妖怪はかせを育成したい(育てゲー)【山本裕子】

妖怪はかせを育成したい(育てゲー)【山本裕子】

更新:2021.12.4

あのー、むすこを妖怪はかせにしたい、と。別に、一生涯を妖怪研究に捧げる的な、マジであれな『妖怪博士』じゃなくて、せいぜい、保育園でいちばん妖怪の名前を言えるぜ~的な、友だちに「おーい、ようかいはかせ!」て呼ばれるくらいでいいんですけど。

ブックカルテ リンク

何の季節感もなく、妖怪の話で恐縮ですが。

あのー、うちのお子4歳・保育園年少がですね、ようやくひらがなを読めるようになって。

活字中毒の親としては、そりゃやっぱ、お子にも立派なジャンキーになってほしいじゃないですか。カエルの子はカエル。親子もろとも、活字地獄へレッツラゴーですよ。

わんぱくでもいい、たくましく、かつ、本好きに育ってほしい。

いや今どき、とにかく本をいっぱい読みゃあ、末は博士か大臣か~みたいなことは言いませんよ。言いませんけど、でも、本すら満足に読めねえオトコじゃどーしよーもねーよなくらいの偏見は持っています。きわめて個人的な好みとして。

できることなら、図書館や書店が大好きな、メガネの似合う、立派な読書男子(それでいて本職はバリバリの理系、とかだったら萌える)に育ってほしいものです。

おのれの萌えポイントはどうでもいいんだった。お子の話だった。

で、妖怪はかせ、どうかなと思って。

ほら、小さい子って、すぐなんでも名前覚えちゃうじゃないですか。トミカが好きな子がものすごい量の車種を言えたりとか。プラレールにはまって、あらゆる電車に精通したのち、やがて立派なてっちゃんになったりとか。

そういう、何の役に立つんだかよくわからん知識をたくさん蓄えて、小さな脳髄を夢中でフル回転させてんの、なんかかわいくないっすか。あれ、適当すぎますか。

そこで。『妖怪はかせ』をご提案してみようと。これなら親(つまり私ですが)も喜んで参戦しましょう。全プリキュア55人覚える、とか、すでに800種以上いるポケモンを覚える、とか、そんな現世の拷問をお子が思いつかないうちに!

で、撒き餌をまいてみました。妖怪のでてくる絵本を5冊、ある日さりげなく並べてみた。

その中で、ガツンとえらいあたりがきたのが、こちら。

妖怪えほん「とうふこぞう」

著者
京極 夏彦
出版日
2015-03-02

おばけはこわい。こわくてねむれない。

なにかがまどからのぞいているぞ。

なにかがへやにはいってきたぞ。

ふとんのうえにのっかった!

それは……!

まあタイトルどおり、とうふこぞうなんですけど。

「豆腐小僧」は、江戸時代の草双紙や怪談本に多く登場する妖怪で、双六やかるた、凧の絵柄などにも用いられていた、当時の人気キャラクターです。

大きい頭に竹笠をかぶり、紅葉豆腐を乗せた丸盆を持っている少年の姿で描かれます。

そんな、舌をちょろりと出したとうふこぞうが、ただただおとうふ見せて、帰っていく話。

怪談専門誌「幽」編集長の東雅夫が企画・監修を務める「京極夏彦の怪談えほん」シリーズの「笑」の巻。シリーズのコンセプトは、読者である子どもたちが「絵本の中でリアルに妖怪と出会う」こと。

たしかに、どのお話も、むかしむかしあるところに~的な妖怪譚ではなくて、現在の子どもが主人公であり、それぞれ妖怪(あるいはそれのあらわす事象)に遭遇するので、えほんとはいえ、絵柄も相まって、案外、じわじわと、こわいんすよ。

その中で、この「とうふこぞう」は「笑」の巻というだけあって、ほっこりと癒やし系。

物語前半にじわじわ怖さを盛り上げたのちの、とうふこぞうのキュートさったら。


出典:妖怪えほん「とうふこぞう」

そもそもが人に害をなしたり怖がらせたりする妖怪ではないので、お子たちのファースト妖怪に最適です。子どもの姿してるしな。

うちの4歳、すごい食いつきました。HIT!!

