原作小説『後妻業』6つの魅力をネタバレ解説!恐ろしい悪女の物語がドラマ化

更新:2018.12.11

身近に高齢者がいなければ無関係、とはいえないのが高齢化問題です。さまざまな社会問題が浮上するなか、高齢者の遺産を狙った犯罪も世間を賑わせました。『後妻業』は、まさしく高齢化社会だからこそ生まれた作品といえるでしょう。 2019年1月にドラマ化される本作。そんな本作の6つの魅力をご紹介いたします。ネタバレ注意です。

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原作小説『後妻業』のあらすじを紹介!言葉の意味とは?【2018年1月ドラマ化】

 

本作は、老人を狙った犯罪を描いた作品です。「別冊文藝春秋」に2012年3月号から連載が開始され、2014年8月に単行本が発売されました。

高齢者を取り巻く実情を描いた本作は、作中に出てきたような事件が実際に起こったことでも話題となりました。そういった意味では、かなりリアルな内容であるといえるでしょう。

後妻の意味は、離婚、もしくは死別によってひとりになった老人と結婚した新しい妻ということ。そんな寂しさを持った人物の心の隙間にとりいって財産を奪うのが後妻業なのです。

 

著者
黒川 博行
出版日
2016-06-10

 

妻に先立たれた91歳の中瀬耕造は、結婚相談所で知り合った22歳年下の小夜子と結婚をしました。しかし、ある日彼は脳梗塞で倒れ、そのまま病院で亡くなってしまいます。

彼の家族が悲しみに暮れるなか、小夜子はその遺産をすべて手に入れるため、協力者の男とともに着々と作業を進めていくのです。

実は、結婚相談所の所長・柏木亨と小夜子はグル。小夜子は耕造と結婚する以前に、すでに9人の男性との結婚歴があり、そのいずれも旦那が死亡。莫大な遺産を手に入れていたのでした。

今回も順調にいくと思いきや、耕造の2人の娘が弁護士に相談したことから、小夜子と柏木の計画は少しずつ狂っていくのです。

サスペンス要素の強い作品ではありますが、舞台が大阪という事もあり、交わされる言葉は軽快な大阪弁。重いテーマでありながら、町や人の描写が生き生きとしており、活力が感じられます。

本作は『後妻業の女』というタイトルで、2016年に映画が公開されました。大竹しのぶと豊川悦司の犯人コンビに加え、尾野真千子や笑福亭鶴瓶が出演するブラックコメディ―作品となっています。

2019年1月22日より放送されるドラマでは、木村佳乃が主演。高橋克典、木村多江、伊原剛志らの出演が発表されています。

 

作者・黒川博行を紹介!

黒川博行(くろかわ ひろゆき)は、1949年3月4日生まれ、愛媛県今治市の出身です。

6歳から大阪に住んでおり、現在も大阪在住とのこと。京都市立芸術大学美術学部彫刻科を卒業後、スーパーに勤務。学生結婚をした妻が教員となったこともあり、その後自身も教員免許を取得し、高校で美術教師として勤務していたという、風変わりな経歴の持ち主です。

暇つぶしで書き始めたという小説ですが、1983年『二度のお別れ』がサントリーミステリー大賞佳作を受賞し、小説家デビュー。その後『キャッツアイころがった』で、サントリーミステリー大賞を受賞しました。

著者
黒川 博行
出版日
2016-11-25

ハードボイルドやサスペンス系の作品を数多く手掛けており、建設コンサルタントの二宮とヤクザの桑原がコンビを組む「疫病神」シリーズなどで人気を博します。しかし、直木賞などの大きな賞の候補に挙がるもののなかなか受賞には至らず、仕事に手が付かなくなることもあったのだとか。

そんななかで、2014年に「疫病神」シリーズの1作である『破門』で、念願だった直木三十五賞を受賞しました。なお、二足のわらじ生活が苦しくなったこともあり、1987年に教師の職を辞し、専業作家になっています。

『後妻業』の魅力1:クセの強い登場人物たちを紹介!

 

本作の登場人物たちは、とにかくクセが強く、個性的。それぞれ性格は違いますが、強欲で金の盲者という共通点を持っています。

まずは、高齢男性を次々と手玉に取り、後妻に収まっているという小夜子。69歳でホスト通いが趣味。全身ブランドの品で飾り立てるという外見からも、その強欲さが窺えます。

彼女は結婚相談所を経営する柏木と結託し、会員となっている高齢男性から、その資産を巻き上げるという犯罪をおこなっていました。これまで9人もの犠牲者を出しており、柏木は後妻業で稼いだお金をホステスにつぎ込んでいるようです。

一蓮托生である2人の関係は、密接かと思いきや、かなり険悪。しかし利害が一致しているため、協力関係にあります。

小夜子が後妻となった耕造の娘・朋美尚子は、遺産を独占されてしまうと弁護士の守谷に相談。そして弁護士に依頼されて柏木と小夜子の過去や犯罪を暴いていくのが、私立探偵・本多芳則。犯罪者である2人を追い詰めていくのだから、正義の人かと思いきや、なんとそんなことはありません。

