今までいくつもの長編物語を紹介してきましたが、正直に言いますと、大人になってから長編物語がほんの少し苦手になりました。一旦時間を空けてから読むと登場人物の名前を忘れてしまっていたり、人よりも読むのが遅いのでなかなか他の読みたい本に手を付けられなくなってしまうからです。 今これを読んでうなずいたアナタ。今回はそんなアナタにおすすめしたい「スラスラ読めるスパイシーな短編集」を紹介します。ピリッとした刺激を受けながら、疲れたときでもやさしい気持ちで次のページをめくりたくなるような本を選んでみました。
- 著者
- 吉本 ばなな
- 出版日
楽しそうに笑う二人の少女と、赤い花を咲かせた大きなアロエ。ぱっと見ギョッとしてしまった合田ノブヨさんの装画のインパクト大な表紙を開くと目次は全13話。どの物語も主人公は一人の女性で、誰一人似ている人物はおらず、それぞれの人生の一部がそれぞれの心情とともに繊細に描かれている一冊です。
日常に潜む小さな喜びや懐かしさ、奇妙さ、当たり前だけど忘れがちなことについて、まさに「体は全部知っている」と言われているような物語ばかりです。
なかでも私が最も気に入ったのは「サウンド・オブ・サイレンス」でした。主人公は家族が誰も口にしようとしない“隠し事”を、過去の出来事を振り返り、模索しながら話を進めていきます。物語を締めくくる「───呪文のように日常のことをつぶやきながら、しばし心をさまよわせていた私は再び自分の人生に帰って行った」という言葉から、主人公は“隠し事”の答えにたどり着いたけれど、気づいていない振りをしたまま家族との関係を続けていこうと静かに決意したように感じました。一体その“隠し事”とは何なのでしょう……? 途中出てくる年の離れた姉妹が二人でお風呂に入りながら会話をするシーンが微笑ましくて、とてもほっこりしました。
他にも「みどりのゆび」「本心」「おやじの味」などなど、気になるタイトルが目白押し。「いいかげん」なんてのもあります。アナタのお気に入りになるのはどの物語でしょうか? もし読んだら教えてくださいね。
- 著者
- トルーマン カポーティ
- 出版日
- 2009-06-10
タイトルの「誕生日の子どもたち」は一つ目の物語でした。ある日、町に越してきた少女ミス・ボビットは、大人ぶった見た目と並外れた大人顔負けの言動で、あっという間に町中で有名になります。そんな彼女を目の前にした少年ビリー・ボブは、“リンゴみたい”に真っ赤になりながら、とても丁寧に「ポーチで一休みしていきませんか」と彼女を誘います。それは丁度、彼の誕生日の日の出来事でした。
この物語、実は最初から最後までビリー・ボブの従兄弟が語り手となって客観的な視点で話しています。なので、より周りの情景をしっかりと捉えることができ、まるで紙芝居を読んでもらっているかのように、人づてに話を聞いているような気分になれます。
他の物語では、著者が自らの少年時代を元に描いた物語がいくつかあり、感謝祭やクリスマスなどの特別な日は、子どもにとっては忘れられない一日になることが多いのだなぁと感じました。
「感謝祭の客」という物語ではエゲツないいじめっ子が登場します。けれど、主人公もいつか大人になってから振り返れば、酷いいじめも人生のスパイスであったかのように感じるのではないか、と読み手の想像を膨らませるような書き方にぐっと惹きつけられました。
幼く純粋だからこそ強くなる言動と、傷つきやすく脆い心の弱さを終始見せつけられているような、大人になって忘れてしまった何か大切なものを思い出すきっかけになる本だと思います。
村上春樹氏による「訳者のあとがき」も大変興味深いので、手に取ったら最後までじっくり読んでみてください! 時間はさほど取らせません!
まにまに
2015年09月11日
この本は連載を一冊にまとめたエッセイ集なので、今回の〈短編集〉というテーマからはずれてしまうのですが、「スラスラ読めるスパイシーな“エッセイ”集」ということで、どうかご理解ください!
以前紹介した、著者の「うつくしい人」と「舞台」という二冊の小説作品を読んで、彼女の考え方や人柄にも興味が湧いたのでエッセイ集も手に取った次第です。
〈日々のこと〉〈音楽のこと〉〈本のこと〉の三章に分けられています。〈日々のこと〉ではあらゆるものへ軽やかにつっこみ、添えられたイラストは愛らしく、〈音楽のこと〉では独特で事細かな紹介文に「そんな言葉の表現方法があるのか!!」と驚き、〈本のこと〉では紹介する本への著者の愛着心と、その本の素晴らしさがぐっと伝わってきました。
〈日々のこと〉の中で毎度読むたびに笑ってしまう「肉眼ではね」というエピソードがお気に入りです。「あ、太った?」「肉眼ではね」、「お金払ってないよね?」「肉眼ではね」と様々なシチュエーションで便利に使える言葉なのではないかと考えを膨らませてしまう、というお話です。
その他にも、誰もが何となく日々心の内に秘めている疑問について書かれているお話があります。共感できるものが多いほど、自分にもこんな出来事が起こったり、こんな気持ちになることがあるのだと毎日が楽しくなりそうです。エッセイ集を読んだだけで著者のことをきちんと理解できたわけではありませんが、そこは何を言われても「肉眼ではね!」と今回は言ってみたいです(笑)。
タイトルの「まにまに」……もし“つい口にしたくなる言葉ランキング”があったら、きっと私の中では上位にランクインするであろう言葉です。タイトルって大事ですね。
本と音楽
バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。