祝・ドラマ化。すごく売れているマンガ、というので逆に避けていたのに、読んだらやっぱりそりゃもう大層面白かったんすわ……。もし私同様、メジャーさが苦手なめんどくさい性質をお持ちの方で、かつ本作未読の方いらっしゃったら、ぜひこの機会に。
去年の冬、舞台公演で3週間ほどホテル住まいしましてね。
そんで、そのホテルにはステキなことに「マンガコーナー」があってですね。
マンガの量としては、ここマンガ喫茶です、と言われたら、ふざけんな入会金返せ!とブチ切れるくらいですが、うわぁここの病院の待合室、マンガがすごいいっぱいある~!と感嘆する量の5倍くらい、と言えばだいたいのニュアンスは伝わるでしょうか。余計ややこしいか。
周りにとくに娯楽もなく(すごい失礼)、さりとて夕方には公演も終わっちゃうしで、あとはお酒飲むか本読むかオンデマンドで映画みるか、みたいなね。わたしのごとき引きこもり野郎には、もう、夢のワンダーランドですよ。
そりゃもちろん、読むでしょ。
なんなら飲みながら読むでしょ。
で、何読もうか、うっきうきで、棚を端から端まで眺めるわけですが、あれな、やっぱ、仕事で長期滞在する宿泊者層にあわせてあるので「藤枝梅安」とかね。「ゴルゴ13」とかね。「三国志」その他、おっさん好みのマンガが多いのよな。
「岳」はちょっと前に読んだばかりだし、「北斗の拳」は他のひとに借りられてるし、「へうげもの」「アカギ」「カイジ」「課長島耕作」う~ん。
島課長に対して含むところは何もないですが、あのー、単純に絵柄の好みとしてね。もうちょっとこう、さ。ややソフトな感じで、なんとか。
そんな中、目に飛び込んできたのが件のこちら。
昭和元禄落語心中(1) (KCx)
2011年07月07日
いや、もともとここ何年も、書店で見かけるたびに、気になっていたのです。実際手にとり、買おうか買うまいか何度も迷った本なのです。
それが、なんとはなしに先延ばしにしているうち、やれ、文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞~とか、手塚治虫文化賞新生賞受賞~とか、やれ、アニメ化~とか。
そうすると、なんだか今更乗っかるのが気恥ずかしくなっちゃって。終~了~。
なんでしょうね、直木賞受賞したから、読む、みたいな。
全米が泣いた、興行収入第一位映画を観に行く、みたいな。そんでやっぱ泣いちゃう、みたいな。ああ、ああ。
売れてるものを見て、わーおもしろーい、と感じることそれ自体が、あまりに陳腐な気がして。
みんなが一律面白く感じるものなんてあるかよ。それはあまりに、己で感じることをさぼってはいないか。無批判にすぎるのではないか!
そんな、ばりばりに自意識過剰な中学生が、今年44になるわたしの片隅に、いまだしぶとく住みついているのです。だいぶ大人しくなってはきましたが。
「まあまあ、いいじゃないのォ~(日本エレキテル連合)、他にやることもない今こそ、軽~い気持ちでレッツトライ!もし読んでハズレだったら、すぐさま『ブラックジャック』と替えようぜ兄弟~!」
みたいな言い訳を、脳内☆中学生にした上で、やっと読んでみました。こうして文字にすると、なかなかに面倒くさいですね。
結果、作品は、ハズレではなかった。
あのー、人生も半ばを過ぎて、つい最近わかったことがあります。人気のあるものって、案外、面白いのですね。ああ、ああ。
全部が全部、ではないにしろ、人気がある、イコール、大衆に迎合したクソつまんねえモノ、というわけでもない、ようだ。
やっとここにきて、いくつかの実例をもってそれを実感できました。遅い。
「ウォーキングデッド」は面白いらしいですね きっと「24 TWENTY FOUR」も面白いんだろうな。遅い。
マンガの話に戻りますが。
話は、ムショを満期で出所した与太郎(仮名)が、落語の昭和最後の大名人・有楽亭八雲のところへ、弟子入り志願に向かうところから始まります。
1巻読み始めてすぐ、お、まさかの、おっさん、というかもはや初老・八雲と、元チンピラ・弟子で、落語BLきたんじゃないかと。
しかもどうやらその八雲は、稀代の天才、今は亡き伝説の落語家・有楽亭助六と、過去になんかしらあったんじゃないかと。
まんまと、釣られました。
1巻から2巻前半の「与太郎放浪篇」は、主たる登場人物がどんどん出てきて物語での関係性を示す上、新参の与太郎の目を通して、表現者としての落語家のかっこよさや、落語自体の魅力を、読者に伝えるガイドにもなっています。
そして、2巻後半からの「八雲と助六篇」では、正反対の2人が幼い頃に同日入門するところから始まって、助六の最期と、八雲が八代目を襲名するまで、過去の出来事を八雲が語ります。
さてここで、当初のわたしの「落語界が舞台のBLマンガ」との予想は裏切られました。
BL、またはブロマンスは、どうやらこの物語の主軸にあらず~。
落語を巡る、愛憎劇。愛情や嫉妬、戦争、落語の隆盛、その他いろんな要素がからみ合いながら、それでも何より、落語という芸を磨くことの、苦しさとか。救いとか。
あ、もちろん、個人の好みとしては、BL主軸でも全然オッケーですが。というか大好物ですが。
ところでこれ、何巻まであるのか知らずに読み始めたので、マンガコーナーに置いてある4巻で終わりと思ってたら、あれなのな、全10巻なのな。夜中に4巻読み終わったところでそれに気づきました。痛恨の一撃。
ねえちょっと! ホテルのひとにお願い!
