本作は『お伽もよう綾にしき』、2017年には12年ぶりの新作『魔法にかかった新学期』の1巻刊行でも知られる、ひかわきょうこの漫画作品。単行本14巻、文庫版7巻が刊行されている作品です。 2004年に星雲賞コミック部門を受賞し、今も少女漫画家として第一線で活躍している作者の名作『彼方から』は、今読んでも面白いもの!この記事では、そんな不朽の名作の文庫版のあらすじ、見所をご紹介していきます。ぜひ、ご覧ください。
友人と下校途中、無差別爆弾事件に巻き込まれた高校生・立木典子。気を失った彼女が目を覚ますと、そこは不思議な世界でした。無傷の体に、先ほどの出来事は夢だったのかと戸惑いますが、そこで彼女はいきなり巨大な芋虫のような怪物に襲われます。
夢か現か分からない恐怖にかられ、逃げる事も出来ない彼女を助けてくれたのは、1人の青年でした。彼の名前は、イザーク。日本ではあり得ない格好、通じない言葉の彼、そして剣で倒されていく怪物の生々しさ……。典子が迷い込んだのは、異世界だったのです。
- 著者
- ひかわ きょうこ
- 出版日
世界は今、闇の台頭と動乱を迎えていました。この世界では、ある存在を巡って騒動が起こっていました。それは、闇をもたらす「天上鬼(てんじょうき)」。そして、その覚醒の鍵である「目覚め」です。
「目覚め」が樹海に現れる予兆を世の占者達が感じ取った事から、この2つの力を手に入れようと各国の権力者達が暗躍するなか、樹海で目を覚ました典子。なんと、彼女こそが「目覚め」といわれる存在だったのです。一方、彼女を助けたイザークにも、ある事情がありました。
彼は、「天上鬼」となる者だといわれて育った人物だったのです。実際に超人的な身体能力を持ち、その強い負の力を自覚している彼は、そうなる未来を恐れ、「目覚め」を排除するために樹海にやって来たのでした。
しかし、「目覚め」とおぼしき典子は何も知らない、あまりに普通の女の子。戸惑い、驚き、思わず芋虫のような怪物・花虫に襲われる彼女を助けてしまったイザークは、己の行動の矛盾に葛藤を抱えつつも、彼女と行動をともにする事となります。
自分が「目覚め」と呼ばれる存在だとは知らない典子と、「天上鬼」となる運命を否定し、そこから逃れたいと願うイザーク。2人とも普通の人々から忌避され、権力者には執拗に追われる存在です。
2人はお互いに惹かれ合いながら、己の運命と立ち向かう事となります。彼らの、闇を払い、光を求める戦いが始まるのです。その旅路に待ち受ける結末とは、どのようなものになるのでしょうか。
この記事では、文庫本全7巻の内容から、本作の見所を紹介していきます。
このページでは『彼方から』の魅力を、典子とイザークの恋、細かな世界設定、名脇役達の面白さにスポットを当ててご紹介していきたいと思います。
ポイント1:典子とイザークの関係
異世界に飛ばされて、右も左もわからないところを助けてくれたイザークに、真っ直ぐな信頼を寄せる典子。化け物と呼ばれる己を忌避してきたイザークは、強大な力に目を曇らせる事なく自分自身を見てくれる彼女に、孤独だった心を癒されていきます。
お互いの思いはやがて恋心に変わっていくのですが、「天上鬼」と「目覚め」という運命が、2人の間に影を落としていくのです。ともに旅をし、やがて別れ、そして再会を果たす彼らの関係、そして心の変化……。ゆっくりと、丁寧に描かれる恋は、時代を超えて心に響く魅力があります。
ポイント2:地道に異世界に馴染んでいく様子がリアル!
典子が飛ばされてしまったのは、なんと異世界。イザークと言葉が通じず、出来る事が少ないと悩む彼女は、初めのうち一生懸命に言葉を覚えようと奮闘します。基本的にはヒアリング。イザークや周囲の人の言葉を、彼女は耳コピしていくのです。
彼女の言い間違いや、発音間違いに、思わずにんまりしてしまいます。また、彼女は言葉をある程度覚えた後も、普段の喋り方にネイティブではない感じが残っていて、その設定の細かさに驚かされます。
最近の異世界トリップものの多くは、チートで言語問題を解決していくので、言語から取り組む彼女の姿は、新鮮に感じられるのではないのでしょうか。
ポイント3:脇役も見所いっぱい!