連日、もっかい!もっかい読んで!と、繰り返し繰り返し、ちょっとマジ勘弁というくらい読み返して、ページめくる前から次書いてあるセリフ言って、それでも毎回きゃあきゃあ笑っています。すげえな、とうふ。

これを入り口に他の妖怪にも興味を持った様子、裏表紙の見返しに載っている他の巻「うぶめ」「つくもがみ」「あずきとぎ」「ことりぞ」にも興味津々です。入れ食いです。

オッケー、アタイ、この瞬間を待ってた。

ここでヘタうって、妖怪つながりでウォッチに行っちゃったり、怖すぎるやつ見せて拒絶されたりしたら、計画がおじゃん(死語)だ。

慎重に、慎重に。

「……実はかあちゃんさ、うぶめが載ってる、ひみつの本持ってるんだけどさ、みる?」

「みるーーー!!」

こどもはひみつに食いつきますね。では、マジなやつ、投下します。ほい。

「鳥山石燕 画図百鬼夜行」

著者
["鳥山 石燕", "稲田 篤信", "田中 直日"]
出版日
1992-12-01

1992年国書刊行会発行。B5判350ページ。定価7600円(税抜)。な、本気やで。

妖怪画の原点ともいえる、江戸中期の絵師・鳥山石燕の代表作「百鬼夜行」4部作を完全収録。

安永年間に刊行された原本は、1ページにひとつずつ、妖怪の姿と名前を表示する、妖怪図鑑のような形ですが、本書ではさらに、それぞれの妖怪について解説をつけてくれています。ご親切にありがとう!

ちなみに、こちらが件の「うぶめ」(姑獲鳥)です。

出典:「画図百鬼夜行」

以下、監修の高田衛氏による冒頭の「序にかえて」から。

鳥山石燕は、「画図百鬼夜行」の自跋で、「詩は人心の物に感じて声を発するところ、画はまた無声の詩とかや、形ありて声なし、そのことごとによりて情をおこし感を催す」と書いている。
(中略)
画人石燕にとっては、一枚一枚の妖怪画が、とりもなおさず彼自身の声なき詩であったのである。

妖怪画の持つこの風情、まさに、詩ですよ。妖怪は、大人の楽しみですよ。強めのお酒なめながら、じっくり鑑賞したいところです。

出典:「画図百鬼夜行」

ちなみにこれは、垢なめ。超かわええ。元祖てへぺろ。

すてきな本でしょ。ぜひ一家に1冊置きたいところでしょ。

早速購入を考えた方、すみません、これ、現在まさかの品切れで増刷未定とのことです。なんと。

でもだいじょうぶマイフレンド。

角川文庫になってました。いつの間に。

「鳥山石燕 画図百鬼夜行全画集」 

著者
鳥山 石燕
出版日
2005-07-23

上の本と比べると、絵が小さくなっちゃうのと、妖怪の解説がないのが残念ですが、石燕の妖怪画の持つ雰囲気を楽しむには、これでも必要にして十分。

なんと言っても、これならいつでもポッケに入れて持ち歩けますからね。ウィスパーの妖怪Padみたいなもんだ。うぃすッ!

で、やはり、子どもに図鑑はハズレなしということで、だめ押しに、こちらも。

「カラー版 妖怪画談」

著者
水木 しげる
出版日
1992-07-20

安定の、御大・水木せんせいでがっちり固めますよ。

妖しいものどもがカラーでずらずら大行進です。もちろん1個1個解説つき。お腹いっぱい。ページをめくってもめくっても、緻密な水木画。いっそあれだ、贅沢だ。

前出の石燕の百鬼夜行を下敷きにしたものもたくさんあります。

出典:「妖怪画談」
出典:「妖怪画談」

石燕の「ぬっぺっぽう」と、水木せんせいの「ぬっぺほふ」。

妖怪絵師のパイセン、石燕の描いた絵柄を継承し、イメージを変えずに水木世界に投入です。そんで、カラーになると、気持ち悪さ増大。

さらに、民俗学研究・民間伝承で得られた文字上の情報をもとに、水木せんせいが姿かたち、色を与えて、視覚的に創り出した妖怪たちが、ものすごく多い。

ただの創作、ではないのでね。バックボーンがあっての創出。やはりすばらしいですよ。もう、ちょっと、おかしいですよ。

こちら、わたしの一番好きな「松の精霊」。

出典:「妖怪画談」

なにこの愛嬌。なんで顔青いの。なんで半目。元になってる物語にも、とくにその辺の記述はないのにさ!

でも、松の木を見るたびに、この2人が頭に浮かぶようになってしまった。水木せんせいの呪いです。

こちら、続編の「続 妖怪画談」もありますので、合わせてどうぞ。 

お子ですが、先日、夫とお風呂で、あずきとごうか、人とって喰おうか、しょきしょき~、と歌ってるのが聞こえてきました。

あ、これ、あずきとぎ、という音の妖怪が、橋の下で歌うといわれている歌なんですけどね。風情があるなあ。

立派な妖怪はかせ目指して、これからもがんばります。

そのうち、お年頃になって、ハロウィーンの仮装をしたいとか言い出したら、とうふこぞうの扮装もいいな。おとうふ持って街歩くの。両手ふさがっててお菓子貰いづらいったら。

ではまた来月。

この記事が含まれる特集

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る