彼は元刑事ですが、警察内部の情報をヤクザに流していたことがバレて、退職することになった人物。そんな彼は、昔の人脈を使って小夜子と柏木の経歴を洗っていきます。

そして、小夜子が後妻となった後に結婚相手が必ず死亡しているという事実を突き止めた後、これは金になると、小夜子や柏木をゆすり始めるのでした。

とにかく、金を中心に人間関係が回っている本作。本性をむき出しにするというよりも、金のため冷静に損得勘定をするという行動が、人間の恐ろしさを物語っています。

小夜子と柏木、そして秘密を握った本多に加え、小夜子の弟で元ヤクザの黒澤博司や、不動産王の舟山喜春が登場。事態はさらに混迷をきわめていくのでした。

行動は完全に犯罪であり、人間の本音や欲深いところに不快感を抱く読者もいるでしょう。しかし舞台が大阪という事もあり、登場人物の大半が大阪弁で話しているため、どこか愛嬌が感じられてしまうはず。もしかしたら、そこも作者の計算なのかもしれません。

 

『後妻業』の魅力2:小夜子の手口が恐ろしい!

 

小夜子は妻を亡くした高齢男性の後妻になり、その夫が亡くなった後に遺産を総取りするという犯罪をおこなっています。高齢男性と結婚をするのだから、夫となる人がすぐに死んでしまっても年齢的にはおかしくないのかもしれません。

しかし、彼女が妻となった人物は、1人2人といった少ない数ではないのです。

柏木の経営する結婚相談所を通じて結婚相手を探すのですが、この時にどのくらいの資産を持っているのか、家族関係なども精査され、ターゲットが決定されます。あとは小夜子の腕しだい。

連れ合いを亡くした男性に言葉巧みに近づき、その心に入り込む手管は、まさに見事。裏切ることを前提に近づいている以上、稀代の悪女といえるでしょう。あとは夫となる人に「公正証書遺言」を書かせてしまえば、ほぼ遺産は彼女のものになります。

公正証書遺言とは、公証役場で公証人立会いのもとに作成される遺言書のこと。もっとも効力があるもので、覆すことは困難です。本作では耕造の娘たちが法定相続人となるので、本来相続できる遺産の半分の額を遺留分として請求しようと行動することで、小夜子たちの思惑から外れる展開となりました。

妻となり、公正証書遺言を作成させる。それだけが小夜子の仕事ではありません。当たり前ですが、そう都合よく人が亡くなるわけがなく、薬を入れ替えたり、調子が悪くなったところを放置するなど、なるべく事故死や病死に見えるよう手を加えているのでした。

警察は保険金が絡んでいなければ事件性が低いと判断し、捜査を簡単に済ませてしまうそうで、そんな事情も考慮しての計画なのでしょう。

彼女のように直接手を加えるということはないにせよ、高齢男性を狙った犯罪というのは実際多いようです。

ちょうど本作の単行本が発売されたころ、7人もの夫や交際相手の男性に青酸化合物を飲ませ、遺産目当てで殺害していたという衝撃的な事件が発覚しました。「後妻業」という言葉が世間に知られたのも、この事件が大きなきっかけだったといえるでしょう。

ちなみに小夜子は、耕造の内縁の妻です。なぜ籍をいれなかったのかといえば、前の夫の遺族年金を貰っているからなのだとか。事実は小説より奇なりといいますが、小夜子だけではなく、どんな手段をとっても金を獲得しようとする人は、実際に存在するのです。

 

『後妻業』の魅力3:金の亡者ばかり!悪巧みが広がる展開

 

本作に登場する金の亡者は、小夜子と柏木だけではありません。

被害者の子どもである朋美や、悪事を暴くために雇われた私立探偵の本多も、お金に対して貪欲な姿を見せます。きっかけは耕造が亡くなり、小夜子が公正証書遺言を遺族に突きつけ、遺産は自分の物だと主張したことでした。

内縁の妻という女が、遺産はすべて自分の物だと主張をするなど、当然納得できるものではありません。姉妹は知人の弁護士の守屋を頼り、小夜子が詐欺師であることを確信します。そんな小夜子の悪行を暴くために登場するのが、元警察官という肩書を持つ本多でした。

彼は長年の勘から、これは金になる案件であることを嗅ぎ分けます。守屋や朋美の依頼通り、小夜子と柏木の関係や過去の事件を洗い、そのすべてを明かしました。守屋は遺留分の請求をおこなうのと同時に、マスコミなどを使って小夜子たちにお金を払わせ、なおかつ警察も動かそうと計画します。

しかし本多は、朋美たちが請求した以上の金を調査資料の代わりに受け取ろうと、取引を持ち掛けていたのです。その請求額は、3千万円。柏木は本多の存在を消すために、物理的な手段に出ますが失敗。しかし、本多に渡したお金の大半は紙の束であったところが、彼の抜け目のなさでしょう。

結局本多に3千万円を支払う約束をしてしまうのですが、その間に柏木は愛人のホステス達や、本多の襲撃を依頼した黒澤に金を支払いました。本多の金になる案件への嗅覚の鋭さはもちろん、金を獲得するために立ちはだかる問題を金で解決するという柏木の考え方に、金の持つ力や恐ろしさが感じられます。

