「おむすびころりんすっとんとん」というリズミカルな言葉が印象的な昔ばなし「おむすびころりん」。実は原作といわれている物語では、穴の中は「浄土」に繋がっていました。この記事では、あらすじや教訓を解説するとともに、おすすめの絵本も紹介していきます。
日本に伝わる昔ばなし「おむすびころりん」。ねずみたちによる「おむすびころりんすっとんとん」の歌で有名な「おむすびころりん」は、室町時代に成立したといわれる絵入りの短編物語「御伽草子」のひとつに数えられています。
こちらも有名な昔ばなしである「こぶとりじいさん」や、グリム童話の「ホレおばさん」と類似性があるといわれていて、「善いおこないをすれば善い結果が返り、悪いおこないをすれば悪い結果が返ってくる」という意味が込められた、仏教用語の「因果応報」が主題となっています。
では、あらすじをご紹介していきましょう。
ある日、おじいさんが山で木の枝を切っていました。お昼ご飯にしようと切り株に腰掛け、おばあさんが作ってくれたおにぎりを食べようと包みを開きます。すると、うっかりひとつ落としてしまいました。
おむすびは山の斜面をコロコロと転がります。おじいさんも追いかけますが、木の根元にある穴の中へ落ちてしまいました。穴の中からは、「おむすびころりんすっとんとん」と楽しげな歌声が聞こえてきます。
おじいさんが様子をうかがおうと穴を覗き込むと、足を滑らせてそのまま落ちてしまいました。落ちた先にはたくさんのネズミがいました。彼らはおむすびのお礼として、おじいさんにお餅をついてくれています。またお土産にと、大きいつづらと小さいつづらを用意してくれました。おじいさんは小さいつづらを貰い、家に帰ります。
家で待っていたおばあさんにネズミたちとの出来事を話し、小さいつづらを開けてみると、中にはたくさんの小判が入っていました。
それを聞きつけたのが、隣に住んでいる欲張りなおじいさんです。わざとおむすびを穴に投げ入れ、自ら穴の中へと入っていきました。さらには土産をよこせとネズミたちに要求します。ネズミたちが大きいつづらと小さいつづらを用意すると、欲張りなおじいさんはどちらも持って帰りたかったため、猫の鳴き真似をしてネズミたちを驚かしました。
するとネズミたちは、欲張りなおじいさんに噛みついて反撃。欲張りなおじいさんは降参することとなりました。
実は「おむすびころりん」には原作があるといわれています。複数の地方に伝わっている「ねずみ浄土」という物語のあらすじを紹介しましょう。
ある日おじいさんは、焚き木用の枝を刈りに山へと出かけます。おばあさんが作ってくれたきゃんば餅を食べようと包みを開けると、餅の香りにつられて子ネズミたちがたくさん集まってきました。おじいさんは彼らのために、餅を小さくちぎって与えます。
喜んだ子ネズミたちは、おじいさんと担ぎ上げて自分たちの巣穴に連れていきます。そこには親ネズミが待っていて、きゃんば餅のお礼にとネズミ餅を差し出してくれました。
家に帰ったおじいさんが、今日の出来事をおばあさんに話し、ネズミ餅の包みを開けると、なんと中身がすべて小判に変わっていたのです。
その様子を見ていた隣の欲張りなおばあさんは、さっそくきゃんば餅を作り、次の日に欲張りなおじいさんに持たせて同じ場所に向かわせます。しかし欲張りなおじいさんは、餅をちぎることなく大きいまま穴へと放り投げ、ネズミたちを驚かせてしまいました。それでもネズミたちは、おじいさんを担いで巣穴へと連れていきます。
欲張りなおじいさんは、ネズミ餅を全部奪ってしまおうと企み、猫の鳴き真似をして脅かします。すると慌てたネズミたちは、明かりを消して一斉に逃げ出しました。そうしておじいさんは、穴の中から出られなくなったそうです。
室町時代において、ネズミは「根住み」と表され、「根の国の住人」といわれていました。「根の国」とは日本神話に登場する異界のことで、日本最古の歴史書である『古事記』には、出雲大社に祀られている神の大国主が根の国を訪れた際に、ネズミたちに危機を救われたという逸話も記されています。
