『「子供を殺してください」という親たち』をネタバレ紹介!家族が抱える社会問題

更新:2021.12.1

統合失調症により暴力を振るう子供。手に追いきれなくなった親は、ある場所に「ある依頼」をします。それは……「子供を殺してください」という本音を湾曲的に表現したもの。 なぜ我が子を殺してくれと頼むまでになってしまったのか。悲壮な家庭が抱えた問題に切り込んでいく、ドキュメンタリー作品が『「子供を殺してください」という親たち』。実際にあったケースを元に、日本の抱える家族間の闇を、センセーショナルに描いています。 今回はそんな本作のコミック版の見所をご紹介します。ネタバレも含まれますので、ご注意ください。

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漫画『「子供を殺してください」という親たち』を読もう!考えさせられるリアルがそこにある【あらすじ】

 

株式会社トキワ精神保健事務所の所長・押川剛(おしかわたけし)と、スタッフ・実吉あかね(さねよしあかね)。彼らは依頼のあった各家庭に赴き、社会性に問題があるとされる子供達の様子を見て回っては、社会復帰のためのサポートをおこなっていました。

しかし子供達と親が抱えている問題は一筋縄ではいかず、その内情は必ずしもよい方向へと向かうとは限りません。

それでも、1人でも多くの子供達が更生できるよう、押川達は各家庭を訪れるのでした。

 

著者
押川剛
出版日
2017-08-09
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作品紹介!この本の見所とは?

作品の見所とは?

本作はノンフィクション作品を下地にした漫画で、実際にあった事例を踏まえて各家庭の親子同士の問題を取り上げています。そして、両親や親族からの依頼を受けて、それを解消する事が、主人公である押川達の目的です。

しかしながら実話を元にしている内容だけに、すべての事例が必ず「めでたしめでたし」というわけにはいきません。本作の見所は、その思うようにいかない、リアルなやるせなさにあるといえるでしょう。

そして漫画作品になり、鈴木マサカズのリアルな描写、引き込ませる展開を織り交ぜたことで、より読者の心に迫ってくる内容となっています。

出典:『「子供を殺してください」という親たち』1巻

本作に登場する問題があるとされる子供達は、概ね何かしらの精神的な「障害」を抱えてた子たち。先天的な個人としての人格ももちろんありますが、統合失調症やアルコール依存症といった後天的な要因によって社会性を失ってしまった人物も、多く登場します。

そんな彼らは、知的な問題ではなく、精神的な問題によって異常性を持ってしまっているのです。その程度はさまざまで、冷静に会話自体がおこなえない程に情緒不安定な場合もあれば、感情の起伏はそこまで目立たないものの、どこか非常識な行動が目立つといったものまであります。

押川達には、そうした一概ではない子供達を相手に、社会復帰に向かうよう適切な対応をすることが求められるのです。

 


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出典:『「子供を殺してください」という親たち』1巻

精神的な疾患を持っている人間と相対するというのは、そう簡単な事ではありません。もちろん、押川達はプロとして彼らと接しますので、決して私情による対応はおこなわないように注意しています。

しかし、相手は自身の言い分が正当かそうでないかに関わらず、他者の考えを冷静に聞き入れる事が出来ない精神状態であることは、共通しているのです。

そんな彼らを、頭ごなしに理論詰めで説得するのは反感を買うかもしれませんし、かといって親身になり過ぎるのも適切ではありません。そのきわめて適度なバランスを探りながら、まるでネゴシエーションのように、相手を更生へと差し向ける必要があるのです。

出典:『「子供を殺してください」という親たち』1巻

作中で描かれるその様子は実にスリリングで、一歩間違えば、逆上した子供達から襲い掛かられないとも限りません。

そして、やっと彼らから、介抱に向かいたい旨の言葉を引き出したとしても、それが必ず約束通り果たされるとは限らないのです。

そんな1件1件が難解さを持ち合わせた事例で、かつハッピーエンドとは限らないという不条理さが、読みごたえ抜群の見応えであるといえるでしょう。

漫画『「子供を殺してください」という親たち』1巻の考えさせられるエピソードをネタバレ紹介

ここからは各単行本のあらすじと、考えさせられるエピソードについてご紹介していきます。

本巻に収録されているのは、大学の法学部への受験に失敗した事から統合失調症になってしまった青年、本来の気質と父親の躾の悪さからアルコール依存症になってしまった男性、そして統合失調症患者であり、家族に対する執拗な虐待を続けるようになってしまった女性の話が収録されています。

著者
押川剛
出版日
2017-08-09

 

そんな本巻の見所は、2組目の事例である、アルコール依存症になってしまった男性のエピソードです。

彼は幼少期から昆虫をいたぶり殺して笑っていたり、成人してからも酒を飲んでは飲酒運転をくり返して事故を起こしたりといった、精神的に異常で酒癖に関してはとにかく手の施しようのない人物だといえるでしょう。

しかし、その背景にはエリート意識の強さと、度を越した傲慢さを持つ父親の振る舞いがありました。彼はそんな父親の素行を見て、しっかりとその資質を引き継いでしまったのです。

子供が抱えている問題の原因が、すべて親にあるというわけではありません。しかし、このケースに関していえば、まさしく「この親にして、この子あり」という言葉がしっくりくる事例でしょう。親の立場として読んでも、子の立場として読んでも、考えさせられる内容であるといえるのではないでしょうか。

彼は、果たしてアルコール依存から抜け出すことができるのでしょうか。

 

漫画『「子供を殺してください」という親たち』2巻の考えさせられるエピソードをネタバレ紹介

2巻では、1巻の後半に収録されていた、家族への虐待をおこなう女性と、うつ病を発症してから自宅に引きこもり、母親への執拗な暴力行為におよぶようになった青年の話が引き続き語られています。

