細長い体と愛くるしい表情が魅力のテン。その見た目からイタチやオコジョと混同されることもあるようです。この記事では、生態や種類ごとの特徴、イタチとの見分け方、人間との関わりなどを解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
ネコ目イタチ科に分類される哺乳類。体長は40~55cm、体重は1~1.5kgと比較的小型です。イタチとよく似た体型をしていて、細長い体とふさふさとした尻尾が特徴です。
日本国内でもっとも姿を見ることができる「ホンドテン」は、もともと固有種として本州や四国、九州に生息していました。人の手によって移入され、現在は北海道と佐渡島にも生息しています。低山地から標高3000mほどの高山域で生活し、ネズミなどの小型哺乳類のほか、昆虫や果実も食べる雑食です。
木登りが得意で、森を立体的に利用して狩りをするのが特徴です。木の幹や枝はもちろん、幅の狭いフェンスの上も器用に歩いて移動します。夜行性のため狩りも夜間におこなうことが多く、樹上で眠っている野鳥やモモンガ、ムササビなどを襲うこともあるそうです。
基本的には単居性で、行動範囲は1平方kmほどです。同じテンの仲間だけでなく、イタチと行動域が重なることが多いですが、餌を変えることでうまく棲み分けをしています。寿命は10年ほどです。
日本国内には、3種のテンが生息しています。それぞれの特徴を紹介しましょう。
ホンドテン
国内では本州や四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島にも生息している種類です。
夏は、体の大半が赤褐色や暗褐色の毛で覆われていて、足先と顔は黒色です。一方で冬には顔と尾の先が白くなり、体は黄色や褐色の毛で覆われます。
冬毛の色は個体によって異なり、黄色のものを「キテン」、褐色のものを「スステン」と呼びわけることもあるそうです。
ツシマテン
長崎県の対馬に生息する固有種で、国の天然記念物に指定されています。夏は体が茶褐色で、足先と顔は黒色、冬は体が淡い黄色で顔が白色になります。
全体的な色見はホンドテンよりも薄く、喉から胸にかけて斑紋があるのが特徴です。
クロテン
国内では北海道のみ、国外では中国やモンゴル、韓国、ロシアに生息している種類です。
黒褐色の体毛で、ヨーロッパやアジアでは「セーブル」というもっとも高級な毛皮のひとつとされています。
イタチとテンは同じネコ目イタチ科に分類される動物で、胴体が長くて足が短いという体型も似ているため、しばしば混同されることがあります。
この2種の見分け方として、まずは大きさの違いがあります。国内に生息するニホンイタチは、体長が25~35cm、体重もオスが300~650g、メスが115~175gと、テンに比べて小柄です。またイタチの毛は季節ごとに生え変わるわけではないので、1年をとおしてほぼ同じ体色をしています。
さらに、イタチは泳ぎが得意で水中生活に適応しており、耳が小さく手足の指の間に水かきをもっているのが特徴です。
食性にも違いがあります。両者とも雑食ですが、イタチは肉だけでなく動物の血も好むため、生餌を食べることが多く、テンよりも糞が臭くなります。
ツシマテンは、国の天然記念物に指定されているだけでなく、環境省のレッドリストで絶滅危惧種に指定されています。
一方でホンドテンは、さほど繁殖能力は高くないものの、外敵が少ないことから個体数が増加しやすい傾向にあり、人為的に持ち込まれた佐渡島では生態系を崩す国内外来種として注目されています。特に2010年には、保護センターにいたトキを襲って9羽を殺してしまい、大きな問題となりました。
冬になると人間の生活圏までやってくる個体も少なくないため、農作物や家畜などが襲われる被害も報告されています。
さらに、体が細長いことからイタチ同様に民家の屋根裏に入り込み、そのまま繁殖してしまったり、糞尿の悪臭を放ったりすることもあるそうです。
ただホンドテンのなかでも「キテン」の毛皮は昔から高級品として扱われていて、現在でもマフラーなどに使用され高値で販売されています。かつてはその価値の高さから奪い合いが懸念され、猟師の間で「テン狩りは2人で行くな」と言われていたほどです。
良くも悪くも、人間と深い関わりがある動物だといえるでしょう。
- 著者
- 富士元 寿彦
- 出版日
- 2005-02-01
クロテンの亜種で、生息数の少ないエゾクロテンの越冬の様子を追った写真集です。
テンは「森の妖精」と呼ばれることもあり、本書ではかわいらしさを凝縮した写真が満載で、さまざまな表情を見ることができます。
毛皮目的で乱獲された過去から、人間への警戒心が強くほとんど姿を見ることができない本種。冬眠をせず1年中活動するそうですが、冬季は妊娠期間に入ることからメスをとらえるのは特に難しいそうです。貴重な姿に癒されながらも、野生動物のたくましさも感じることができるでしょう。
一人称のキャプションもついていて、生態についてもしっかりと学ぶことができる作品です。
- 著者
- 出版日
- 2014-06-18
人気の「小学館の図鑑NEO」シリーズ。約730種類もの哺乳類を掲載し、なかでも日本の哺乳類はすべて網羅している、圧巻の情報量です。
そもそも哺乳類とはどんな生き物なのかという説明から、子育ての仕方や体のつくりなど、基本的なことを解説しています。
またそれぞれの種についても、特徴を紹介するだけでなく、足跡などプラスアルファの知識を与えてくれるのが嬉しいところです。
テンについても、糞の大きさなど興味深い情報が掲載されています。フィールドワークへ誘う試みもあり、子どもの好奇心を引き出す工夫がされているのが特徴です。
さらに、日本に生息するコウモリの分布など凝った情報も載っており、子どもだけでなく大人も楽しめる内容になっています。