あのー、むすこを妖怪はかせにしたい、と。別に、一生涯を妖怪研究に捧げる的な、マジであれな『妖怪博士』じゃなくて、せいぜい、保育園でいちばん妖怪の名前を言えるぜ~的な、友だちに「おーい、ようかいはかせ!」て呼ばれるくらいでいいんですけど。
何の季節感もなく、妖怪の話で恐縮ですが。
あのー、うちのお子4歳・保育園年少がですね、ようやくひらがなを読めるようになって。
活字中毒の親としては、そりゃやっぱ、お子にも立派なジャンキーになってほしいじゃないですか。カエルの子はカエル。親子もろとも、活字地獄へレッツラゴーですよ。
わんぱくでもいい、たくましく、かつ、本好きに育ってほしい。
いや今どき、とにかく本をいっぱい読みゃあ、末は博士か大臣か~みたいなことは言いませんよ。言いませんけど、でも、本すら満足に読めねえオトコじゃどーしよーもねーよなくらいの偏見は持っています。きわめて個人的な好みとして。
できることなら、図書館や書店が大好きな、メガネの似合う、立派な読書男子(それでいて本職はバリバリの理系、とかだったら萌える)に育ってほしいものです。
おのれの萌えポイントはどうでもいいんだった。お子の話だった。
で、妖怪はかせ、どうかなと思って。
ほら、小さい子って、すぐなんでも名前覚えちゃうじゃないですか。トミカが好きな子がものすごい量の車種を言えたりとか。プラレールにはまって、あらゆる電車に精通したのち、やがて立派なてっちゃんになったりとか。
そういう、何の役に立つんだかよくわからん知識をたくさん蓄えて、小さな脳髄を夢中でフル回転させてんの、なんかかわいくないっすか。あれ、適当すぎますか。
そこで。『妖怪はかせ』をご提案してみようと。これなら親(つまり私ですが)も喜んで参戦しましょう。全プリキュア55人覚える、とか、すでに800種以上いるポケモンを覚える、とか、そんな現世の拷問をお子が思いつかないうちに!
で、撒き餌をまいてみました。妖怪のでてくる絵本を5冊、ある日さりげなく並べてみた。
その中で、ガツンとえらいあたりがきたのが、こちら。
- 著者
- 京極 夏彦
- 出版日
- 2015-03-02
おばけはこわい。こわくてねむれない。
なにかがまどからのぞいているぞ。
なにかがへやにはいってきたぞ。
ふとんのうえにのっかった!
それは……!
まあタイトルどおり、とうふこぞうなんですけど。
「豆腐小僧」は、江戸時代の草双紙や怪談本に多く登場する妖怪で、双六やかるた、凧の絵柄などにも用いられていた、当時の人気キャラクターです。
大きい頭に竹笠をかぶり、紅葉豆腐を乗せた丸盆を持っている少年の姿で描かれます。
そんな、舌をちょろりと出したとうふこぞうが、ただただおとうふ見せて、帰っていく話。
怪談専門誌「幽」編集長の東雅夫が企画・監修を務める「京極夏彦の怪談えほん」シリーズの「笑」の巻。シリーズのコンセプトは、読者である子どもたちが「絵本の中でリアルに妖怪と出会う」こと。
たしかに、どのお話も、むかしむかしあるところに~的な妖怪譚ではなくて、現在の子どもが主人公であり、それぞれ妖怪(あるいはそれのあらわす事象)に遭遇するので、えほんとはいえ、絵柄も相まって、案外、じわじわと、こわいんすよ。
その中で、この「とうふこぞう」は「笑」の巻というだけあって、ほっこりと癒やし系。
物語前半にじわじわ怖さを盛り上げたのちの、とうふこぞうのキュートさったら。
そもそもが人に害をなしたり怖がらせたりする妖怪ではないので、お子たちのファースト妖怪に最適です。子どもの姿してるしな。
うちの4歳、すごい食いつきました。HIT!!