『彼方から』は、脇役達も面白い。典子とイザークの旅路に入れ替わり立ち代わり現れる、よい味出してる脇役達の活躍も注目です。そのなかから、代表して2人をご紹介します。
まずはなぜか落武者ヘアーの、バラゴ。四角い顔に筋骨隆々。コロシアムでイザークに突っかかるゴロツキだった彼は、イザークと出会った事で雇い主から離反し、旅の仲間に加わりました。意外とお茶目でかわいい彼は、お花の冠だって器用に作れるし、自分でかぶってみたりもする可愛さです。
2人目は、最強の女戦士・ガーヤ。イザークの知り合いで、典子を預かった女性です。迫力のある顔立ちとボディの持ち主で、50代とは思えない剣の達人でもあります。
瓜二つの双子の姉で、占者でもあるゼーナと並ぶと、存在感も倍増しの彼女。情に厚く世話焼きで、相手が誰だろうと自分を貫くスタイルは、見ていてスカッとします。典子とイザークを見守るおっかさん。カッコよくて頼りになります。
そして、本作のなんともいえない魅力は、この世界を包むやさしさです。典子とイザークが求める光の世界から、その光が流れ込んでいるのでは……と感じるほどのやわらかさ。
ハードでロックな展開満載、とはいきませんが、このテンポ、この言葉選び、この落ち着くストーリーは癖になります。じわっとくすぐられる笑いのツボも、いい感じ。おすすめです。
「天上鬼」と「目覚め」として出会ったイザークと典子。しかし異世界から来た典子は、自分がこの世界でどういう意味を持つ存在なのかすら知りません。
一方イザークは、自身の生まれ持った「天上鬼」という運命を疎ましく思っているためか、何も知らないまま「目覚め」としての運命を押し付けられた典子の境遇に自分自身を重ねてしまい、突き放す事が出来ずにいました。
そんな彼の心根の優しさが行動の端々から伝わり、典子は彼を信じようと決意します。
自由都市リェンカを牛耳る冷徹な男・ラチェフ、その腹心の部下で占者でもあるゴーリヤ、強さのみを追い求める残忍な青年・ケイモス、傭兵としてラチェフに仕える男・アゴル、占者の才能を秘めた幼い娘・ジーナハース……。
それぞれが「天上鬼」と「目覚め」を追い、典子とイザークの運命は回り始めます。
- 著者
- ひかわ きょうこ
- 出版日
本巻の見所は、惹かれ合う典子とイザークの心の変化、そしてイザークの宿敵となるケイモスとの因縁です。
典子は、イザークが見せる優しさを知っています。見ず知らずの自分を助け、道中の危険から守ってここまで導いてくれた彼。他に頼るものがないために必死でついてくる自分の事を、少し困ったように見ながらも見捨てませんでした。
そんな事が出来るのは、優しい人だからだと彼女は思うのです。そして彼に対し、信頼以上の安心感を感じ始めます。しかし彼は自身の体調変化や「天上鬼」の力の変質に、「目覚め」と行動をともにする影響を感じて、恐れを強くしていくのです。
そんななか、典子は彼の化け物じみた力を知っても、変わらず真っ直ぐ信頼を寄せ、非力ながらも全身で彼を守ろうと行動します。イザークは、そんな彼女に心を救われていくのでした。
2人はお互いの中に安心出来る部分を見つけ合い、惹かれ合っていきます。しかし「天上鬼」と「目覚め」の運命が、その障害として立ちはだかるのでした。
イザークの宿敵であるケイモスは、今まで自分より強い相手に出会った事がありませんでした。敵を叩きのめし恐怖を与え、真の強者と認識させる事で、ようやく自身のアイデンティティーを保つ事が出来たのです。
しかし、イザークと対峙して初めて、彼は格下という立場に置かれました。遠距離攻撃である遠当ても、剣も敵わず、敗北を喫します。ラチェフの力でその場を逃れたものの、怒りと憎しみが収まらず、必ずイザークを倒すと心に決めるのでした。
そうしなければアイデンティティーが崩壊してしまい、彼は彼として生きていく事が出来ないのです。彼とイザークの戦いは、その心の在りさまを浮き彫りにしながら、最終巻まで続いていきます。