マンガ、置いてくれるの、ほんっと、心から感謝していますが、でもどうせなら全巻揃えて置いてはくれまいか! こんなとこで、こんな時間に、寸止めなんて!
そこから徒歩20分のツタヤへ直行、残り6冊買って、また20分歩いて帰ってきましたよ。重い。旅先なのに。帰りのスーツケースぱんっぱんですよ。
でも仕方ない。最後まで読んじゃわないと、続きが気になって気になって。仕事に支障が出ます。
5巻から最終巻まで続く「助六再び篇」。バブル以降の、落語衰退期。文化としての生き残りを目指すのか、あるいは時代とともにすっぱり断つ、つまり、落語と心中するのか。
と、まあ、ものすごく強引に要約すると、こういう感じなのですがどうでしょう。
全部ひっくるめて、とにかく、落語家って、すげえ。そして、かっけー。
その人の全部が芸に出るわけで。
舞台で、ひとりで、全部を引き受けて。前へ進めば進むほど、新たな苦悩が湧いて出る。
芸には、これでゴール~ということはないのでね。ラスボスがそもそもいない、ただひたすらLvアップを強いられる、無限RPGですよ。
途中からは、俳優という仕事とも照らし合わせつつ読みました。
そういうの、ほんと大変口幅ったいですが。でも、表現芸術って、そういうもんでしょ。ゲージツ。
ところで、大きく話は変わりますが、この10月より某NHKにてついにドラマ化ですよ。全10回。
ここでひっそり勝手にお祝いします。おめでとうございます~~~。
すげえよ実写。だって、ものっすごい大変じゃん!
撮影のとき、現場で持ち道具さんが言ってたのですけどね。
たとえば日傘ひとつにしても、その時代の材質でできてるもので、かつ、実際撮影に使える状態にあるものを探すわけですが、その際時代考証とあわせて、原作のマンガにすでに絵として描かれちゃってるものなので、それにも合わせねばならん、と。
その両者の落としどころを、ひとつひとつ探るのがもう大変、とのことでした。
話聞いてるだけで、うーわ~~~と思いましたですよ。
さらに演じる俳優さんたちもね。
たとえば主役の八雲、なんて、もう!
そこに生きてる人としての演技の他に、落語家さんの所作は言うまでもなく、昭和の大名人とまで言われる話芸それ自体を、ある程度までは習得せなあかんわけで。
しかもこのひと、芸者の家の生まれでずっと日本舞踊をしていたという設定もあり。そういうのって、ことさらに踊りのシーンがなくても、普通の佇まいに滲み出るわけじゃないですか。ンもう、どんだけ~。
ある日いきなり、あなた大谷翔平投手役ねって言われて、160キロの球を投げられるようにならんといかんのよ。
あれ、例えがいまいちか。
はああ、こりゃあ、ものっすごい大変ずら~~と、ただただぼうっと口開けるくらいしかわたしにはできませんが、だからこそ、ドラマもものすごく楽しみにしています。
というか、ついにドラマ化!と聞いたとき、この本の面白さを知っていたので
「ああああ~~いいなぁアアア!あの世界に関われるなんてエエ!」
と、嫉み妬みで悶えましたが、端くれじょゆうとして、ほおーんのちょっとだけ、第2話冒頭にうつり込めました。いやっほう! 願ってみるもんだな! じょゆうバンザイ!
ホンシェルジュのこれが公開される頃にはもう2話の放送終わってますけどね。
まあわたしのことはともかく、再放送とか、NHKオンデマンドとか、昨今なにかしら手段はありますので、もし1話から見てらっしゃらなかった方は、ぜひ何かしらして、ドラマもお楽しみいただければ幸いです。
最後になりますが、わたしに本作を読む直接的なきっかけを与えてくれた、兵庫県の「豊岡グリーンホテルモーリス」マンガコーナーには、この場をお借りして、感謝の意をお伝えしたい。
今年の冬もまた10日ほどお世話になります。
どうか、置いてあるマンガの種類が、増えていますように。
そして、もしわたしが来年1月とか2月あたり、ここでゴルゴを熱く語っていたら、どうかそのへんはお察しください。
ではまた来月。
やまゆうのなまぬる子育て
劇団・青年団所属の俳優山本裕子さんがお気に入りの本をご紹介。