東野圭吾の、話題のベストセラー小説である、『マスカレード・ホテル』。「ガリレオ」「加賀刑事」シリーズなどで、数々の有名キャラクターを生み出してきた東野作品ですが、ここにきて新しいシリーズとスターが誕生しました。都心のホテルを舞台として、ホテルマンである女性と、刑事を中心に巻き起こる事件。その謎を解明していくストーリーです。 映画化も決定し、ますます話題の本作。そのなかで、特に注目していただきたい見所を3つご紹介します。
まず簡単に、本作のあらすじを追ってみましょう。
都内で突如、3件の予告殺人事件が起こります。一見まったく繋がりがないように見える事件でありながら、すべての現場に奇妙な暗号らしきものが残されていました。そこから警察は、連続殺人事件と断定して捜査を始めます。
解読された暗号は、次の殺人現場を予告するものでした。そして第4の事件現場として予告されていたのが、山岸尚美がホテルクラークとして勤務する「ホテル・コルテシア東京」。そこに潜入捜査員として、ホテルマンに扮して潜り込むことになったのが、新田浩介刑事です。
新田は不慣れなうえに、捜査を優先するあまり、客に対して時に不躾ともいえる対応をしてしまいます。それが、真面目で優秀な尚美には許せません。
そんな彼らがぶつかりあいながら日々過ごす間にも、怪しい客の登場や、奇妙な出来事が次々に起きていくのです。誰が狙われているのか、犯人は誰なのか、まったくわからない状況のなかで、2人はしだいにお互いの立場を認め合うようになっていきます。
しかし、事件は容赦なく、彼らを危険に追い込み……。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 2014-07-18
目が離せないストーリー展開や、登場人物たちの個性が際立つこの物語は、映画化が決定。新田を木村拓哉、尚美を長澤まさみが務めることが発表されています。
主役の2人もさることながら、小日向文世、松たか子、前田敦子など、彼らを取り巻く怪しい人物たちのキャスティングも豪華な顔ぶれが集結。この物語の着眼点となる「誰が犯人かわからない」という楽しみを、一層強固なものにしてくれそうです。さらに、明石家さんまもエキストラとして出演する予定なんだとか。ますますどんな物語になるのか気になりますね。
監督は、鈴木雅之。過去に「古畑任三郎 vs SMAP」や『HERO』などでも、木村拓哉主演の作品で監督をしています。
タイトルに使われている「マスカレード」という言葉は、仮面舞踏会という意味。ホテルを訪れる人たちが、すべて何かしらの仮面をかぶっているという意味が込められています。
尚美たちホテルマンは、そのお客様の仮面を守るために、日夜奮闘することになるのです。 舞台となる「ホテル・コルテシア東京」は、モデルがあるといわれています。取材協力団体として本の巻末にその名が挙げられている、「ロイヤルパークホテル」がそうです。実際にそこに行ってみて、作品の雰囲気に想いを馳せるのもよいかもしれないですね。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 2002-02-10
東野圭吾は、1985年『放課後』で江戸川乱歩賞を受賞し、デビュー。
大阪府立大学工学部を卒業し、その後電気関係の仕事をしていたということもあって、小説では理科系のトリックを用いた、理論的な推理を展開します。それにより、彼の作品は理系ミステリーと呼ばれます。「ガリレオ」シリーズで、それは一層強固たるものになったようです。
しかし、その一方で、推理小説にはむずかしい「人を描く」ドラマ性の強いものも、発表するようになりました。それが映画化やドラマ化につながり、『白夜行』『容疑者xの献身』『祈りの幕が下りる時』などの名作を生んだのです。
ベストセラーは数知れず、賞という賞を総なめにしている彼は、名実ともに日本を代表する人気作家といえるでしょう。
この物語の登場人物は非常にたくさんいますが、主に3つのパターンに分けられます。
この物語の登場人物たちが他と違うのは、主役の2人以外すべてがその他大勢であり、それでいて全員、重要人物であるというところ。1人1人に注目しながら読むと、より面白いでしょう。
上記で述べたように、この物語の登場人物は、すべて重要人物といってもいいくらいです。大勢いればいるほど、それぞれにややこしい人間関係が絡まっていて、それが事件とどういう関係があるのか、わからなくなっていきます。
読者は、1人1人の巻き起こす騒ぎすべてを疑ってしまうのです。なぜか盲目のふりをしている老人、無茶な要求を押し付けてくる元予備校教師、なぜか女装している男……。このようなホテルで起きる出来事、騒ぎ。それが事件とどう関わっているのか、わからなくなってくるのです。
しかし驚くべきは、その何気ない出来事が、実は決してカモフラージュでも、関係のないエピソードでもないということ。だからこそ、誰が犯人なのかわからない!というところが、このミステリーの面白さといえるのです。
また本作は、ただの謎解きだけで終わりません。新田と尚美の関係にも注目したいところ。
まったく考えの違う2人が、数々の客やトラブルと接していくなかで、刑事ならでは、そしてホテルマンならではの互いの視点に共感を覚えていきます。それは感心や尊敬の気持ちでもあり、その結果、彼らの距離が近くなっていくことになるのです。
果たして、尊敬以上の感情は芽生えるのでしょうか?