離ればなれになった、典子とイザーク。2人は、お互いの事をどれほど心に想っていたのか、あらためて気付く事になります。
元灰鳥の女戦士・ガーヤ、ザーゴ国王位継承者の1人・ナーダ王子、無実の罪で追われる左大公・ジェイダとその息子達、彼らに同行する警備隊の1人・バーナダム。そして、ナーダ王子が入れ込んでいる闘技屋での前回優勝者・バラゴ。本巻も、さまざまなキャラクターが活躍します。
それぞれの場所で危難に遭う典子とイザークは、再び出会う事が出来るのでしょうか。第2部の幕開けです。
- 著者
- ひかわ きょうこ
- 出版日
- 2004-05-01
本巻の見所は、離ればなれになった典子とイザークの心境の変化、新しい仲間の登場、そして朝湯気の精霊・イルクツーレの登場です。
イザークは典子とともに過ごす事で、自分の運命が「天上鬼」へと傾きつつある事を恐れ、彼女の元を去る決意をしました。そして典子は、ガーヤと名乗る女性の元に預けられます。
典子と離れがたい気持ちと、「目覚め」から遠ざかりたい気持ちの狭間で葛藤する彼は、別れ際の彼女に優しく接する事が出来ません。突き放されて傷付く典子。わだかまりを残したままの2人は、離れた事で自分自身の気持ちに向き合うこととなります。
そして、それぞれの場所で危機を迎え、傍にいられれば助けられたかもしれない、何か役に立てたかもしれないという思いを強くするのです。
傍にいたいという気持ちを自覚した2人は、「天上鬼」と「目覚め」の運命を繋ぐように、離れていてもお互いの存在を感じ取る能力・テレパシーでの会話能力を得ます。再会した2人は、お互いへの想いをさらに強くしていくのでした。
新しい仲間の登場も、本巻の見所の1つ。ガーヤとバラゴは前のページでご紹介しましたので、ここではその他の人物をご紹介しましょう。
無実の罪で追われる左大公・ジェイダと、その息子達。そして彼らに仕える警備隊の青年・バーナダム。バーナダムは少々短気で直情型ですが、一本気な性格で、ジェイダの息子達や、ガーヤに可愛がられています。
典子と出会い、イザークに助けられ、ともに隣国グゼナへ逃げる道中、魔物の精神攻撃に狂わされた彼を正気に戻したのは、典子でした。彼女はまっすぐに彼を見て、狂わされてしまった部分を見抜いたのです。
その事で彼女を意識するようになった彼は、彼女とイザークの関係が気になって仕方ありません。恋のライバル登場……というには少し頼りないですが、彼の想いは典子とイザークの関係に、少なからず影響を与えます。
そして、今後も典子とイザークを助けてくれる重要な存在、朝湯気の木の精霊・イルクツーレの登場にも注目です。
検問を避け、白霧の森へと向かう一行。そこは、足を踏み入れた者は2度と戻らないといわれる場所でした。そして、そこには悪意に満ちた魔物が潜んでいたのです。かつて白霧の森に暮らしていた人々は、その魔物に狂わされて殺し合い、死してなお魂を囚われたまま、今も怒りと憎しみのなかをさ迷っていたのでした。
白霧の森にある朝湯気の、木の精霊・イルクツーレは、縁ある人々の魂の解放を願い、典子に助けを求めます。典子は心優しい精霊の願いを叶えたいと、奔走するのです。
果たして、人々の魂を救うことはできるのでしょうか。
イルクツーレと、白霧の森の魔物を倒す決意をした典子。魂の解放はおこなわれ、魔物は消えたかに見えました。
しかし僅かな力を残した魔物は、一行を陥れる機会を窺っていたのです。その計略にイザークが立ち向かい、彼は限界以上の力を使って魔物を退けます。そのため異形に変じ、「天上鬼」の力の一端が解放されてしまうのでした。
その光景を前にした典子の取る行動とは?2人の関係に新たな変化が訪れる、第3巻です。
- 著者
- ひかわ きょうこ
- 出版日
- 2004-07-01