連日、もっかい!もっかい読んで!と、繰り返し繰り返し、ちょっとマジ勘弁というくらい読み返して、ページめくる前から次書いてあるセリフ言って、それでも毎回きゃあきゃあ笑っています。すげえな、とうふ。
これを入り口に他の妖怪にも興味を持った様子、裏表紙の見返しに載っている他の巻「うぶめ」「つくもがみ」「あずきとぎ」「ことりぞ」にも興味津々です。入れ食いです。
オッケー、アタイ、この瞬間を待ってた。
ここでヘタうって、妖怪つながりでウォッチに行っちゃったり、怖すぎるやつ見せて拒絶されたりしたら、計画がおじゃん(死語)だ。
慎重に、慎重に。
「……実はかあちゃんさ、うぶめが載ってる、ひみつの本持ってるんだけどさ、みる?」
「みるーーー!!」
こどもはひみつに食いつきますね。では、マジなやつ、投下します。ほい。
- 著者
- ["鳥山 石燕", "稲田 篤信", "田中 直日"]
- 出版日
- 1992-12-01
1992年国書刊行会発行。B5判350ページ。定価7600円(税抜)。な、本気やで。
妖怪画の原点ともいえる、江戸中期の絵師・鳥山石燕の代表作「百鬼夜行」4部作を完全収録。
安永年間に刊行された原本は、1ページにひとつずつ、妖怪の姿と名前を表示する、妖怪図鑑のような形ですが、本書ではさらに、それぞれの妖怪について解説をつけてくれています。ご親切にありがとう!
ちなみに、こちらが件の「うぶめ」(姑獲鳥)です。
以下、監修の高田衛氏による冒頭の「序にかえて」から。
鳥山石燕は、「画図百鬼夜行」の自跋で、「詩は人心の物に感じて声を発するところ、画はまた無声の詩とかや、形ありて声なし、そのことごとによりて情をおこし感を催す」と書いている。
(中略)
画人石燕にとっては、一枚一枚の妖怪画が、とりもなおさず彼自身の声なき詩であったのである。
妖怪画の持つこの風情、まさに、詩ですよ。妖怪は、大人の楽しみですよ。強めのお酒なめながら、じっくり鑑賞したいところです。
ちなみにこれは、垢なめ。超かわええ。元祖てへぺろ。
すてきな本でしょ。ぜひ一家に1冊置きたいところでしょ。
早速購入を考えた方、すみません、これ、現在まさかの品切れで増刷未定とのことです。なんと。
でもだいじょうぶマイフレンド。
角川文庫になってました。いつの間に。
- 著者
- 鳥山 石燕
- 出版日
- 2005-07-23
上の本と比べると、絵が小さくなっちゃうのと、妖怪の解説がないのが残念ですが、石燕の妖怪画の持つ雰囲気を楽しむには、これでも必要にして十分。
なんと言っても、これならいつでもポッケに入れて持ち歩けますからね。ウィスパーの妖怪Padみたいなもんだ。うぃすッ!
で、やはり、子どもに図鑑はハズレなしということで、だめ押しに、こちらも。
- 著者
- 水木 しげる
- 出版日
- 1992-07-20
安定の、御大・水木せんせいでがっちり固めますよ。
妖しいものどもがカラーでずらずら大行進です。もちろん1個1個解説つき。お腹いっぱい。ページをめくってもめくっても、緻密な水木画。いっそあれだ、贅沢だ。
前出の石燕の百鬼夜行を下敷きにしたものもたくさんあります。
石燕の「ぬっぺっぽう」と、水木せんせいの「ぬっぺほふ」。
妖怪絵師のパイセン、石燕の描いた絵柄を継承し、イメージを変えずに水木世界に投入です。そんで、カラーになると、気持ち悪さ増大。
さらに、民俗学研究・民間伝承で得られた文字上の情報をもとに、水木せんせいが姿かたち、色を与えて、視覚的に創り出した妖怪たちが、ものすごく多い。
ただの創作、ではないのでね。バックボーンがあっての創出。やはりすばらしいですよ。もう、ちょっと、おかしいですよ。
こちら、わたしの一番好きな「松の精霊」。
なにこの愛嬌。なんで顔青いの。なんで半目。元になってる物語にも、とくにその辺の記述はないのにさ!
でも、松の木を見るたびに、この2人が頭に浮かぶようになってしまった。水木せんせいの呪いです。
こちら、続編の「続 妖怪画談」もありますので、合わせてどうぞ。
お子ですが、先日、夫とお風呂で、あずきとごうか、人とって喰おうか、しょきしょき~、と歌ってるのが聞こえてきました。
あ、これ、あずきとぎ、という音の妖怪が、橋の下で歌うといわれている歌なんですけどね。風情があるなあ。
立派な妖怪はかせ目指して、これからもがんばります。
そのうち、お年頃になって、ハロウィーンの仮装をしたいとか言い出したら、とうふこぞうの扮装もいいな。おとうふ持って街歩くの。両手ふさがっててお菓子貰いづらいったら。
ではまた来月。
やまゆうのなまぬる子育て
劇団・青年団所属の俳優山本裕子さんがお気に入りの本をご紹介。