トカゲらしい見た目と飼育のしやすさから、ペットとして人気が出てきたフトアゴヒゲトカゲ。この記事では、生態や種類ごとの特徴、飼育方法、繁殖方法などを解説していきます。あわせてもっと彼らへの理解を深められるおすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
アガマ科アゴヒゲトカゲ属に分類される爬虫類です。体長は45~50cmほどで、そのうちの約半分をしっぽが占めています。
下顎から喉にかけて棘状の鱗があり、興奮すると喉を膨らませて外敵を威嚇したり、発情期に黒く発色させたりする様子が顎髭に見えることから、「フトアゴヒゲトカゲ」と名付けられました。
野生ではオーストラリアの東部から南部に生息しています。地上にいることが多いですが木登りもうまく、幹にしがみついている姿もよく見られます。昼行性で、夜間は藪や木の穴などに身を隠して休んでいるそうです。
雑食で、主に昆虫を捕食しています。ただ食欲が旺盛な個体は小型のトカゲを食べることもあるため、飼育をする場合には注意が必要でしょう。
基本的には穏やかな性格をしていますが、縄張り意識が強く、時おり自分のテリトリーを主張するために、頭を上下に振る「ボビング」という行動をとります。またお互いの様子を観察しあうなど、社会性を感じさせる行動をとることもあるそうです。
寿命は、野生下だと2~3年です。これは天寿をまっとうする前に捕食されてしまうことが多いからだそうで、飼育下であれば8~11年と、比較的長生きだといえるでしょう。
オーストラリアでは、動物園などの限られた施設を除いて自国の野生動物を輸出することを禁止しています。そのため日本でペットとして流通している個体は、すべて飼育下で繁殖されたものです。
フトアゴヒゲトカゲの場合は、特定の特徴をもつ個体を交配することで野生には存在しない色や柄などの形質を表現系として固定することができ、それを「モルフ」と呼んでいます。では代表的なモルフと、その特徴を紹介していきましょう。
ハイポメラニスティック
体内の色素のうち黒色が減少した種類。他の色素が強調され、オレンジ色や赤褐色、白色などが強く出ることが多いそうです。
また通常のフトアゴヒゲトカゲの爪は黒いのですが、ハイポの場合は透明です。そのため「クリアネイル」と呼ばれることもあります。
リューシスティック
全身が白く、ほとんど模様も入っていないのが特徴です。ハイポメラニスティックの表現のひとつとして表れるもので、白い個体同士を交配しない限り誕生が難しいとされています。
トランスルーセント
「半透明」という意味をもつトランスルーセント。皮膚がやや透けている特徴的な外見をしています。白色の色素が欠損していて、幼体の時は特に皮膚が薄いため、青黒く見える個体もいます。
ゼロ
幼体の時から白い体色をしていて、模様もほとんどありません。完全版リューシスティックと呼ばれることもあり、個体数が少ないため高額となっています。
ジャーマンジャイアント
色素ではなく大きさに注目して改良された種類。最大65cmほどまで成長するとされていて、1度に50個の卵を産むことができます。
丈夫なため、産卵数を増やすために他の個体と掛け合わせることも多いようです。
レザーバック
名前のとおり、背中の鱗のキメが細かく均一なため、革製品のようななめらかな手触りをしているのが特徴です。凹凸が少ないため地肌の色が濃く見え、他の個体よりも鮮やかな色あいをしていることが多いそう。
代表種であるイタリアンレザーバック同士を交配すると、4分の1の割合で「シルクバック」と呼ばれる鱗のない種類が誕生します。
ペットとして飼育されるトカゲのなかでは比較的体が大きいうえ、地上を平面移動するので、大型のゲージが必要です。個体の大きさにあわせて、幼体時は40cm×20cm、成体時では90cm×45cm以上が望ましいでしょう。ガラスの水槽を利用する場合は、天井から逃げてしまわないように金網で蓋をするなどの工夫をしてください。