本巻の見所は「天上鬼」の力を垣間見せるイザークと、典子の関係の変化です。
化け物に変わった姿を見られ、拒絶を恐れて典子の元を去ろうとするイザーク。しかし、典子はそれを感じ取り、ついに自分の想いを告白しました。再びイザークと離ればなれになる事が耐えられないと感じるほど、彼への想いは強くなっていたのです。
どんな姿でも傍にいてほしい。彼女はそう望みます。その願いの力なのか、もとの姿に戻ったイザーク。しかし、自身が「天上鬼」である事が歯止めとなり、彼女の想いに応える事が出来ません。彼女を大切に想いながらも、気持ちを抑え込み、冷淡に接するイザークと、想いを告げてしまった事で、ぎこちなくなった関係に思い悩む典子。2人のすれ違いには、やきもきさせられてしまいます。
しかしイザークの葛藤は、ガーヤの双子の姉・ゼーナの言葉で、ひとつのターニングポイントを迎えます。彼女は占者として、未来についての解釈を語るのです。
それは、たとえ未来で起こる事が見えたとしても、その時にその場にいる自分自身が、何を考え、何を選択するのかによって、未来は変わっていくのだという内容でした。その言葉にイザークは、自分の運命を変える方法を探し始めるのです。
そんななか、黙面様という存在を崇める集団の襲撃を受け、典子が拐われてしまいます。この国の大臣・ワーザロッテと占者・タザシーナが裏で糸を引き、黙面への生け贄として、彼女を狙っていたのです。イザークは「天上鬼」の力を解放し、怒りのまま再び異形に変じて、黙面の神殿に乗り込みます。
彼は、このまま「天上鬼」の力に飲み込まれてしまうのでしょうか。
2つ目の見所は『彼方から』特別編「風語り」です。ガーヤとイザークの出会いを描く番外編。自分の店を持つための出稼ぎで商隊のまかない係をしていたガーヤと、人足として雇われていたイザークが出会い、彼がガーヤから剣の使い方を教わるエピソードが語られます。
イザークはかつて母親からナイフを向けられた際、抵抗して、母親に傷を負わせてしまいました。それ以来、彼は武器を手に取る事に躊躇いを感じるようになります。
この道歩むもの技を通じてやさしき力を知れ
すべての道は源に帰る
(『彼方から』3巻より引用)
強さを求めた祖先が、その先に「調和の世界」を見つけ出したとされる灰鳥一族。そこで、剣を持つ者が最初に教えられる言葉を聞き、イザークはかつてのトラウマを乗り越えて、剣を取る覚悟を決めるのです。
この時ガーヤに教えられた始祖の言葉が、やがて「天上鬼」の運命に立ち向かうイザークの助けとなります。
生け贄にされるために、黙面の神殿へ連れてこられた典子。彼女が拐われた怒りで力に振り回され、理性を無くして破壊を尽くすイザーク。
彼の暴走を止めるため、典子は崩壊する神殿で彼を探します。そしてついに、2人が「天上鬼」と「目覚め」であるという事が周囲に知られてしまい……。
彼らに訪れる新たな旅立ちの、第3部クライマックス。そして闇の力を持つ敵の元凶が、本格始動を始める第4部。2人の運命に大きな転機が訪れます。
- 著者
- ひかわ きょうこ
- 出版日
- 2004-09-01
本巻第3部の見所は、タザシーナによって、典子とイザークが「天上鬼」と「目覚め」であると暴かれてしまう場面です。
悪魔のような翼、強大な破壊の力。暴走するイザークを鎮めたのは、黙面から逃げ出した典子でした。イザークは、彼女が自分の心を支える存在だと自覚します。しかし、崩壊する神殿から脱出したタザシーナに、2人が「天上鬼」と「目覚め」である事を言い当てられてしまうのです。
明らかになった事実に、自分がイザークを苦しめていたと気付き、ショックを受ける典子。彼女は、彼の前から姿を消そうとします。しかし「天上鬼」になる事よりも、典子を失う事を恐れるようになっていたイザークは、一緒にいるのは優しさでも義務感でもないと伝えるために、ついに彼女への想いを告白するのでした。
