「キモカワイイ」外見で一部から高い人気を誇るクマムシ。実は地球最強ともいえるものすごい生命力をもっている生物でもあります。この記事では、彼らの生態や脅威の耐性、弱点、寿命などを解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。
体長は50μm(マイクロメートル)から1.7mmほどと、非常に小さなクマムシ。名前に「ムシ」と付いているものの昆虫ではありません。「緩歩動物門(かんぽどうぶつもん)」に分類される生物の総称で、1000種類以上の存在が確認されています。
名前の由来は、4対の太い肢を使って歩く姿が熊のように見えるから。英名は「Water bear」といいます。
生息地は海や池といった水の中をはじめ、高山、熱帯雨林、南極や北極、都市部でも路上の苔などに暮らしている、実はとても身近な生物です。
食性もさまざまで、藻や苔を食べる草食性のものもいれば、微生物を食べる肉食性のものもいます。なかには他のクマムシを食べる種類もいるのだとか。
生態についてはいまだ不明なことも多いですが、最大の特徴はその生命力の強さです。ここから詳しく紹介していきましょう。
クマムシは、生息地に水分が無くなると、体内の水分を3%以下に減らして「乾眠状態」になります。干からびて動かなくなるのですが、この状態から、彼らが最強と呼ばれる生命力を発揮するのです。
乾眠状態に入った個体は、マイナス273℃の低温から150℃の高温まで耐えることができます。さらに水深1万mの75倍に相当する圧力や、真空など、あらゆる極限状態に対応が可能です。
2007年には、乾眠状態のクマムシを宇宙空間に直接10日間さらす実験がおこなわれました。その結果、地球に帰還した後、一部ではありますが復活した個体がいたのです。このことから、クマムシは地球外の環境でも生存できる生命体として、宇宙生物学における重要な研究対象となっています。
また乾眠状態でない時も、放射線に対して非常に高い耐性をもっていることがわかっています。オニクマムシなど一部の種は5000~7000グレイのガンマ線に耐えられるそうです。人間の致死量が約10グレイだということを踏まえると、その異常さがわかるでしょう。
乾眠状態になるような乾燥のストレスに耐えられる生体は、DNA損傷や酸化損傷などを克服する構造をもっているとされていて、このシステムが放射線への耐性を上げていると考えられています。
尋常ではない耐性をもつクマムシですが、1度乾眠状態になると、周囲に水分のある環境が無いと元の状態に戻ることはできません。そのため乾眠状態のまま放置されれば、寿命を迎えて死んでしまいます。
また自然環境下では、肉食性のセンチュウや他種のクマムシに捕食されることもあり、通常時は外からの攻撃や圧力に強くはありません。
さらに、カビなどに感染して死ぬこともあるため、水質など環境にもデリケートだと考えられています。最強なのはあくまでも乾眠状態の時のみだといえるでしょう。
種類によって差異はありますが、クマムシの寿命は1か月~1年ほどと、決して長いわけではありません。ただ乾眠状態になると約9年生きることができるそうです。2016年には30年間の乾眠から復活し、そのうえ繁殖にも成功したという研究が発表されました。
その他、ネムリユスリカやヒルガタワムシ、シーモンキーなどという生物が、クマムシと同じように極限状態になると活動を停止し、その後復活する性質をもっています。
これらは乾眠に移行する過程で、体内に「トレハロース」という糖を蓄積し、分子の運動を制限して組織を保持するために生き続けることができると考えられています。ドイツの研究では、乾眠能力のあるシーエレガンスを使い、トレハロースを蓄積できない状況でも乾眠できるのか試されました。その結果、細胞内のミトコンドリアの脂質膜が破損したり、タンパク質の異常な凝縮が起きたりして、死滅しています。
一方でクマムシは、トレハロースを大量に蓄積することができません。そのため長い間乾眠のメカニズムが不明でしたが、2017年に乾眠状態でのみ天然変異タンパク質を作り出す特殊な遺伝子をもっていることが判明しました。
クマムシのこの遺伝子は、応用すればワクチンや薬剤の保存などに役立てられると考えられていて、研究が進められています。
- 著者
- 堀川 大樹
- 出版日
- 2017-02-24
世界でも数少ない、クマムシ専門の生物学者として知られる堀川大樹の作品です。
とにかくその魅力に触れてほしいと熱意が込められていて、採取した苔から観察する方法や、標本の作り方、人工的に乾眠させる方法までさまざまな情報が載っています。
実際に堀川がクマムシを飼育した際の苦労話を読めるのもおすすめポイントです。肉眼では見えないほど小さな生物なので、その過程を知ると気が遠くなってしまうかもしれません。
かわいらしいイラストも数多くあり、文体も親しみやすいものなので、小学生でも読むことができるでしょう。楽しくクマムシの生態を学べるおすすめの1冊です。
- 著者
- ミクロ生物選定委員会
- 出版日
- 2015-09-02
「不気味」「不思議」「奇妙」という観点から被写体を選び、走査電子顕微鏡で撮影したミクロ生物の写真集です。
まるで地球外生命体のような奇怪な姿の生物たち。クマムシをはじめ、彼らは実は肉眼で見えていないだけで、我々の生活している環境にも数多く存在しているという事実に驚くでしょう。
ちなみに本書の写真には鮮やかな色がついていますが、走査電子顕微鏡で撮影した画像はモノクロのため、色付けは後からおこなったとのこと。実際の色みとは異なる部分もあるかもしれませんが、見ごたえ十分です。