儒教において、孔子に次ぐ重要人物だとされている孟子(もうし)。この記事では、彼の人物像や「性善説」のほか、よく比較される荀子(じゅんし)との違い、名言などを紹介していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。
紀元前の中国で生まれ、今日でも東アジアに広く根付いている「儒教」。孟子は、そんな儒教の思想をつくり、広めていった儒学者のひとりです。
孟子は、儒教の始祖とされる孔子が亡くなってからおよ100年後の紀元前372年頃に生まれたとされています。教育熱心な母親に育てられ、孔子の孫にあたる子思(しし)の門下で学問を修めました。
その後、梁や斉の王のもとへ遊説をして回りましたが、プライドが高かったため、自らを王の臣下ではなく師であり賓客であると考えていたそう。自分が王のもとに行くのは何かを進言したい時だけだとし、もし自分に用事や聞きたいことがあるならば、呼び出すのではなく王自ら足を運ぶべきだという態度をとっていました。
その主義は徹底していて、斉の宣王が孟子と話したいことがあるものの病気で王宮を出ることができなかった際も、孟子は断っています。
彼らが生きていたのは戦国時代の真っ只中で、「戦国の七雄」と呼ばれる国々が戦いに明け暮れていました。なかでももっとも強大だったのが、後に天下統一を果たす「秦」という国です。他の国は、秦と手を結ぶべきか、秦以外の6国で同盟を結ぶべきかをめぐり、激しい駆け引きをおこなっていました。
そんな情勢のなかで孔子が掲げていた儒教はあまりにも理想主義的で、人々への影響を薄めていきます。孟子は、孔子の唱えていた「仁義」を頑なに掲げ続けましたが、彼らの教えは当時はさほど評価されなかったそうです。
ただ孟子の死後1000年ほどが経った唐中期に、文人の韓愈(かんゆ)によって、多くの弟子を育て、戦国時代に孔子の思想を守り発展させた功績が広まります。それ以降、孟子は歴史上の重要人物として知られるようになりました。
1071年には、孟子の弟子たちが編纂した書物『孟子』が科挙の試験科目に取り入れられます。1083年には「鄒国公」という位を追贈され、孔子と並んで祭られるようになりました。さらに1330年には「亜聖公」となって「亜聖」と呼ばれるようになり、孔子の「後継者」を自任していた孟子は、名実ともに聖人と呼ばれた孔子に次ぐ存在となったのです。
孟子の主張として有名なのが、「性善説」です。「性」とは、人間の本質のこと。孟子は「本来人間は、先天的に善なる存在であるが、放っておくと悪をおこなうようにもなる。そのため、努力をして聖人の教えや礼をしっかり身に着けることが大切だ」と唱えました。
また孟子は、人間には「四端の心」が備わっていると説きました。「端」は兆しという意味で、4つの善なる心の兆しがあるということです。
・惻隠…他者の苦境を見逃すことができない心
・羞悪…不正を恥じる心
・辞譲…他人に譲りへりくだる心
・是非…善悪を判断する心
この4つは、それぞれが努力して拡充していくと、孔子の唱えた「仁」「義」「礼」「智」に到達するとされました。
孟子とよく比較されるのが、荀子(じゅんし)という人物です。紀元前313年頃に生まれたとされ、「性悪説」を唱えました。
ここでいう「悪」とは、「さまざまな欲望にかられてしまう弱い存在」という意味。性悪説は、「本来人間は弱い存在であるが、努力をして善を学ぶことで礼儀を正すことはできる」と説いています。
性善説を唱えた孟子も、「四端の心」はあくまでも善なる心の「兆し」だとしていて、「努力しなければならない」ということは双方に共通しているといえるでしょう。
ちなみに荀子の言葉としては、「青は藍より出て藍より青し」が有名です。「藍草で染めた布は藍草よりも鮮やかな青色になる」ことを師匠と弟子の関係になぞらえ、「学問や努力によって、本来もって生まれた資質を越えることができる」と説きました。
では、孟子が遺した名言や教えを紹介していきましょう。
「木に縁りて魚を求む」
木に登っていくら魚を探しても見つかるはずがないように、どれほど努力してもその方法が誤っていれば目的のものを得ることはできないという教えです。
目標をもてば、気力は自然と湧きあがってくるものであるという意味です。
「五十歩百歩」
隣国よりも善い政治をしていると考えていた梁の恵王を戒めた孟子の言葉です。戦において50歩逃げた兵が、逃げたこと自体は変わらないのに100歩逃げた兵を臆病者と笑った滑稽さをたとえました。
「至誠にして動かざる者は、未だ之れ有らざるなり」
誠の心をもって尽くせば、動かなかった人など今まで誰もいないという意味。日本では吉田松陰の言葉として有名です。
- 著者
- 出版日
- 1968-02-16
本書では、孔子が亡くなってから孟子が生まれるまでの約100年間の社会背景を俯瞰し、孟子が青年期や壮年期などのそれぞれの時期に抱いていた思想をわかりやすく解説しています。
原文のほか、訓読文や現代語訳も収録。孟子が生きたのは、紀元前の争いが絶えない戦国時代と、今を生きる私たちとはかかけ離れたもの。それでも大いに心に響くのが不思議です。ぜひ孟子の思想に触れてみてください。
- 著者
- 川口雅昭
- 出版日
- 2014-01-18
江戸時代末期、後に明治維新を成しとげる多くの志士たちを輩出したのが、吉田松陰という人物です。彼は野山獄と呼ばれる牢屋に入っていた時、他の囚人たちに孟子の講義をおこなっていたそう。彼の教えは、維新への萌芽となっていったのです。
本書は、そんな松陰の講義録にもとづき、松陰の解釈で猛威を学ぶことができる作品です。当時の日本人の心にも響いた教えをぜひ読んでみてください。