長くすれ違っていた2人の想いが、ついに通じるこの場面。はらはらしながら見守ってきた読者としては、ガッツポーズものです。典子が、この先何があってもそばにいる事を誓ってイザークに寄り添うシーンに、ようやく報われたかと心が浮き立ちます。
そして「天上鬼」と「目覚め」の運命に立ち向う2人の、新たな冒険の第4部が始まります。
見所は、敵の1人であるドロスの裏切りです。冴えない容姿に吃音、特技はテレポートを可能にする稀少生物・チモの飼育と繁殖だけ。タザシーナに恋していますが報われず、皆から馬鹿にされ続けてきた彼は、捕らわれた典子を助ける事で仲間達への反逆を試みるのです。
ラチェフは、タザシーナから「天上鬼」と「目覚め」が見つかったと報告を受け、ついに2人を捕らえるために動き出します。心の支えを失えばイザークは闇に堕ち、「天上鬼」として覚醒する。そう考えた彼はドロスが育ててきたチモをまとめて殺し、体力を消耗せずに遠距離をテレポートできる通路を作り出して罠を張りました。
その結果、罠にかかって典子と引き離され、敵の本拠地で窮地に陥るイザーク。捕らえられた典子は彼を助けるために、脱走を試みます。
そんななかでチモの死にショックを受け、利用されるばかりの自分に憤りを感じていたドロスは、虐げられる典子に自身の姿を重ね、仲間への反抗心を爆発させます。彼は離反を決意し、残されたチモを使って、彼女をイザークの元へ送り届けようと死力を尽くすのでした。
自分自身の意思で典子を助けると決めて行動した彼に、典子は心からの感謝を伝えます。その瞬間、彼は今まで感じていた劣等感が薄れ、誰かの役に立てた事への喜びを感じたのです。
彼の持つ劣等感、自分の意思と別の所に流される感覚。そこに共感を覚える方は、少なくないのではないでしょうか。勇気を持って踏み出した一歩が報われた時に感じる、泣き出したいような嬉しさ。そんな彼の心が伝わってくるこの場面、ぜびじっくり読んで味わってほしいと思います。
「天上鬼」の力を求める強大な敵、「元凶」といわれる存在がラチェフの背後にいる事が明かになり、宿敵・ケイモスとの戦いに絶体絶命の危機を迎えるイザーク。そんな彼のもとへ向かう典子に、ドロスと精霊・イルクツーレ達が救いの手を差し伸べます。
彼らの力を借り、イザークの傍にいるという誓いを果たすため、典子は闇の力が満ちた地下神殿へと乗り込むのでした。「天上鬼」と、その「目覚め」に隠された新たな可能性の光。2人の道に希望が見える、第4部クライマックスです。
そして新たな仲間との出会い、探し求める光の羽根へと近付く第5部の幕開けが収録された、第5巻です。
- 著者
- ひかわ きょうこ
- 出版日
- 2004-11-01
第4部クライマックスの見所は、典子とイザークが自分達の運命に立ち向かう姿です。
イザークは、瀕死の状態で己の内面と向き合っていました。自分の運命は変えられないのか。抵抗は無駄だったのか……。けれど「天上鬼」の力の奥、彼の中心にあったのは、他ならぬ彼自身の心でした。
「天上鬼」だとしても、自分は自分でしかない。そう気付いた彼は、心の中に強い力を持った光を見つけます。それは彼に、新たな可能性をもたらしたのです。
「今できる事、すべき事」は何か。典子にとってそれは「イザークのそばにいること」。誓いを胸に、彼の元へと辿り着いた彼女が見たものは、地下神殿の遥か下、「元凶」が潜む闇の大穴へ突き落とされるイザークの姿でした。
迷わずに、彼を追って穴へと飛び込んでいく典子。イザークは闇に対抗する光の力を発現させ、その力によって、落下する典子のもとへと飛んでいきます。悪魔のようだった異形の翼は光の羽根に変わり、その新たな力でイルクツーレ、ドロスとともに敵から逃れる事に成功したのでした。