 

『後妻業』の魅力4:竿師に騙された!?意外な展開

 

9人もの男性を手玉に取り、遺産を獲得してきた悪女である小夜子でしたが、意外なことに自身も騙されるという展開が待っていました。

彼女を騙していたのは、結婚相談所で知り合った舟山善春。不動産で多くの財産を獲得した、不動産王と呼ばれる男でした。

小夜子は彼を次なるターゲットとして近づいていくのですが、その人柄や思想、身体の魅力に囚われ、結婚を考えるようになるのです。しかし、身体の関係を結んだ後に、投資のためのお金を用立ててほしいという言葉に、ようやく目を覚まします。

柏木は早い段階から正体を見抜いていたようでしたが、舟山は竿師と呼ばれる結婚詐欺師でした。竿師とは、性行為を利用して女性を虜にし、金銭などを要求する男性のこと。局部の立派な男性ばかりというわけではないですが、映画版では舟山の局部を「スカイツリー」にたとえるセリフが登場しています。

人間の抱く欲求のうち、性欲がもっとも強く、それらをコントロールすることで人心を掌握していく竿師のテクニック。騙されたのは、自分が騙す立場であるというおごりもあったのでしょう。

小夜子はひと時の夢を見ましたが、それは自身が男性に近づく時と同じように、決して純粋なものではなかったのです。

 

『後妻業』の魅力5:簡単に読める漫画版もおすすめ!

 

本作の映画版『後妻業の女』が、コミカライズされています。

作画を担当したのは、『星守る犬』シリーズなどを手掛けた人気漫画家・村上たかし。線の丸い愛嬌のある絵柄がどこか作品とマッチし、人間の欲望むき出しの物語の雰囲気を、僅かに和らげてくれています。

 

著者
["村上 たかし", "鶴橋 康夫"]
出版日
2017-03-15

 

物語の流れは、原作や映画版と変わりません。注目すべきは、小夜子のビジュアルでしょう。

大竹しのぶ演じる映画版では、垢抜けた女性に見えた小夜子でしたが、漫画版では身ぎれいにしているおばちゃんといった様子。しおらしい態度をとっていれば、遺産を狙っている悪女にはとても見えないでしょう。

だからこそ、最初に見せた彼女の柔らかい笑顔と、ところどころで見せる悪い顔、朋美たちに見せるズル賢さを感じさせる笑顔など、表情の違いに驚かされます。

結婚詐欺をおこなうのは若い女性というイメージがありますが、彼女のように一見普通の容姿だからこそ誰も疑わないという事実に、うっすらと恐怖を覚えますね。

 

『後妻業』の魅力6:結末が気になる!原作、衝撃のラスト【ネタバレ注意】

 

過去の罪状も暴かれ、逆にゆすられることになってしまった柏木と小夜子。絶体絶命となってしまった2人は、どうなるのでしょうか。本多や自身の身辺の対応に追われていた柏木に対し、小夜子は舟山に騙されかけるなど、散々な目に遭います。

柏木は本多を物理的に処理しようと、小夜子の弟である黒澤に殺害を依頼。しかし、計画は失敗します。柏木は黒澤に金を握らせ、沖縄に潜伏するように指示しましたが、渡された金額に納得できなかった黒澤は、小夜子のマンションを尋ねるのです。

一方、朋美と尚子の姉妹は、過去を振り返っていました。耕造は妻を亡くしてから奇行をくり返しており、近所でも笑い者に。自分たちが寂しくさせていなければ、こうはならなかったのかもしれない、と反省するのです。

そんな時、仏壇の引き出しの奥から、耕造の残したもう1枚の遺言書が発見されるのでした。果たして、その内容とは……。

 

著者
黒川 博行
出版日
2016-06-10

 

小夜子や柏木は、自分たちが犯してきた罪に相応の結末が用意されています。

しかし、本作の本題は彼らの結末を描くことではないのでしょう。詐欺の手口など、現実に知っておきたい情報も満載のため、そちらに目がいきがちですが、老いた親とどう関わっていくのか、というテーマが本作には隠されているのではないでしょうか。

元気にしているだろうから、と関係が疎遠になってしまうのは、両親に対する甘えともいえます。しかし甘えられている相手が、いつまでもそれを許容しているわけではありません。置き去りにされた心はぬくもりを求め、その結果付け込まれる隙を作ってしまうのです。

詐欺に引っかかるのを防ぐために家族関係を密にしておこうというわけではなく、自分の家族に関心を持って、最後まで関わっていこうとすることで、防げるということもあるでしょう。

ともに過ごせる時間には、限りがあります。悔いのないよう、残された時間を大切に過ごそうと思わせてくれる作品です。

 

まさか、こんなこと起こるはずが……と思って本作を読んでいたところで、実際に起こった事件が明るみになったこともあり、作品タイトルが猛烈なインパクトを残した本作。本作や来年に放送されるドラマを見て、あらためてお金の魔力や、人間の恐ろしさを感じることになりそうです。

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