また「根の国」の入り口は、死者が住む「黄泉の国」の入り口と同じだとされていて、もともとは仏教における「煩悩や穢れのない清らかな世界」である「浄土」や、琉球に伝わる理想郷「ニライカナイ」と同源だという説もあります。
つまり、「ねずみ浄土」の物語のなかでネズミたちが出入りしている穴は、「楽園への入り口」だったのかもしれません。
そのような場所できゃんば餅を分けあって食べたことは、おじいさんにとっても子ネズミたちにとっても素敵な時間だったのでしょう。だからこそ、親ネズミもおじいさんに感謝をし、ネズミ餅(小判)を渡したと考えられます。
その一方で欲張りなおじいさんとおばあさんは、自分たちが得をすることばかり考えていました。欲にまみれた心でネズミたちに接したため、穴から一生出ることができなくなってしまったのです。おばあさんも、欲張りなおじいさんの帰りをずっと待ちながら、寂しい時間を過ごしていくのでしょう。
驚いたネズミたちが家の明かりを消したことは、楽園であるはずの「浄土」が簡単に消え去ってしまうということを表しているのかもしれません。
ちなみに「きゃんば餅」とは岩手県の郷土料理です。本作は複数の地方に伝わっている話ですが、発祥は岩手県ではないかと考えられています。
この物語をとおして学べる教訓は、冒頭に紹介した「因果応報」とあわせて「小さいものや、弱いものを大切にするべき」ということではないでしょうか。
人間からすると、ネズミは小さくて弱い生き物です。おじいさんは、相手がネズミであっても威張ることなく、優しく接しました。また大きいつづらと小さいつづらを差し出されても、欲張ることなく小さいつづらを選びます。その結果、小判というお礼を受け取ることができました。
その一方で欲張りなおじいさんは、自分のことばかりを考え、小さなネズミたちに乱暴に接します。またわざとネズミたちが怖がる猫の鳴き真似をしたことで、最終的には何も得することのない大変な結末を迎えることになりました。
相手を思いやり、謙虚に優しく接することの大切さを伝えてくれています。
- 著者
- 松谷 みよ子
- 出版日
- 2006-12-10
一般的にはおじいさんが主役となっている「おむすびころりん」。しかし本書では、おばあさんが大活躍します。
おじいさんにお弁当を届けに行く途中で、おばあさんが穴の中におむすびを落としてしまうのです。新鮮な気持ちで読むことができるでしょう。
長野ヒデ子のイラストは、表情の豊かさと明るい色合いで。読者に元気を与えてくれます。また松谷みよ子の文章は、方言混じりでリズム感のよいもの。声に出しながら読むとより一層物語を楽しめるのではないでしょうか。
- 著者
- いもと ようこ
- 出版日
- 2007-12-01
あたたかみのある優しいイラストと、シンプルな文章が魅力の絵本です。
本書の特徴は、文字の配列が物語の内容にあわせて工夫されていること。たとえばおむすびが転がっていく場面では、行ごとに文頭の高さを変えて斜面をイメージできるようになっているのです。またネズミの歌声の部分は丸いフォントになっているなど、絵だけでなく文字も見て楽しめる作品になっています。
大型本なので、読み聞かせにもおすすめの一冊です。
- 著者
- さくら ともこ
- 出版日
文章を手掛けているさくらともこは、童謡の作詞、作曲などもしている人物。本書の文章は七五調になっていて、リズムよく読めるようになっています。
またタイトルに「みんなでやろう」とあるとおり、複数人で「おむすびころりん」の劇遊びができるようになっているのが特徴。セリフには登場人物それぞれマークがついていて、役割分担をしながら読める仕様です。
オノマトペも多用されていて、登場人物の動きを想像しながら読める作品です。