「天上鬼」は己の宿命の一部だけれど、本質ではないと強く感じたイザーク。そして、ともに未来を変えられると信じる典子。互いを想って真っ直ぐに心を向け、寄り添おうとする2人の姿に、心があたたかくなります。
光の羽根が「天上鬼」と「目覚め」の運命を覆す鍵だと信じ、それを探し求める第5部では、かつて行動をともにした左大公・ジェイダの妻・ニアナ、その娘・グローシア、そして警備隊長・アレフの3人と出会うこととなります。
懸賞金目当ての刺客達がニアナ達を襲撃し、彼らの素性を知った典子達はともに旅をする事となるのです。新たな仲間との旅が、第5部の見所となります。
世界中で「元凶」の力が強まり、人々の心は荒んでいきます。「魔の種」となって人々に宿る悪意は邪気を呼び寄せ、膨れ上がった邪気は、宿主を異形に変える力すら持っていました。ニアナ達を襲った刺客も、「魔の種」を宿していて、戦いのなかで暴走し、人ではなくなっていったのです。
そんな邪気を祓ったのは、イザークがかつてガーヤに教わった言葉。元灰鳥一族だった彼らに、始祖の言葉を思い出させたイザーク。それに助けられ、邪気から解放されて元の姿に戻った刺客は、憑き物が落ちたようにすっきりとした顔をしています。
イザークは、灰鳥一族に伝えられる「源の力」と、自分達が探している光の羽根は、同じものではないかと感じるようになるのでした。
緊迫した展開が続くなか、マイペースなニアナ、グローシア、アレフの存在が、物語に柔らかい風を吹き込んでくれます。特にニアナの好奇心旺盛さは、強運と相まって、物語をよい方へ引き寄せるパワーを持っているのです。天然お母さんの引きの強さに、思わず笑ってしまうでしょう。
そして新たな町を訪れた彼らは、「天上鬼」と「目覚め」について、独自の解釈を持つ学者・クレアジータが処刑されるという話を聞きます。彼らの運命に、光は見出だせるのでしょうか。手がかりを求めて、クレアジータの救出に動き出すのでした。
「天上鬼」と「目覚め」は、破壊の化け物とは限らない。その反対の意味にすらなり得る存在だと言う学者・クレアジータ。
詳しい話を聞くために、処刑されてしまう彼を助けようとする典子達は、思わぬ所で協力者と出会います。迷子になったニアナを探して出会った老人・ダンジェルと、その仲間達です。彼らは元灰鳥一族で、クレアジータ救出のために協力を申し出るのでした。
物事がよい方向に転がっていく感覚。典子は心が明るくなるのを感じます。しかしイザークは、明るい道が見えるほど濃くなる闇に、不安を感じていました。典子の存在が、彼の中で大きくなりすぎているからです。
彼女を失った時、自分が「天上鬼」になるのではないかと、恐れを募らせるイザーク。「天上鬼」と「目覚め」の光と闇の側面が明らかになる、第6巻です。
彼方から (第6巻) (白泉社文庫)
2005年01月01日
本巻の見所は、登場シーンは少ないですが、学者・クレアジータです。彼が「天上鬼」と「目覚め」について自分の解釈を語る場面で、イザークと典子は探し求めた光の羽根の正体を見いだします。鍵は典子だと語るクレアジータ。学者というより賢者のような、全てを見通す瞳を持った彼の存在が、彼らの行く先を照らしてくれます。
力は力でしかなく、重要なのは、持ち主の心が光と闇のどちらの世界に向かって開かれているのか。それに尽きると、イザークに向かって励ますように語るクレアジータ。「天上鬼」としての定めを変える鍵はそこにあると、確信するようなイザークの表情が印象的です。
クレアジータらと別れ、光の伝説が多く残るというドニヤ国のエンナマルナ、通称砂隠れの町へ向かった典子達に、ラチェフの魔の手が忍び寄ります。そこで、再び連れ去られてしまう典子。元凶の悪意そのものを取り込んで力を増したケイモスは、イザークとの再戦が近付き狂喜します。
しかし占者・ゴーリヤは、主ラチェフの「目覚め」への執着に、一抹の不安を感じるのでした。突如訪れた危機。典子は無事、イザークの元へと帰れるのでしょうか?
