掴みどころがなく、誰とでもすぐに体を重ねてしまう少女と、何事にも情熱を持つことが出来ない冷めた青年がくり広げる、退廃的で切ない恋物語。燃え上がるようなラブロマンスとは違い、読めば読むほどにこみ上げるやるせなさがクセになる作品です。 今回は2018年11月12日に発売された本作の結末まで紹介していきます。ネタバレを含みますので、ご注意ください。
誰とでもすぐに寝ることから、セックスの「セ」を取って「セッちゃん」と呼ばれるようになった少女。そんな彼女は、誰にも興味を持つことが出来ない青年・あっくんと出会います。
どちらも人との関わり合いに対し、情熱を持つことが出来ない者同士。本来であれば繋がる事のない関係です。
そんな彼らが、ふとしたきっかけから関わりを持ち、その先である1つの結末にたどり着きました。2人の「結末」までが、今語られます。
- 著者
- 出版日
- 2018-11-12
まずは本作に登場する主要人物2人について、設定のみ簡単にご紹介します。
本作のタイトルでもある少女・セッちゃんは、先述のとおり、ちょっとポワポワした雰囲気が特徴の女の子です。行動の1つ1つに深い考えがあるわけではなく、基本的には気の向くままに生きているタイプだといえるでしょう。
ですが、本当に何も考えていないわけではなく、時として物事の本質を見極めるような感覚を持ち合わせています。他者との関わりに計算を持ち出す事がない代わりに、他者を理解するための独特の感性を有しているといえるでしょう。
そんな彼女は、自分や、自分と交わっている相手が人間である実感を得るための手段として、セックスをしています。彼女にとっては、他者との規律や決め事などは全て煩わしく、後腐れの無い関係こそ望ましいものなのです。
あっくんと初めてまともに関わる事になったきっかけも、彼に適当な飲み会に呼ばれた事がきっかけでした。そんな味気ない出会い方をした2人ではありましたが、セッちゃんは自分に対して何かを求めない彼の姿勢が気に入ったのか、徐々に彼の家に通うようになっていきます。
そして、これまでとは違い、セックス前提の繋がりではない男性との関わりを継続していくのです。果たして彼女は、この関係のなかで何を思いながら、日々を過ごすのでしょうか。
続いては、あっくんについてご紹介していきます。彼はとにかく他人に対する熱意がなく、人にかける言葉もどこか薄っぺらい印象です。そのうえ基本的には他者を冷めた目で見下している風があり、誰に対しても積極的に関わっていこうとは考えないタイプ。
それは彼女であるまみに対しても例外ではなく、心中でははっきりと彼女に対して興味がないと言い切ってすらいます。
そんな彼の無関心さはセッちゃんに対しても同様で、冒頭ではさほど彼女の事を気にしている様子はありませんでした。
ですが、しばらく彼女と接するうちに、彼女が持つ独特の空気と、他者に対して物怖じしない自由奔放な振る舞いが気になるようになっていきます。そして、そんな他者とうまく距離を詰める事が出来ない彼女に対し、少しずつ共感していく事になるのです。
出会った当初は、よくわからない相手としか認識し合っていなかった2人。ですが、お互いに関わり合う事が多くなり、いつしか2人でいる事が多くなっていきます。付き合おうというでもなく、セックスをするわけでもなく、ただただ2人で適当に過ごす毎日。そんな毎日が、居心地よく感じるようになっていったのです。
そして、それが当たり前になってきた頃、あっくんの彼女だったまみは、彼が自分にまったく関心が無いことを確信してしまいます。当然ながら2人の仲は決裂し、破局。ですがここでも、特段あっくんの心は乱れる事はなく、それどころか一緒にいてくれたセッちゃんの事を意識している事を自覚するのです。
そんな彼は、ふと口を出た様子で交際をセッちゃんに提案しますが、対する彼女は軽いノリで断り、特に何事もないまま時が過ぎていきます。
そんな2人でしたが、しばらく離れる事になった際、お互いにどうしようもなく相手を気にしている事に気付いてしまうのです。そして、これまで誰も追いかけた事のなかったセッちゃんは、初めてあっくんという男性に会いたいという感情を抱くことになるのでした。
こうして、また会う約束をした2人でしたが、その約束は結局果たされる事はありませんでした。
実は本作の冒頭で、セッちゃんはある理由によって、この世を去ってしまう事が語られているのです。そして本作のラストでは、その冒頭の描写が再度くり返され、これまでたどってきた物語を踏まえたあっくんの心理が語られています。
- 著者
- 出版日
- 2018-11-12
物語の冒頭では、セッちゃんの死に対してやけに冷静で、あっさりとした感想を漏らすあっくんという印象を受けます。
ですが、これまでの物語を全て追ってきた事で、彼が抱えている内面の感情の揺れ動きが強く意識されるようになり、途端に切なさが沸き上がってくるのです。
この物語の結末はスッキリするわけでもなければ、幸せな気持ちになるわけでもありません。
しかし、こうした描かれ方により、思わず人との関わりや人生について考えなくてはいけない気持ちにさせられるのです。ぜひ最後までお読み頂いて、本作の独特で不思議な読後感を感じて頂ければと思います。