「月刊コミックバンチ」で連載されている、神崎裕也の『チェンジザワールド -今日から殺人鬼-』。自殺志願者の一般人と、刑事の精神が入れ替わってしまうという、衝撃の展開から始まるサイコサスペンスです。本作の肝は、この刑事のある秘密。単純な入れ替わり漫画ではない恐ろしさを感じさせる設定です。 同作者は『ウロボロス -警察ヲ裁クハ我ニアリ-』も手がけた人物だけに、連載が始まったばかりにも関わらず注目度は絶大です。ここでは、そんな本作の見所・魅力をご紹介。
12月31日。日本のどこにでもある繁華街に、どこにでもいそうな男が彷徨っていました。彼の名前は、斉藤唯一(さいとうゆいち)。
着の身着のまま、その日暮らしで毎日を過ごしていた彼は、発作的に行き先が分からないバスに飛び乗って、人里離れた山に行き着きます。交通費で手持ちを使い尽くし、自暴自棄になって自殺する気になっていたのです。
- 著者
- 神崎 裕也
- 出版日
- 2018-10-09
廃墟となったラブホテルを最期の場所と決めた彼は、そこで男の死体を発見します。そのそばには拳銃が……。そしてその男を追っていたらしい刑事に追い詰められた彼は、思わず銃を暴発させてしまい――気が付いた時には病院にいたのでした。
目が覚めると、彼はなぜか、自他ともに認める優秀なエリート刑事・光宗朔太郎(みつむねさくたろう)の肉体に精神が入れ替わっていたのです。金も、人望も、地位もあるイケメンの体を得ることは、底辺を彷徨っていた彼にとって、文字通り人生をやり直す絶好の機会でした。
全てが順風満帆かのように思えました……光宗の隠された本性を知るまでは。なんと彼は、人知れず殺人をくり返す異常犯罪者だったのです。そして、光宗の精神もまた、唯一の肉体に宿っていたのでした。
人生で交わることのなかった2人の男が、偶然の入れ替わりから、対決する運命を辿っていきます。
主人公の斉藤唯一は「唯一」の名前に反して、現代社会では珍しくない、落ちこぼれの青年です。定職はなく、定住も出来ず、漫画喫茶やネット喫茶を渡り歩く、社会の最底辺に近い生活をしていました。そんな生活のためか、性格の方も歪んでねじくれ、卑屈に染まっています。「唯一」という名前にもコンプレックスを抱いているほどです。
対する光宗朔太郎は、主人公と正反対に、エリート中のエリート。知識と外見で人心を掌握してコントロールします。そんな人間が、全才能を凶悪犯罪に注ぎ込んでいるというのが、空恐ろしいのです。
主人公が他者と入れ替わる、というのは創作でよくあるネタ。しかし、その入れ替わりの立場にギャップがあるほど、劇的なサスペンスに変化します。一方は中身がダメダメでも人脈と権力があり、もう一方は社会に溶け込む凶悪知能犯となったのです。事情を知るのはお互いだけで、凶行を止められるのはダメダメな主人公だけ。
頭の出来が1段も2段も劣る主人公が、いかに対処していくかが見物です。
物語は、中身一般人の刑事、凶悪犯罪者と化した一般人の対立という単純な構造では終わりません。そこはさすが『ウロボロス -警察ヲ裁クハ我ニアリ-』の作者・神崎裕也といったところでしょう。
入れ替わった唯一は、光宗の邸宅地下で、バラバラ状態で保存されている多数の犠牲者と、かろうじて生かされていた生存者を発見します。両親がすでに光宗の犠牲となった少女・峯村(みねむら)アンです。
当然ですが、彼女も最初は警戒します。唯一の体は光宗なので、自分を殺しに来たと誤解するわけです。ところがこのアンというキャラクター、非常に賢い女の子で、知能犯・光宗にしては言動がおかしいと気が付くのです。
彼女は不思議と彼を信頼し、事情を知る数少ない仲間として、助言を与えるようになっていきます。
かつて、ジョン・トラヴォルタとニコラス・ケイジが出演した、ジョン・ウー監督の『フェイス/オフ』という映画がありました。内偵のため凶悪犯に扮した刑事が、その凶悪犯に身分をすり替えられ、追い詰められるサスペンスアクションです。
本作「チェンジザワールド」の見所も、そういったサスペンスにあります。入れ替わった主人公と宿敵が、追う側と追われる側に別れるという部分は共通している点です。しかしそれだけではなく、本作の特徴は、単純に刑事と犯人が入れ替わったわけではなく、一般人と凶悪犯というところにあります。
また、その「追う」と「追われる」にも、二重の意味があることもポイントです。
唯一としては、可能なら殺人鬼の肉体から元に戻りたいと思っています。そして事情を知り、光宗を追いかけることの出来る立場として、シリアルキラー光宗を「追う側」となっていきます。この時、追っている相手が光宗であると同時に、それが彼自身=唯一の肉体というところが肝です。
もし自分の体に戻れたとしても、光宗が殺人をくり返していれば、どうなるでしょうか?精神の入れ替わりなど世間が認めてくれるわけもないので、当然彼が犯人ということになります。
彼は元の体に戻るだけでなく、光宗の凶行を止める必要があるのです。言い換えれば「追う」と同時に、のっぴきならない状況に「追い詰められる」立場でもあるということ。そして、それは光宗にとってもほぼ同様なのです。
シリアルキラー光宗は、唯一の肉体を得て、ますます殺人衝動を加速させていきます。その理由がより一層、本作のサスペンス部分を際立たせるのです。
- 著者
- 神崎 裕也
- 出版日
- 2018-10-09
優秀な刑事の肉体を持ってしまった元一般人と、優秀な頭脳のまま一般人に紛れ込んだ元刑事の凶悪犯。
一見して凶悪犯側が圧倒的に有利ですが、この窮地がどう打開され、どのように展開されていくのでしょうか。まったく先が見通せません。
本作は第1巻が10月に出たばかりですが、スマホの漫画アプリでも並行して掲載が始まりました。
この機会に「チェンジザワールド」を読み始めてはいかがでしょうか?
いかがでしたか?本作は入れ替わりが鍵となる、異色のサイコサスペンスです。果たして主人公は凶行を食い止め、元の体に戻ることが出来るのでしょうか?