日本三大名探偵と言えば、江戸川乱歩の明智小五郎、横溝正史の金田一耕助、そして高木彬光の神津恭介です。今回は、高木彬光の作品の中でも、神津恭介の活躍する作品の中から、オススメ5選をご紹介します。
高木彬光(たかぎあきみつ)は、日本を代表する推理小説作家。彼のデビューには、次のようなエピソードがあります。
1920年9月25日、青森の医者の非嫡出子として誕生。学生時代に家は破産、一家離散を経験します。卒業後、航空機・航空エンジン会社に就職しますが、終戦を迎えると同時に失業します。
興味のあった易者になら、元手もかからずになれるのではないかと思った彼は、実際に何人かの易者にみてもらいます。そこで小説、それもできるだけ長い作品を書くことを勧められます。一気に探偵小説を書きあげたものの、紙事情の悪い当時、新人作家の作品は見向きもされません。
再度易者に話したところ、その道の巨匠に送ってみれば、年内には結果が出るだろうとのこと。江戸川乱歩に作品を送りますが、12月31日になっても便りはありません。
大晦日、家を飛び出した高木彬光ですが、夜中に自宅へ戻ると妻から差し出された一通の速達。それは待ちに待った乱歩からの便りで、易者の予言は時間ぎりぎりに的中したのでした。
この日から高木彬光は日本推理小説界へ、その一歩を踏み出したのです。
- 著者
- 高木 彬光
- 出版日
- 2013-10-08
本作は、江戸川乱歩に絶賛された長編作品であり、高木の処女作でもあります。1947年に発表され、神津恭介のデビュー作にもなっています。
背中に見事な刺青を持った女性・野村絹枝が、自宅の浴室で殺害されているのが発見されます。しかし、現場は完全な密室となっている上に、胴体が持ち出されており、残されていたのは首と手足のみ。現場には大きなナメクジが一匹、不気味に這い回っています…。
日本家屋は、構造上、密室トリックは不向きと言われていました。天井や床下からだと、どこの部屋にも出入り可能だからです。
しかし、本作品では、現場を浴室にすることで、その難問をクリア。もちろん、トリックのためだけに浴室を現場に設定したわけではありません。犯行現場が浴室だったり、胴体がなくなっているのには理由があります。
長身の美男子で、19歳にして六か国語を操る天才・神津恭介が登場するのは、物語の後半から。すぐに鮮やかな推理が冴えわたり、犯人を追い詰めます。
- 著者
- 高木 彬光
- 出版日
1949年に発表された短編作品。もともとは、探偵作家クラブ(現在の日本推理作家協会)で行われた「新春犯人捜し」のために書かれた作品です。
ホテルで、一人の妖婦が殺されます。事件当時、彼女は部屋にしっかりと鍵をかけていた上に、廊下では一晩中、3人の男性が交代で番をしていました。完璧な密室の中で、どういった状況で、犯人は犯行に及んだのでしょうか。
本作品の特徴の一つは、もともとが「犯人当て」のために書かれた作品のため、謎解きが非常にフェアに作られていることです。提示された条件から、犯人はただ一人に絞り込めることができます。
余談ですが、食糧事情の悪い当時を反映して、正解者には「鶏」が景品として用意されていました。誰も当てられなければ、出題者の高木彬光が鶏をもらえることになっていましたが、一人だけ犯人名を指摘した参加者がいたため、鶏はその方に進呈されたそうです。
- 著者
- 高木 彬光
- 出版日
1951年に発表された短編作品。神津恭介と彼のワトソン役・松下研三が、一高在学中に起こった事件が書かれています。
大東亜戦争直前、時計台から消えた一人の学生。残されたのは、マントと輪になった手拭いのみ。現れた一高生の偽物らしき男も、忽然と姿を消します。そして、事件は悲劇的な展開へ…。
忍び寄る戦争の影という中、学生時代の神津恭介と松下研三の若いエネルギーが溢れています。
タイトルの「犯罪」とはなんなのか、神津恭介たちはなにを守ろうとしたのか。当時の暗い時代性を色濃く反映する青春小説としても、貴重な作品となっています。
- 著者
- 高木 彬光
- 出版日
- 2006-04-12
本作は、1955年に発表された長編作品です。
新作マジック発表会で盗まれた、マジック用の人形の首。後日、人形の首は、首のない遺体とともに発見されます。次に起こる殺人事件の際にも、人形が列車に轢かれる事件が、事件に先行して発生します。
なぜ犯人は人間だけはなく、人形を「殺した」のでしょうか。それにはもちろん、必然性があります。このことに気づいたときに、悪魔のような犯人が誰なのか分かります。
本作品は、現在では実行不能なトリックが使われていますので、当時の雰囲気とあわせて楽しんでみてはいかがでしょうか。
なお、「読者への挑戦状」がついていますので、ぜひ仕掛けられた「謎」に挑戦してみてください。
- 著者
- 高木 彬光
- 出版日
- 2005-12-02
1958年に発表された長編作品。神津恭介が入院した際に、松下研三とともに暇つぶしのため、義経がジンギスカンと同一人物であるかどうかを推理していきます。
完全なベッド・ディテクティヴとなった神津恭介を中心に、肯定する説と、否定する説を織り交ぜて物語は進みます。高木の相当な研究量が伺えます。単なる推理小説を超えた、歴史推理小説と言えるでしょう。
また、本作品で登場する大麻鎮子と、女性嫌いの神津恭介の間にロマンスが芽生えそうな文面も読みどころの一つです。
当初15章まででしたが、指摘された矛盾点などに対する回答と、読者から届いた手紙の内容を書いた16章が追加されました。
終戦と同時に、日本推理小説界へ華々しいデビューを飾った高木彬光。彼が生み出した、神津恭介の活躍する小説の中からオススメを5本、選んでみました!当時の生活形態は、現在とは違いますが、それでも、真の名探偵はいつまでも色褪せず、輝き続けます。