本作の見どころの1つといえるのが、暗号の謎です。まさにミステリーの醍醐味ともいえるこの暗号が、大きく事件に関係してくることになります。
都内で発生した殺人事件の現場に残された、謎の数字の羅列。解読の末、それが「緯度経度」を表すものだと判明します。そこから、次の事件現場が「ホテル・コルテシア東京」だとわかり、潜入捜査という展開になっていくのです。
『マスカレード・ホテル』の本の帯には、「完璧に化けろ。決して見破られるな。」と書いてあります。実はこれも、なかなか意味深な言葉。
一見、完璧にホテルマンに化けろという刑事たちへのメッセージのようですが、裏を読めば犯人に対しての言葉ではないかという見方も……。ぜひ本作を読む際には、この言葉の意味も考えながら読んでみてください。
さて、犯人は誰なのか?意外な人物であることは間違いないのですが、驚くのは、その伏線です。
さまざまな出来事や登場人物が、伏線になっている面白さ!怪しいと感じた人は数知れずでしたが、犯人、動機すべてピタリと当てることは、至難の技ではないでしょうか。なぜなら、そこには真犯人がある出来事に乗じて巧みなトリックを仕掛けているから。「点と線」という言葉がよくありますが、点があると、人は線で結びたくなるものです……。
しかも、これはある意味ホテルならではの事件ともいえる真相。びっくりしたり、感心したり。自分だったらどうしていただろうかということを、ちょっと考えてしまったりするかもしれません。
その後、事件に巻き込まれてとんでもない目にあった新田と尚美ですが、やはりラストは……。2人の関係にも注目です。
『マスカレード・ホテル』に続いて発表されたのが、『マスカレード・イブ』です。同じ登場人物のシリーズ化ですが、物語は本作の続きではありません。この事件で出会う前の、新田と尚美、それぞれの事件の短編集になっています。
尚美は、元彼と関わる事件に遭遇。新田は新人刑事として、初めて事件を解決します。職場でまだ新人の、2人の初々しい活躍が見所です。まだ出会う前の2人の繋がりがどう収束していくかには、思わず唸らされるでしょう。『マスカレード・ホテル』がまた読みたくなること請け合いの内容です。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 2014-08-21
ちなみに「マスカレード」シリーズでは、すべての事件で、被疑者の仮面の下に潜むもう1つの顔がテーマとなっています。
第3作目として登場したのが『マスカレード・ナイト』。こちらは本作の続編となるストーリーで、舞台は再び「ホテル・コルテシア東京」です。新田が追う殺人犯がカウントダウンパーティーにやってくるとの密告を受け、再び新田、尚美、2人の活躍が始まります。
相も変わらず、徹底的な尚美のホテルマンぶりが見ものです。また、新田の成長ぶりにもシリーズを追いかけてきた読者なら心をさらに動かされるでしょう。また、個性的な新キャラも登場し、事件のことを忘れるほどに引き込まれる描写がなされます。
感情移入しつつ、王道のどんでん返しもある、贅沢な長編ミステリーになっています。ぜひ、こちらも合わせて読んでみてはいかがでしょうか。
マスカレード・ナイト
2017年09月15日
映画公開とともに、さらに話題になることが予想される『マスカレード・ホテル』。未読の人の不変ともいえる悩み「読んでから見るか」「見てから読むか」。いちだんと迷うところですが、どちらにせよ、本好きとしてはやはり原作を読んでいただきたいところです。