまで人を好きになるというのは、なかなか真似できないことでしょう。
山田テルコ二十八歳、
自尊心というものを道ばたに投げ捨てて唾をかけてみる
(『愛がなんだ』より引用)
自分のプライドは捨てて、マモちゃんに尽くしまくる。そんな真っ直ぐな自分を、きちんと受け入れているように感じられる名言。テルちゃんはいつまでも、全力疾走なのです。
『愛がなんだ』の世界にどっぷり浸かりたい方は、ぜひ本編をお確かめください。