三津田信三のおすすめ作品5選!ホラーとミステリーの融合!

更新:2021.12.14

本格ミステリ大賞を受賞したことでも知られる三津田信三。作風は、怪奇譚と推理小説を融合させるなど、非常に特徴的です。今回は、三津田信三のおすすめ作品5選をご紹介します。

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魅惑のホラーミステリ作家、三津田信三とは?

奈良県出身。デビューは、2001年。幼少期より、ミステリに親しみ、江戸川乱歩やジュール・ヴェルヌなどの作品を読んでいたそうです。やがてガストン・ルルーとA・A・ミルンといった、海外の本格ミステリ作品に夢中になっていきます。三津田がホラーに興味を持ったのは、大学に入ってからだそうです。

子どもの頃や大学時代の読書習慣が、ホラーとミステリを合わせたような独特の作風に繋がったのでしょう。

編集者を経て、作家デビューを果たします。ホラーとミステリが融合した唯一無二の作風は高い評価を受け、2010年には『水魑の如き沈むもの』で第10回本格ミステリ大賞を受賞しました。

1. 主人公は作家・三津田信三!?『忌館 ホラー作家の棲む家』

デビュー作の本作では、「三津田信三」という作者と同名の作家が登場。現実で起きた事件と、作家が書いた小説の事件が絡み合うストーリーが魅力的な作品です。

著者
三津田 信三
出版日
2008-07-15


編集者であり、作家としても活動する三津田信三は、近所を散歩中、洋館を発見します。洋館は、以前から興味を持っていた「ハーフ・ティンバー様式」という建築技法で造られています。洋館の雰囲気に魅せられた三津田は、洋館の不動産屋を探し当て、購入を決意します。

しかし、洋館に住み始めてから、彼の周りで奇妙な出来事が起こり始めます。さらに奇妙なことは、これらの出来事が、三津田がちょうど購入していた、ハーフ・ティンバー様式の屋敷を舞台とした怪奇小説『忌む家』の内容とリンクしていたのです。

『忌館 ホラー作家の棲む家』は、主人公である三津田が体験した現実と、作中の怪奇作品『忌む家』で起こる出来事とが絡み合い、現実と小説との境界線が曖昧になっている点が魅力的です。驚くべきことに、なんと物語で書かれた大半のことが実際にあったことだそうです。どこまで事実で物語かは、作者の三津田にしかわかりません。

読者の現実世界すら侵食してくるような感覚が味わえる、極上のホラーミステリ作品です。

2. 最後まで「?」が残る『厭魅の如き憑くもの』

流浪の幻想小説家・刀城言耶を語り手とする作品。「憑き物落とし」を行う家系で起こる殺人事件が題材です。

著者
三津田 信三
出版日
2009-03-13


山奥の集落・神々櫛村では、2つの家が対立関係にありました。ひとつは「黒の家」と呼ばれる憑き物筋の谺呀治家、もうひとつは「白の家」と呼ばれる神櫛家です。「白の家」神櫛家は、憑き物筋ではありません。

「黒の家」谺呀治家の娘・紗霧(さぎり)は、巫女として祖母・叉霧(さぎり)の憑き物落としを手伝っていました。叉霧は、依代(よりしろ。神霊が依りつくもの)の紙人形に憑き物を移し、いつものように、孫の紗霧に川に流しに行かせます。川に依代を流した帰り道、紗霧はなにかの気配を感じますが、戻るまで決して振り返ってはいけないという決まりから、振り返ることができません。増大していく恐怖の中で、憑き物がついてきているのかもしれないと思った紗霧は、左肩越しに振り返りますが、なにもいませんでした。それ以降、紗霧の周りで、奇妙な出来事が起こり始めます。

同じ頃、憑き物筋の古い家系に興味を持った幻想小説家・刀城言耶が、神々櫛村を訪れます。そのすぐあと、山伏(山野に住み、修行を行う者)の遺体が発見されます。遺体はなぜか、神々櫛村で祀られる山神「カカシ様」の姿をしていました。小説家・刀城は、両家に起こる事件に巻き込まれていくことになります…。

物語の視点は、次々と移り変わり、本当に異形のもののしわざなのか、それとも人間のしわざなのか、最後の1頁を読むまでわかりません。それぞれの視点から描かれることのよって生み出される、互いに少し噛み合わない現実が、作品の不気味さや、現実離れした雰囲気を作り出しています。

よくある探偵小説のように、探偵が鮮やかに真相を言い当てるのではなく、ひとつひとつの仮説を吟味して真相に辿り着くというスタイルを取っており、読者も共に推理に参加することができることも魅力的です。

作品自体に最大の仕掛けが施されていますので、ぜひ実際に読んで確認してみてくださいね!

