世間を騒がせている人物・怪盗ジャンヌ。謎多きその人物の正体は、なんと普通の女子高生でした。 彼女の名前は、まろん。絵画に潜む悪魔を退治するため、夜な夜な怪盗ジャンヌに変身しているのでした。ジャンヌ・ダルクの生まれ変わりとして、その力を使う彼女ですが、そんな彼女の前に、同じく絵画の悪魔を集める怪盗シンドバッドが現れて……。 神話や、過去の偉人に絡めたファンタジーストーリーが魅力的な『神風怪盗ジャンヌ』。その心に響く名言を全巻分、ご紹介していきます。ちなみに本作はスマホアプリで無料で読むこともできるので、そちらもどうぞ。
ジャンヌ・ダルクの生まれ変わりとして、神の力を前世から引き継いでいる日下部(くさかべ)まろん。
彼女は、準天使・フィンの協力を得ながら、絵画に潜んで人間に乗り移り、その心を蝕んでいく悪魔を退治する、怪盗ジャンヌとして活躍していました。
- 著者
- 種村 有菜
- 出版日
怪盗という名前ではありますが、盗みを働いているわけではありません。悪魔が抜けた絵画は絵が変化してしまうので、ある意味では絵画を盗んでいることになるのかもしれませんが、そうなってしまった絵も非常に美しいもの。被害者たちは、特に気にしていないようです。
そんな彼女の活躍が描かれる1巻での名言は、自分に自信がなく、なかなか強気にいけない、まろんに恋する同級生男子・水無月に対し、ジャンヌが言ったこの言葉ではないでしょうか。
弱気の意味ちゃんと知ってる?
「できない」ってすぐ口に出す人のことだよ
そういう人は“できない”んじゃなくて やらないんだよ
(『神風怪盗ジャンヌ』1巻より引用)
まったくそのとおりですよね。やる前から諦めて、できないと決めつけるのは、自分の可能性を狭まるだけですし、それだけでどんどん気も小さくなってしまいます。
彼女のこの言葉は、できない人間からすると冷たくも感じられるものですが、「やればできる」という、自分の可能性を感じさせてくれるセリフでもあります。「やろう」と一歩踏み出す勇気を持てる一言ですね。
ジャンヌと同じように絵画を変えるということで世間を騒がせていた、怪盗シンドバッド。同じく悪魔を回収するのが目的の彼は、ジャンヌにこの仕事をやめるようアプローチしてきます。彼女は自分のある「寂しさ」を埋めるためにジャンヌとしての仕事をしており、当然それを拒否します。
しかしジャンヌとして自信満々にシンドバッドをはねつけたあと、まろんとして大きなショックを受ける事実が。それは敵であるシンドバッドの正体が、心が惹かれ始めた転校生・名古屋稚空(ちあき)であり、彼が自分に付き合おうと言ったのは、まろんがジャンヌだと知っていたからだというものでした。
- 著者
- 種村 有菜
- 出版日
- 1999-01-12
そんななか、自分を置き去りにしていった両親が離婚することを知り、まろんはさらに精神的に追い込まれてしまいます。怪盗ジャンヌとしての仕事で埋めていた寂しさは、高校生ながらにひとりで暮らし、両親の愛情を受けているという自信の無さからくるものだったのです。
シンドバッドとしての目的を抜きにしても、まろんに本当に惹かれ始めていた稚空は、両親の離婚を聞いて姿を消した彼女を探し、そこで初めて彼女の1番弱い部分に触れます。
ずっと“勇気がほしかった”…
逃げ出さずに朝を待つ勇気…
自分の心と向き合う勇気…
誰かを信じて頼れる勇気がほしかった…
(『神風怪盗ジャンヌ』2巻より引用)
両親が帰ってくるのではないかと思いながら過ごす夜は、それは辛いものだったことでしょう。そんな夜にジャンヌとしての仕事をすることで、彼女の心のバランスは保たれていたのです。
そしていつでも誰にでも、強い自分しか見せてこなかった彼女が、唯一弱い部分を見せたのが稚空。いつも勇敢で、笑顔を崩さない彼女から出た言葉だからこそ、心に響くセリフですね。誰にでもある、内に秘めた言えない想いに心が揺さぶられます。
父親が悪魔に乗っ取られ、強制的に家に連れ帰られることになった稚空。すべてが悪魔の仕業だと気づいたまろんは、ジャンヌとなって彼の実家に潜入します。
しかし、彼の父に乗り移った悪魔は、今までとは違い、簡単に退治することはできませんでした。しかも、そいつは驚くべきコレクションをしており……。
- 著者
- 種村 有菜
- 出版日
- 1999-05-14
そんな事件がありつつ、やっぱり気になるのは2人の恋愛展開。まろんへの恋心を自覚しながらも嫌われることが怖くて一歩が踏み出せない稚空の様子が描かれます。プレイボーイではあるものの、彼にとっては初恋ともいえる関係なのです。
一方、彼のパートナーである黒天使・アクセスは、同じようにまろんの協力者であるフィンに思いを寄せており、毎回きつい言葉で撥ね付けられても諦めないしぶとさがありました。それを見た稚空は「フィンに嫌いと言われ続けて、傷ついてもいいのか」と聞くのですが、アクセスはこう答えます。
ヤに決まってるだろ!