エンナマルナでは、仲間達との再会があります。典子とイザークの正体を察している仲間達が、それでも以前と変わらず接してくれる姿に、優しい気持ちを貰って嬉しくなる、何気ないけれど素敵な場面です。
イザーク達の前から消えてしまった典子。己の不安が「天上鬼」の闇の側面を呼び起こしたイザークは、必死でそれを押さえ込もうとします。
一方ラチェフに捕らわれた典子は、彼の力への執着と渇望を目の当たりにして、恐怖を感じていました。「目覚め」の力を自分に与えろと迫るラチェフ。典子は「イザークを好きだという気持ち」しか持っておらず、それを渡す事が出来る相手はイザークだけだと言うのです。
自身を否定されたと感じたラチェフは逆上。彼女の髪をめちゃくちゃに切り刻み、そのまま去っていきました。
元凶の闇の力が増して、世界が暗雲に呑まれようとするなか、引き離された典子とイザーク。「天上鬼」と「目覚め」の運命は世界を破滅に導くのか、それとも光で満たすのでしょうか。
いよいよ最終の、第7巻です。
- 著者
- ひかわ きょうこ
- 出版日
- 2005-03-01
本巻の見所はまず、典子とイザークの正体を知ったエンナマルナの人々が、それでも2人を受け入れてくれるシーンです。
典子に執着するラチェフを見て、タザシーナはチモを持ち出し、典子に嫉妬と怒りぶつけます。この空間ではラチェフ以外にチモを操る事が出来ないと油断していたタザシーナですが、なんとチモは典子の声に応え、彼女をテレポートさせたのです。
典子がイザークの元へと願う気持ちが、ラチェフの思念を上回ったのでしょうか。思わぬ失態にタザシーナは、ラチェフに殺される事を恐れて逃げ出してしまいます。
イザークの傍に……その想いだけで典子は遠距離を1人で飛んだのでした。衰弱しきって戻った彼女は、ぐちゃぐちゃになった髪を恥じ、イザークに見ないでほしいと頼みます。「天上鬼」の力を抑える事以外何も出来なかったイザークは、その姿に涙し、悔しさを堪えるのでした。
ガーヤが典子の髪を切り揃えると、その姿はイザークに出会った頃の彼女のよう。イザークが懐かしそうに微笑み、典子も笑顔を見せます。お互いを慈しむ、普通の心優しい恋人同士です。
2人が「天上鬼」と「目覚め」だと知らされたエンナマルナの族長は、自分の目で見た彼らの姿を思い返し、決断します。族長は2人を受け入れ、イザークが「元凶」に挑む間、典子をエンナマルナで守ると決めたのでした。
噂や流布する伝説、世界が闇に呑まれていく状況。そんななかでも光を求め続ける人の姿は、優しく逞しく映ります。出番は少ないですが、族長の漢気がかっこいいです。
そして、イザークとケイモスの最後の戦いにも注目。
自分より強い者がいる事を許せず、弱い者には死んでもなりたくない。強さへの凄まじい執念が、ケイモスの脆い心を支えていました。典子のため、自分のため、運命と戦う決意をしたイザークは、戦いを通じ、彼の心にある弱さと脆さを知ります。そして決着が付いたその時に、彼を認める言葉をかけるのです。
虚を突かれたのか、満足したのか……小さく笑ったケイモスは塵となって、霧散していきます。宿敵との戦いの幕引きは、思わず息を詰めてながら読んでしまうでしょう。
ついに「元凶」に挑むイザーク。そして、エンナマルナを襲うラチェフ達。イザークが「元凶」を討つのが先か、ラチェフが典子を手に入れるのが先か……。
緊迫する状況のなか、守られるしか出来ない典子は不甲斐なさを感じます。けれどガーヤが、そんな彼女に自分の考えを語ります。それを聞いた典子は、今まで経験した全ての事、自分の心に響いた言葉の全てが、1つに繋がっていくような感覚を覚えるのです。
彼女に訪れた変化、それが戦いにどういった影響を及ぼすのか……。続きは、ぜひ作品をお読みになってお確かめください。物語の最後には、タイトル『彼方から』の意味も明かされます。
彼らの後日譚が読めるエピローグと、典子のミニ日記も収録。典子とイザーク達の平和な日常が見られて、嬉しいおまけです。
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