街を歩けばどこにでもいて、人間にとってかなり身近な鳥類である鳩。平和の象徴としても知られています。この記事では、彼らの生態や種類ごとの特徴、意外と強い縄張り意識などを解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。
ハト目ハト科に分類される鳥類の総称です。北極圏の一部と南極大陸を除いた全世界に分布していて、個体数も多く、日本でも全国的に姿を見ることができる身近な鳥だといえるでしょう。
発達した胸筋と、小さい頭、ずんぐりとした体型が特徴です。歩くときは頭と首を前後に振る「首振り歩行」をします。
これは、体が前に進んでも頭を同じ場所に置くことで、安定した視覚情報を得るためだと考えられています。眼球を動かせる範囲が狭いことや、目が左右に離れていることが関係しているとされていますが、はっきりとしたことはわかっていません。
食性は雑食で、木の実やミミズなども食べるほか、人間が落としたパンくずなどもついばみます。天敵はワシやタカなどの猛禽類やカラスで、地上にいるときにはネコに狙われることもあるようです。
天敵が多いため、巣は見つかりづらい場所に作ります。森林では岩陰など、街中では室外機の裏やビルの壁と壁の間などが多いようです。
寿命はおおよそ6~10年だといわれています。
世界には約300種類もの鳩がいるそうです。そのなかから代表的なものを紹介しましょう。
キジバト
もっともメジャーな種類のひとつで、通称「ヤマバト」とも呼ばれています。体色は灰色っぽい地の上に赤紫色を帯びているのが特徴です。背中にはうろこ状の模様があります。
ずんぐりとした体型をしている種が多いなかで、ややスリムな方だといえるでしょう。
ドバト
日本の街中や公園などでもっともよく見かける種類です。キジバトよりも一回り大きい体型をしています。
体色は灰色に白が混じったもので、首元に緑や青、紺の模様が見えます。
カラスバト
全身がカラスのように真っ黒の種類です。体長は40cmにもなり、ハト科のなかでも最大級です。
北海道を除く太平洋側の岸辺を中心に生息していますが、個体数はそれほど多くなく、国の天然記念物に指定されています。
ユキバト
インドや中国、ロシアなどに生息している種類です。白と茶褐色の美しい体色が特徴で、100羽を超える群れで活動することもあるようです。
鳩は街中や公園で見かけることができ、人間の生活にも馴染んでいるため、それほど凶暴な印象はないかもしれません。しかし実は、ある条件が揃うと闘争本能をむき出しにするそうです。
彼らは縄張り意識が強く、自分の仲間と巣を何が何でも守ろうとします。テリトリーに部外者が侵入すると、たとえそれが同種の鳥であっても容赦しません。翼を使って相手を叩き、追い払おうとします。
また1度巣作りをした場所への執着心も強く、たとえ壊されたり撤去されたりしても同じ場所に作ろうとします。この「帰巣本能」の強さにより、伝書鳩として通信手段に活用されるにいたったそうです。
さらに子育てをしている時は、より一層警戒心を強くします。雛を守るために群れの数を一時的に増やし、うかつに手を出すと人間でも攻撃される可能性があるので注意が必要です。
鳩の縄張り意識を説明しましたが、それは生きるための本能によるものです。彼らは人間にとって身近な存在であり、また群れを成して仲良く飛ぶ習性から平和の象徴とされてきました。
日本では古くから、八幡神の神使という伝説も伝わっています。八幡神はいわゆる軍神であることから、武家の家紋としても親しまれていたようです。
さらにキリスト教の聖書では、「ノアの方舟」で大洪水の後に陸地の存在を教えてくれる役を担ったり、精霊の化身として表現されたりしています。もっと時代を遡ると、ギリシャ神話では愛と美の女神の聖鳥とされていました。
古くから世界中で「よいこと」を運んでくれる鳥だと考えられていたことがわかるでしょう。平和の祭典であるオリンピックでも、開会式に鳩を放つ演出がなされていました。
その一方で、中国やフランスでは昔から食用にされたり、都市や農業地帯では個体数が増えすぎて害鳥として扱われてしまうこともあるようです。
- 著者
- 藤田 祐樹
- 出版日
- 2015-04-18
「なぜ鳩は首を振って歩くのか」という素朴な疑問を考えつつ、生物の進化について理解を深められる1冊です。
作者は、沖縄県立博物館・美術館の人類学担当学芸員を務めていて、鳩だけでなく生物の歴史的進化に造詣が深い人物です。実は鳥類というのは恐竜の名残を強く受け継いでいる生き物で、本書では鳩の首振りの謎を解き明かすことで、恐竜の正体にも近づけるとしています。
鳩自体に興味はなくても、物事の着眼点や考え方、研究対象へのアプローチの仕方が興味深い書籍です。文体は軽めで、専門用語はまったく出てきません。コラムや図説にも工夫が施されているので、楽しく読み進めることができるでしょう。
- 著者
- 黒岩 比佐子
- 出版日
まだインターネットが無い時代、通信手段として鳩が利用されていた時期がありました。僻地で撮影した写真を体に付け、天敵たちの攻撃をかわしながら時には数百kmもの距離を移動して、新聞社のスクープ合戦に一役買っていたそうです。
本書は、鳩の生態を解説しながら、帰巣本能を含めた彼らのもっている能力を紐解いています。鳩は太陽の位置や磁気から方角を知る能力、体内時計などにも優れていて、かつては軍にも導入されていたのだとか。伝書鳩の役目を終えてからはレース鳩として活躍している実態も記されています。
小さい体に秘められたメカニズムを知れば、驚くこと間違いありません。街中の鳩にも尊敬の念を抱く人が増えるかもしれませんね。