でも俺は自分が傷つくより
フィンを誰かにとられちまう方がずーっとイヤなんだ!
(『神風怪盗ジャンヌ』3巻より引用)
少々無鉄砲で、おバカな言葉にも思えてしまいますが、一途でかわいくもありますよね。これだけ一生懸命想ってもらえるのは嬉しいことです。
自分が傷つくより、好きな人を失うことのほうが嫌だと断言できるアクセスには学ぶところがありますね。好きな人に拒絶されること、嫌いと言われることは誰だって嫌ですが、それでも想いを伝え続ける彼の強さに感服させられる言葉です。
ジャンヌに変身するシーンをある人物に見られてしまった、まろん。彼女がジャンヌの正体だとバレた相手は、父の友人で、新任教師として彼女の通う高校にやってきた男性・聖でした。
彼は悪魔がどこにいるのか察知する能力を持っており、事あるごとに彼女に協力するようになります。
神風怪盗ジャンヌ (4) (りぼんマスコットコミックス (1163))
聖に悪魔の気配がすると連れられていった病院では、長いこと入院している少年・全がいました。実は彼は悪魔の魔力によって生きながらえている人物。ジャンヌとしてその悪魔を祓ってしまえば、彼の命も途絶えてしまう状況でした。
どうにか悪魔を祓っても生き残る術がないかを探しているうちに、まろんはまったくお見舞いに来ない全の母親の存在を知ります。そして全を助けたいという思いで、彼といっしょに病院を抜け出し、実家にいくことにするのです。
そこで、なぜ全に会わないのかと母親に問うまろん。それに対し彼女は、こう答えます。
“会いにいきたい”なんて思ってないわ
望むは“帰ってきてほしい”よ
(『神風怪盗ジャンヌ』4巻より引用)
両親においていかれた経験をもつ彼女は、入院してから母親が会いにこないという全に、自分自身を重ねていました。そのため、なぜ彼に会いにこないのかを自分から母親に尋ねたのです。
入院している息子に会いにいかないことは、一見冷たいことのように思います。しかし最終的に願うのは、再び一緒に暮らすこと。願いを叶えるため会いにいかない、という両親の決断は、ある意味、これ以上ない愛情なのかもしれません。「絶対帰ってこれる」という願いと自信、信頼の表れであり、入院している本人の力にもなる言葉です。
ただ、このあと物語は何とも切ない展開を迎えます……。
稚空が怪盗シンドバッドを続け、未だにまろんにジャンヌとしての仕事をやめてほしがっている理由が、フィンの裏切りにあると告げられた知ったまろん。彼女は、稚空の言葉を疑うわけではないものの、フィンが裏切り者であるはずもないと信じていました。
しかし彼女のそんな想いとは裏腹に、そのことを尋ねられたフィンは自分が魔王の手先であり、まろんをずっと利用していたことを明かします……。
- 著者
- 種村 有菜
- 出版日
- 2000-02-15
まろんにとって、フィンはひとりきりだった孤独を埋めてくれた大切な家族でした。そんな彼女の裏切りに、まろんはひどいショックを受けます。そしてフィンがいなくなった今、神の力(実際には魔王の力)によって変身できていたジャンヌという存在にはなれないのでした。
しかし、彼女が魔王の手先になった理由、その過去をアクセスから聞き、フィンの悲しさを知ります。そしてどんなときでも自分を支えてくれる稚空の存在を勇気に変え、あらためて彼女と向き合うことを決めるのです。
ジャンヌになれなくても戦うわ
確かに私だけにできることは 何もないかもしれないけど…
がんばることは誰にだってできる
(『神風怪盗ジャンヌ』5巻より引用)
裏切りが発覚したあと、魔王の力でもう一度ジャンヌになろう、こちらの味方になればいいとフィンが誘いかけてきました。そんな彼女に対してまろんが言ったのが、この言葉です。
彼女はジャンヌにならなくても、強い心と勇気を持つことができるようになったんですね。このセリフは、まろんの成長を感じられるとともに、読者にも「諦めない心」を芽生えさせてくれます。