3. コミュ力低めなスーパー探偵『十三の呪』

人の「死相」をみるという特殊能力を持つ、死相学探偵・弦矢俊一郎が探偵事務所を訪れる様々な依頼人の事件を解決していくというストーリー。

著者
三津田 信三
出版日
2008-06-25


東京・神保町の雑居ビルの中にある「弦矢俊一郎探偵事務所」。所長の弦矢俊一郎は、まだ年若い青年で、ある理由から、探偵事務所を開いたばかりでした。

事務所に初めての依頼人・内藤紗綾香がやって来ます。しかし、俊一郎は、依頼人を見るなり「帰ってくれませんか」と言い放ちます。彼はとにかく人付き合いが苦手なのでした。

俊一郎が依頼人に帰るように言ったのには、もう一つ理由がありました。俊一郎は生まれつき、人の「死相」を視ることができます。祖父母の提案で、その力を活かすために探偵事務所は開かれたのですが、依頼人の「死相」がみえなければ、なにもできません。依頼人の紗綾香には、「死相」がみえなかったのです。

ふたたび紗綾香が俊一郎の元を訪れたとき、彼女の肌には「死相」がうごめいていました。俊一郎は不思議に思い、紗綾香の依頼を引き受けることにしますが…。

本作はホラー要素が強くなっていますが、三津田作品には珍しくライトで読みやすくなっています。作品の読みやすさには、主人公・俊一郎のキャラクター性が一役買っているのでしょう。彼は、生まれつきの能力のせいもあり、人とうまく関われません。唯一の友達は、飼い猫の「僕」だけ。探偵事務所を訪れる様々な人たちと関わることで、だんだんと心を開き、他人への関心を見せていきます。本ホラーミステリ作品中には、決して完璧ではない俊一郎の人間としての成長も描かれているのです。また、俊一郎が、猫の「僕」のことを「僕にゃん」というかわいい愛称で呼ぶことも俊一郎に親しみを覚えます。

三津田信三の作品を読むのが初めてという方にも、おすすめの作品です。

4. 数々の怪奇現象が12歳の少年を襲う『禍家』

とある家の怪奇現象を題材とした作品です。完全なホラー作品となっています。

著者
三津田 信三
出版日
2013-11-22


両親が亡くなり、祖母と郊外に引っ越して来た12歳の貢太郎。初めての土地であるはずなのに、なぜか過去に来たことがあると感じます。近所の老人には、「ぼうず、おかえり」と声をかけられます。不気味に思う貢太郎でしたが、新しく住み始めた家でも次々と怪奇現象が起こります。しかし、一緒に住んでいる祖母は特になにも感じていません。

ある日、貢太郎は同じ年頃の礼奈という少女と友達になります。彼女は貢太郎の体験している怪奇現象を知ります。貢太郎と怜奈は、礼奈の兄の家庭教師・詩美絵と共に、貢太郎の家を調べ始めます…。

『禍家』は、これまで紹介した作品と違い、純粋なホラー作品となっています。主人公の貢太郎は、新しく住む家で何度も怪奇現象に見舞われます。読者の想像を掻き立てるシーンがたっぷりと詰まっています。怪奇現象に尋常でないほどの恐怖を表す貢太郎の様子が、本作品の恐怖をより強力にしています。

超自然的な怪奇現象の恐怖が、人間の狂気が作り出す恐怖へと変化していくところが読み所です。

三津田の描くホラー世界を存分に堪能したい人に、おすすめの作品です。

5. 板野友美主演映画の原作!『のぞきめ』

同じ場所で起こった2つの怪異体験を、作家である「僕」が本として書いていくというスタイル。本作は、板野友美主演で映画化もされました。

著者
三津田 信三
出版日
2015-03-25


作家の「僕」は、以前、編集者をしていたときから、怪奇譚や怪異体験の話を収集していました。集めた話は、本として作品にすることもありましたが、ある話だけは発表できずにいたのです。

そんな「僕」のところに、ライター・南雲から1冊のノートが送られてきます。ノートは、南雲は何年も民俗学者・四十澤想一の元に通い、盗まれたもの。悩んだ末、「僕」は読まずにノートを返却します。

時は経ち、四十澤が亡くなり、弁護士から、正式にノートを譲りわたすと書かれた手紙と共にノートが送られてきました。遂に読むことになったノートには、「のぞきめ」という怪異が記されていました。「僕」は「のぞきめ」が、発表できずにいた「覗き屋敷の怪」という話と、同じ場所で起こった話であると気がつきます…。

主人公である「僕」は、名前こそ明かされないものの、元編集者の三津田との共通点があります。実際に、三津田本人が見聞きしたかのように受け取れる作品となっています。

作家「僕」の視点と同じ立場で読み進めていけるというのが、魅力です。作中作として語られる「のぞきめ」とはなんなのか、「僕」とともに考察していくのも面白いかもしれませんね。

純粋なホラー作品から本格ミステリまで楽しめるのが、三津田作品の魅力です。ぜひ一度作品を手にとって、独特な作風を堪能してみてください。

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