毛は衣類の材料として、肉や乳は栄養源として人間の暮らしを支えている「羊」。その歴史は紀元前にまでさかのぼり、品種の数も3000を超えています。この記事では、彼らの生態や品種ごとの特徴、角や瞳孔の仕組み、性格などを解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
クジラ偶蹄目ウシ科ヤギ亜科に分類される動物です。体重は40~150kgほどと種によって大きさのバラつきがあり、古くから交配や改良が続けられてきたため、現在は3000を超える種が存在しています。
草のみを食べる食性で、樹皮や木の実は口にしません。縮れた体毛が特徴で、種によってないものもありますがらせん状に巻いている角を有しています。寿命は10~12年ほどで、長いものだと20年近く生きる個体もいるそうです。
では日本でも飼育されている代表的な品種を紹介していきましょう。
スペイン原産で、羊毛の採取を目的とする種ではもっとも有名です。毛長は6.5~10cm、毛量も4~6kgと豊富です。すべての羊のなかでもっとも白くて細い毛だといわれており、長くて丈夫なため衣服用に適しているといえるでしょう。
1300年頃に誕生し、メリノをもとにさまざまな種がつくられることとなりました。
ニュージーランド原産で、メリノと、リンコルンという種の交配によって生み出されました。羊毛と羊肉両方の目的で飼育されています。
毛はメリノよりは太いものの、柔らかい手触りで良質です。また、環境を整える必要がありますが、肉もよいものがとれるといわれています。
イギリスのサフォーク州原産です。100kgを超える大型で、顔と四肢が黒いのが特徴です。
臭みのない良質な肉をもっていることから、羊肉用として日本でも数多く飼育されています。一方で羊毛はツイードやフエルトなどの加工品にも使用できるそうです。
羊の角は、らせん状に巻きながらドリルのようにまっすぐに伸びる「ラセン角」と、丸くカールしながら伸びる「アモン角」の2種類に分けられます。ほとんどの種は左右に1対もっていますが、なかには2~3対、合計4~6本の角を有している種もいます。
羊の角は骨が伸びたものなので、内部には血管がとおっていて、触るとあたたかいのが特徴です。生え変わることはなく生涯伸び続けるため、手入れが大変なことから、家畜化された種は交配の過程で退化させているものも多くあります。
動物園などでは角がある野生種を飼育していることもありますが、柵などにぶつかってケガをしたり壊したりしてしまう可能性があるため、切り取られていることが多いようです。角のある羊を見かけたらラッキーかもしれません。
羊や山羊、馬など草食動物のなかには、横に長い楕円形の瞳孔をしているものがいます。これは草原などの開けた場所でいち早く天敵の存在を確認するために進化したもので、なんと頭を動かさなくても自分の背後を把握することができるそうです。羊の視野は270~320度といわれています。
明るい場所で目を細めても、その広い視野を保てるように横長の形をしているそうです。一方で周囲が暗くなると、光を集めるために丸い形になる様子が見られます。
また、眼球そのものを50度近く回転することができるため、首を曲げて草を食べている時でも、直立時と同じような視野を保つことができるそうです。
穏やかで従順な性格をしている一方で、警戒心が強く臆病な羊。野生でも、「1頭を捕まえるより100頭を捕まえる方が楽」といわれるほど群居性が高いのも特徴です。この性格を利用して、安心感を与えることで非常になつきやすくなるため、家畜化に適しているといわれています。
のんびりとしていることが多いためあまり知的な印象はないかもしれませんが、2017年にイギリスのケンブリッジ大学が発表した研究によると、訓練をすれば人間の顔を識別できるほど高い認識と記憶力をもつことが判明しました。
実験は、被写体の顔が正面から写った写真を羊に見せた後、無作為に選んだ他人の顔写真と並べてディスプレイに映し、該当する写真を選ぶことができるかというものです。この結果、羊は80%の確率で指示された写真を選ぶことができました。
さらに他の角度から撮影した写真を見せ、同一人物と認識できるか確認する実験では、正解率は下がったものの人間と同程度の識別能力をみせたのです。
この研究結果は、相手の顔を正しく識別することができなくなる症状があるハンチントン病やパーキンソン病などのメカニズムの解明に役立つと期待されています。
羊が家畜化されはじめたのは、紀元前8000年頃のこと。カスピ海に面する平原を中心に飼育されたと考えられています。そこからペルシャやメソポタミアに分布していき、紀元前2000年頃にはメソポタミアに5種類以上が存在していたそうです。
その後遊牧民とともにヨーロッパやアフリカ、アジアへと渡り、それぞれの環境に適した改良を加えられてさらに多くの種が誕生することとなりました。
毛の刈り取りも、紀元前3000年頃にはおこなわれていたようです。「アンダーコート」という、ふわふわとしていて断熱性の高い毛をもつ個体を中心に交配がすすんでいきました。
紀元前50年頃にはローマ人も飼育をしていたことがわかっており、毛織物の製造技術とともにヨーロッパ全土に広まっていったそうです。
世界のひつじめぐり
2016年10月07日
メリノなどの代表的な品種から、日本では見ることのできない品種まで、世界各地にいるさまざまな種の羊を紹介している写真集です。
大きな体をした食肉種や、小鹿のようにかわいらしい種など、その多様性に驚くこと間違いありません。その土地に生きる人々の暮らしに寄り添って彼らが生きていることがわかります。日本における歴史など興味深いコラムもあり、読み物としても楽しめます。
眠れない夜は羊を数えるといいといいますが、ページをめくっていると自然と肩の力が抜けていくような、リラックスできる1冊です。
- 著者
- 佐々倉 裕美
- 出版日
- 2008-04-01
日本国内の牧場で飼育されている羊たちの春夏秋冬の様子がわかる写真や、飼育方法、羊毛の紡ぎ方などが載っています。ゆるめのタイトルでありながら実用的で、毛刈りの方法や洗い方、染色、紡いだ糸の織り方まで詳しく解説しています。
掲載されている写真がどれも可愛らしいのも魅力的で、作者の羊への愛情が伝わってくる1冊です。
犬に次いで家畜として長い歴史をもっている羊。しかし一般の家庭では飼育されないことから、意外と目にする機会は少ないのではないでしょうか。紹介した2冊の本は、どちらも彼らがリラックスして暮らしている様子をとらえた写真がたくさん掲載されています。ぜひ手にとってその可愛らしさを堪能してください。