人間誰でも、根性ややる気だけではどうしようもないことがあります。しかし、それらを出せば、できることだって確実にあるのです。もちろん、「がんばろう」と思ってがんばるのは容易ではありません。だけど、特別な才能がなくても必ずできることだってあるという勇気をもらえますね。
マンションからいっしょに落ちたことで、高校教師・聖の正体であった悪魔騎士・ノインとともに、ジャンヌ・ダルクが処刑される前日にタイムトリップしてしまったまろん。
まろんはジャンヌ・ダルクを助けようとしますが、彼女はまろんの中に自分にはない強さを見出し、自分が助けられることより、自分の力を託すことを選ぶのでした。
- 著者
- 種村 有菜
- 出版日
- 2000-06-15
ジャンヌ・ダルクに力をもらい、再び怪盗ジャンヌとなったものの、いまいち力の使い方がわからずすぐに市民に捕らえられてしまったまろん。走馬灯のように稚空への思いをめぐらせた彼女は、こう言うのです。
不思議ね…稚空のこと
この心に想うだけでわくわくするのよ
無限の力があふれてくる
今ならなんでもできちゃう気になるの(中略)
“今なら なんでもできる”…ってこの気持ち!
この気持ちを「勇気」って人は呼ぶのね…
(『神風怪盗ジャンヌ』6巻より引用)
人間は、1人では弱いもの。しかし心から気を許せる人、好きな人、自分を想ってくれる人がいるとわかっているだけで、不思議と力が湧いてきます。誰かを好きになったり、誰かに好きなってもらえるということは、それだけすごいことなのだと感じさせられる名言です。
普通に生活していれば見落としてしまう、または忘れてしまう「自分を支えてくれる誰かのありがたみ」を思い出させてくれますね。
タイムトリップから無事戻り、魔王と神の最終対決に臨むことになった、まろん。彼女は魔王に人質にとられた稚空を取り戻すため、神の力を持つものとして、魔王の用意した相手と戦うことになったのです。
決戦当日。魔王が送り込んだのは、フィンの力によって怪盗となっていたころのジャンヌでした。
- 著者
- 種村 有菜
- 出版日
- 2000-08-07
そんな怪盗ジャンヌを前に、まろんは変身を解きます。そしてかつての自分を抱きしめて、このセリフを言うのです。
もう泣いてもいいよ
私…ひとりじゃないから
(『神風怪盗ジャンヌ』7巻より引用)
あのころのまろんは、親友にさえ弱いところを見せられず、誰の前でも泣くことができない、仮初めの勇気をまとっていました。ジャンヌという仮面をかぶって、弱い自分を隠して、誤魔化していた当時。しかし今は、そんな仮面をかぶらなくても、素のままの自分で勇気を持っていられるのです。
彼女が1人で寂しさを耐えてきた過去を考えると、それを乗り越えた成長を感じさせるこの言葉は非常に胸にくるものがあります。まさに、最終回にふさわしい名言といえるのではないでしょうか。
またこれは、「頼れる大切な人がいるなら、自分を隠す必要はない」というメッセージとしても受け取れます。誰しも、本当の自分を隠すため、本当の自分を誤魔化すため、無理をすることもあるでしょう。これは、そんな人にこそ伝えたい言葉でもありますね。
その後の最終回はこれ以外にも、大切な人と手を取り合って生きていく、自分を支えてくれる人がいることは幸せなのだと感じさせてくれる言葉が多々登場します。
誰かを想うことは大切なことだと感じさせてくれるでしょう。
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「人を好きになることの幸せ」がギュッと詰まった『神風怪盗ジャンヌ』。人を好きになり、好きな人を支えること、好きな人に支えてもらうこと、そのどれもが尊く素晴らしいものだと感じさせてくれる作品ですね。