2013年から「ヤングアニマル」で短期連載されていた、三浦建太郎の作品。大男の青年と、彼の連れである小さな少女が、果てしのない砂漠を旅する物語です。その過程で人々と交わり、謎に満ちた「巨人」に対峙する、SFファンタジーとなっています。『ベルセルク』の作者が送る、24年ぶりの新作ということでも話題となりました。 本作はスマホの漫画アプリでも無料で読めるので、気になる方はぜひどうぞ。
荒涼とした大地、どこまでも続く大砂漠を、1人の青年と1人の少女が旅していました。青年は泥労守(デロス)、少女は風炉芽(プロメ)という名前でした。
ろくな手荷物もなく砂漠を歩き詰めていたデロスは、行き倒れとなる寸前、騎甲虫(きちゅう)民族の斥候(監視役の兵)に発見されました。砂漠に住む、この甲虫使い「聖虫(スカラベ)族」を探していたデロス達は、出会えた幸運に喜ぶ間もなく、不審者として捕縛されてしまいます。
- 著者
- 三浦 建太郎
- 出版日
- 2014-07-29
過酷な砂漠に適応した甲虫使いの民族は、亜人間(デミヒューマン)――亜人族(ミュー)と呼ばれ、デロスのような人族(ヒュー)と区別され、虐げられてきたのです。
一目でデロス達を人族と見抜いた彼らは、敵意を剥き出しにしてきました。聖虫族の勇者である雄軍(オグン)は、デロスに対して聖地に踏入った真意を問うべく、1対1の勝負を挑んでくるのです。
しかし、その一方では、甲虫使いの聖地を目指して、帝国の侵略軍が接近しつつありました。果たして、戦いの行方は?
作中では、鍵を握る少女・プロメが、帝国との戦いの際に「巨人族戦争(ギガントマキア)」と意味深な発言をします。本作のタイトルの由来が、これです。本来はギリシャ神話における、オリンポスの神々の戦いを意味する言葉ですが……?
作者・三浦建太郎は、1966年7月11日生まれ、千葉県出身のマンガ家。
1985年、『再び』が第34回少年マガジン新人漫画賞に入選し、デビューしました。その受賞と前後する一時期、『はじめの一歩』の森川ジョージのアシスタントを務めるも、すでに充分プロの実力を備えていると諭されて、すぐに辞めさせられたというエピソードがあります。
その後1988年に、代表作にしてライフワークとなっている『ベルセルク』の短編を発表。それを基にして、今なお続く日本のダークファンタジーの金字塔が生まれました。
- 著者
- 三浦 建太郎
- 出版日
以後は24年間『ベルセルク』一筋でしたが、2012年に掲載誌「ヤングアニマル」創刊20周年企画として考えられたのが、今回ご紹介する『ギガントマキア』なのです。ただ、時期的に『ベルセルク』新作アニメ映画公開と重なって、結局本作の発表は2013年までずれ込んでしまいました。
佳境に差し掛かった『ベルセルク』を一時休載しての掲載ということで、当時は批判も多々あったそう。しかし蓋を開けてみたところ、『ベルセルク』とはまったく違ったテイストの作風で、読者を大いに楽しませてくれました。
非常に魅力ある物語なのですが、既刊は1巻のみ。続きが気になるラスト、複雑さを感じさせる設定が多々あるだけに、残念に思うファンも少なくありません。
『ベルセルク』が一段落するか完結した暁には、本作の新しい話が読めるかもしれません。
『ベルセルク』ファンの方は<漫画『ベルセルク』の最強キャラランキングベスト25!【ネタバレ注意】>でベルセルクを振り返ってみてはいかがですか。
主人公はデロスと呼ばれる青年。すらりとした美丈夫でもなければ、特別に頭の回転が速いわけでもない、どちらかといえば鈍くさい男です。しかし、砂漠を単独行動するだけあって体は丈夫で、筋肉は隆々。かつては殺し合いが日常の闘う奴隷でしたが、誰もを活かす「烈修羅(レスラ)」を自称しています。
もう1人の主人公は、プロメです。幼い外見に似合わない、達観した言動でデロスを導きます。何やら特別な使命を帯びて、彼と契約関係にある様子。体内の「峰久為流(ネクタル)」という物質(液体?)を分け与えることで、他者の治癒が可能です。
彼女は見た目こそデロスと同じ人族ですが、ただの人間というわけではありません。より高度な、神秘性のある、機械的存在であることが示唆されています。そして彼女との契約者であるデロスもまた、普通の人間とは異なる活躍をしていくのです。
本作の舞台となっている世界は、数億年に1度の周期で大災厄に見舞われてしまったため、荒廃したとされています。
そんななか人間がかろうじて文明を保っていられるのは、旧世界の遺産(?)である「巨人の肉片」のおかげなのです。神、あるいは神に近しい巨人は、肉片になってもなお強い力を持っており、砂漠に自然を育む源になっていました。
そんな過酷な環境に対応したのは、人間だけではありません。動植物もです。甲虫使いは巨大化した虫を操り、帝国は大タコを軍事利用しています。極小生物として知られるクマムシですら、それこそ熊のような大きさ。
その他、漢字で当て字のされた固有名詞の数々に、ギリシャ神話の影響が垣間見えるのも特徴です。
物語の序盤では、デロスとオグンによる、筋肉のぶつかり合いとでもいうべき勝負がおこなわれます。
砂漠に特化した亜人族のなかでも、一族最強とされるオグンは、体格的にも身体能力的にもデロスを遥かに上回ります。まともに戦っては勝ち目などない……はずなのですが、デロスはあえて真正面から受け止め、亜人族達の度肝を抜くのです。
そして後半のスペクタクル、ド派手にくり広げられる巨人対巨人の戦いも、凄まじいものがあります。
生身のぶつかり合いは、まさにプロレス。そして巨人のそれは、古きよき特撮で親しまれた、怪獣プロレスがごとき、迫力満点のバトルとなっているのです。
そんな迫力満点のバトルシーンにも、ぜひ注目してみてください。
デロスは骨肉の殺し合いしか知らない亜人族、あるいは人族に対して、プロレスじみたフェアプレーを見せつけます。それによって度肝を抜いたことは先述しましたが、それと同時に、殺気も毒気も抜いてしまうのです。
彼は、この殺すことなく相手を倒すやり方を「烈爽(レッソー)」といいます。自分や相手だけでなく、観衆まで巻き込んで闘いを魅せることによって、殺し合いをエンターテインメントに変えてしまうのです。
そして緻密な描写の激しいアクションは、読者を否応なく引き込んで魅了します。
ダークファンタジーの巨匠が、あえてプロレスをモチーフにしたのも、ここに理由があるのでしょう。禍根を残さず、しかし全身全霊でぶつかり、わかり合う。『ベルセルク』ではけっして出来ない、友愛と寛容がそこにはあるのです。
憎み殺すことが命のサイクルに組み込まれた不毛の世界で、デロスの生きざまは、多くの人のあり方を変えていくのでした。
いかがでしたか?実に壮大な、何かが始まる予感を感じさせる物語。この続きが読めるかどうかは、読者の応援(と別作品の完結)にかかっています。期待せずにはいられません。