いずれの話も、主に攻撃の標的は抵抗する意思の薄い母親に向けられており、母親はそのせいで精神的に追い詰められている様子が描かれています。

しかし、この2つのケースは、読後感にかなりの違いがあり、その結末も大きく異なるのです。

著者
出版日
2018-01-09

 

本巻の見所は、この2つのケースの違いにあるといえるでしょう。

どちらも、家族に対する攻撃的な症状を取り上げています。ですが、前者の女性については、妹からのサポートを継続して受け続けてはいるものの、結局社会性を取り戻すまでには至らず、本当の意味で更生することはできません。

対して後者の男性については、入院と施設への入所をくり返した結果、家族との繋がりも途絶え、しだいに孤独になってしまいます。しかし、それが結果として、彼のそれまでのおこないを想起させる事に繋がり、いつしか社会性も改善していったのでした。

同じ家族を傷つけてきた者のエピソードでありながら、ここまでスッキリ感に違いがある内容を収録していることから、家族というものを考えさせられる一冊であると感じられます。このようなケースに正解はなく、それゆえに非常に難しいことであるというのが、あらためてわかるでしょう。

 

漫画『「子供を殺してください」という親たち』3巻の考えさせられるエピソードをネタバレ紹介

本巻では、結果として依頼まで至らなかったケースと、ストーカー行為に走るようになってしまった青年の話が収録されています。

依頼まで至らなかったケースについてのエピソードは、短い内容ではありますが、最後にはなんと殺人事件にまで発展してしまうという衝撃的な内容。また、ストーカー行為におよぶようになった青年の話については、ストーカーの心理が的確に描かれており、考えさせられる内容です。

「子供を殺してください」という親たち (BUNCH COMICS)

2018年06月09日
["押川剛", "鈴木マサカズ"]
新潮社

3巻で考えさせられる話といえば、どちらかといえば前者の依頼まで至らなかったケースではないでしょうか。こちらは、問題となった子供と押川達の接触は、ほぼありません。

息子の入院を望む父親と、息子を「かわいそう」と言って泣く母親。一見どちらも子供を想っているように見えるのですが、押川は、彼らが子供のことをしっかりと見ていないと気づきます。

両親に愛情を注がれ、両親の言うことを聞き、まっすぐに育ってきたはずだった息子。一体、何に問題があって、このような事態となってしまったのでしょうか。

このケースでは、親が依頼を出さなかった理由が、愛情からではなく、経済面や世間体であるという点が、異常性を感じさせます。ここにも、最悪の事態を招いてしまった一因があるのでしょう。

明らかに正常な親子の姿ではない事がわかりますが、仮にどうしていれば最後の哀しい結末を避ける事が出来たのだろうという答えを見つけるのは一筋縄ではいかず、考えずにはいられないエピソードです。

漫画『「子供を殺してください」という親たち』4巻の考えさせられるエピソードをネタバレ紹介

 

本巻では、前巻で登場した薬物中毒患者の続編が描かれます。押川の元を訪れた薬物中毒患者、通称・キヨさん。普通を装って話していましたが、その手は禁断症状で震えていました。そんな彼の様子を見て、自分達にまだ隠していることがあると、押川は感じるのですが……。

またその他に、依頼に至らなかったケース、事務所史上で最悪のクリスマスなど、本巻も波乱の予感です。

押川達は、これらをどのように対処するのでしょうか。注目の最新巻。

 

「子供を殺してください」という親たち 4巻 (バンチコミックス)

押川剛 (著), 鈴木マサカズ (著)
新潮社

 

本巻でもっとも考えさせられるエピソードといえば、朋子の姉のケースでしょう。

ある日、朋子という女性が事務所に相談へやってきます。しばらく母親と連絡が取れず不安だという彼女。その原因は、自分の姉にあるのではないか、と朋子は言うのです。

彼女の姉は、大学受験の失敗を機に引きこもるようになりました。それ以前から人に物を投げたり、人のカバンに生理用品を詰めたりするなどの奇行・暴力行為が目立っていましたが、引きこもってからは、それがさらに顕著に出るようになっていったのです。

近所の人から覗かれていると言ったり、母親から毒を盛られていると言ったり……それは統合失調症の症状であるように感じられました。そこで押川達は、彼女の実家の様子を見に行くのですが、そこで見たのは窓の締め切られた異様な雰囲気の家で……。

こうした家庭内だけにとどまっている問題には、行政や病院は動きにくいというのが現状なのだそう。しかし今回の朋子の姉のケースの場合、姉は明らかに病気で、その暴力性は近所の人からも認知されていました。

何か決定的な事件が起きない限り、行政や病院が動きにくいというのも、わかる気はします。しかし、その何かが起こってから動くのでは遅いのです。そうしたケースの対処に関しては、もっと国が積極的に考えて実行しなければならないのでは、と考えずにはいられないでしょう。

また、どうして子供が引きこもってしまうのか、その原因は家族にもあると押川は言います。今回の朋子達は、まさにそうした引きこもりの子供を生む典型的な家族だったのです。引きこもりの大きな原因が受験の失敗でなく、家族にあったというのも、読んでいて考えさせられる点でしょう。

 

『「子供を殺してください」という親たち』を実質無料で読む

現代の問題に大きく踏み込んだ内容の『「子供を殺してください」という親たち』。本作は実話を元に描かれており、決して人ごとではありません。もしかしたら知り合いも……自分だって、もしかしたら将来は……。そんなふうに考えながら、読んでみてください。

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