ケージの底には、床面積の3分の1から2分の1ほどの大きさのパネル型のヒーターを設置し、その上からデザートサンドなど乾燥した砂漠の環境に近い床材を敷きます。よく糞をするため、砂の中に溜まった排泄物は毎日取り除いて、清潔な環境を保ってください。
ヒーターとは別に、白熱電球を用いて体温を保ってあげましょう。火傷をしないようにケージの上部に設置してください。
浅くて安定した形のエサ皿、水飲み皿、体を隠すことができるシェルターも必要です。エサは、専用に作られたペレットや野菜のほか、ハニーワーム、シルクワームなどの昆虫がおすすめです。 また半樹上性のため、登って遊べるような流木を入れてあげると喜ぶでしょう。
野生の個体は、日光浴をして紫外線を浴びることで、骨格形成に必要なビタミンD3を合成しています。飼育下でも紫外線を照射できるランプを設置して「バスキング(日光浴)スポット」を作り、1日12時間ほどは浴びることができる環境を作ってください。
成体の値段は8千円~3万円代が多く、飼育が難しい幼体ほど安くなる傾向にあります。ただ希少な種類は10万円を超えることもあるようです。
生後8か月頃になると生殖機能が成熟しますが、繁殖自体は1歳を過ぎてからが望ましいとされています。
発情期は春先で、寒さが和らいでくると交尾を始めるため、飼育下ではケージ内の温度を下げて疑似的に冬を体験させ、その後温めると繁殖を誘発させることができるのです。これを「クーリング」と呼びます。
クーリングは、11月下旬頃になって気温が下がってきたら夜間のケージ内の温度を15度前後にし、2~3か月様子を見た後に元の温度に戻すという手順でおこなうと、個体への負担が少なくなるでしょう。
クーリングが終わったらオスとメスを同じケージに入れ、交尾をさせます。交尾が無事に終わるとメスの食欲が倍増し、1~2週間後には腹部が膨らんでくるでしょう。その後エサを食べずに床材を掘るような仕草が見られるようになったら、産卵が近い合図です。黒土や川砂を20cm以上敷いた産卵箱に移してあげてください。
産み落とされた卵は、孵卵ケースに入れます。温度は28~30度、湿度は80~90%に保ち、2か月ほど待つと孵ります。
孵化したばかりの幼体は、ひと晩経ったらキッチンペーパーやペットシーツを敷いた飼育容器に移動させます。エサは1日に2回、5~10分で食べ終わる量が目安です。与えすぎても吐いてしまうので、食欲をみて調整してください。
- 著者
- ["フィリップ ド ヴォージョリ", "ロバート メイロー", "スーザン ドノヒュー", "ロジャー クリンゲンバーグ", "ジェリー コール"]
- 出版日
- 2012-03-31
健康な個体の選び方、エサや飼育環境、さらには健康管理の仕方などが詳細に解説されている飼育マニュアルです。
ひとつひとつの情報が細かいのが特徴です。たとえば個体の選び方であれば、目の位置や排出腔の状態、避けるべき行動の特徴などが記されています。
さらには、冬眠の兆候が見られる場合はどのような対処をするべきか、災害時はどうすればいいかなど、知らないとパニックを起こしてしまいそうなことも載っているので、初心者から上級者まで、フトアゴヒゲトカゲを飼育するすべての方におすすめの1冊です。
- 著者
- 愛のフトアゴ暮らし推進委員会
- 出版日
- 2012-08-06
カラー写真を豊富に用いてフトアゴヒゲトカゲの飼育方法を解説し、ベビー、ヤング、アダルトとライフステージに分けて説明しています。
愛好家の飼育例が写真付きで紹介されているので、ケージレイアウトの参考にするのもよいでしょう。実際にフトアゴヒゲトカゲと暮らしている方の生の声は勉強になるはずです。
写真が多いので、パラパラと眺めているだけでも楽しめる1冊です。
穏やかな性格で体も丈夫なため、ペットとして人気が出てきたフトアゴヒゲトカゲ。そうはいってもまだそこまで飼育頭数が多いわけではないので、何かあっても周囲に相談しづらいかもしれません。紹介した2冊の本はどちらも飼育に役立つ情報が載っているので、ぜひ参考にしてみてください。